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1998年7月 (1日〜10日)


1 INET GATE 1998/07/01 00:41
題名:[lex] corpora links based on Kennedy {1}

Date: Wed, 1 Jul 1998 00:08:13 +0900
From: Yukio TONO <>
Reply-To:
To:

投野@ランカスター大Dです。

On Tue, 30 Jun 1998 15:09:29 +0100
"Hiroshi Shoji" <> wrote:

> 今回御紹介する新刊書も辞書自体を論じたものではありませんが、コーパス言語
> 学の包括的な入門書としてはおそらく最新のものと思われます。
>
> Kennedy, G (1998) An Introduction to Corpus Linguistics, Longman

私のランカスターのホームページの1部で、Kennedy 教授の許可を得て,彼のコー
パス分類に基づいたリンク集を作成中です。自分の勉強用と言うところですが、
各コーパスごとに世界中の関連リンクを集められるだけ集めてあります。まだ全
部完成していませんが,興味のある方はご覧になってみてください。

http://www.lancs.ac.uk/postgrad/tono/resources.html

です。

*************************************
YUKIO TONO
MPhil/PhD student
Department of Linguistics
Lancaster University
Lancaster LA1 4YT
U.K.
email:
URL: http://www.lancs.ac.uk/postgrad/tono/
tel: +44 1524 593028 (department)
fax: +44 1524 843085 (department)
*************************************


1 INET GATE 1998/07/01 00:42
題名:[lex] コービルド物語6 {1}

Date: Wed, 01 Jul 1998 00:24:00 +0900
From: 村田 年 <>
Reply-To:
To:

        バーミンガム学派の人々(6)

                      村 田   年
  コンピュータ・パーソン

 アレックスは情報処理で修士号を取ったコンピュータの専門家だ。初日に10時に出
勤すると約束通り待っていてくれた。マッシーンは扱えるか、と聞くので、生まれて初
めてだがワープロなら打てると答えた。それから自分がどんなことをやりたいかを説明
した。この説明で彼はワークステーション・マクベスの一般英語 Twenty(2000万語)
というコーパスを選び、コンク20 と マルチコルムという2つのプログラムが使えるよ
うにしてくれた。この時の彼の判断はたいへんよく、この2つのプログラムが私の仕事
には最適であることが後でわかった。
アレックスは細身で、すらっと背が高く、少年のような感じの、おとなしい青年だっ
た。声が小さく、無駄口はいっさいたたかない人だった。私のファースト・ディレクト
リーは /u/prospero/minoru でワーキング・デイレクトリーは cd/junk/minoru だと言
う。どうして2つあるのかわからなかったが、ともかく始めてみる。簡単に資料が出て
来る。わかった、サンキュー、と言ったら、アレックスは帰ってしまった。
 さてもう一度とやってみると、今度はコーパスが出てこない。仕方がない。部屋の準
備をしよう、とスリッパを出して履き、本やノートや紙などを机の上に置いた。それか
ら下のオフィスに挨拶に行くと5ポンドのデポッジットと交換に玄関と部屋の鍵をくれ
た。ジュンとフミオがロビーでコーヒーを飲みながら話をしていたのでそれに加わった
。部屋に戻り、さて具体的になにをやるか、決めなければならない、和英辞典とコービ
ルドの辞典で類義語のグループを選んでみようと思った。
 そこへアレックスがきてくれた。全然だめで、プログラムに入れないんだ、というと
、マシーンの電源は24時間つけっぱなしでいいんだ、そうすればいちいち最初からや
る必要はないとのことでやっと コンク20 だけは扱えるようになった。しかしまたすぐ
に、わからなくなる。アレックスは口が重い。聞いたことしか教えてくれない。すぐ次
がわからなくなる。アレックスの部屋へしょっちゅう出かけて行くことになる。
 fat を出してみる。リターンキーを押すと、1376の用例が、fat の左の語をアルファ
ベット順にして、右の語をアルファベット順にして、資料に入れた順で、の3通りのい
ずれかで出て来る。画面では fat を中心にして左右 45文字ずつ出て来る。さらに前後
関係を見たいときは、その行にカーソルを合わせてキーを押すと、前後5行が出てきて
、その資料の作者、作品名その他の情報もわかるようになっている。これはどこにでも
よくあるプログラムだ。唯一違うのはものすごくデータベースが大きいという点だ。
 高木さんに頼まれていた thin rain(霧雨)を調べてみた。
thin + rain と入れて、リターンキーを押すと、2例出てきた。アレックスはこんな言
い方はないと言う。まわりの何人かに聞いたがやはりこんな表現はないと言う。2例ぐ
らいでは信用できないということか。さっそく高木さんに手紙を書いて知らせた。
マルチコルムはシンクレアを中心にコービルドの人たちが考え出したもので、優れた
プログラムである。まだ出来上がったばかりで研究に使うのは私が初めてのようだ。と
にかく便利だ。例えば、
pretty についてやってみると、pretty の次の語として何が一番多くて、その頻度がい
くつか、すぐにわかる。多い順に頻度2まで出て来る。pretty の右側4語、左側4語
について出せる。これはいろいろな使い道があると思った。
 とにかくこのデータベースは気に入った。私が期待した通りのものだった。きっと有
意義な6週間となるだろうと浮き浮きした。しかしマシーンはすぐに動かなくなる。聞
きに行くとアレックスはあきれた顔をして見に来てくれる。習うより慣れよ、でなんと
かプリントアウトも、ディレクトリーへの入れ方も、ディレクトリーから消すことも、
たいていのことはできるようになった。
 コンピュータ・パーソンのゾイがやってきて、何でもわからないことがあったら私に
聞いてくれと言った。マルチコルムの画面をみてこれはアレックスが作ったプログラム
で私はよく知らないけど、というようなことを言ったので、ほんとに新しいんだなと思
った。ゾイは私が手で書き出しているのを見て、どんどんプリントアウトしていくらで
も日本に持って帰ったらいい、また、フロッピに取りたければ私に言ってくれと親切に
言ってくれた。
 しかし私がマシーンの扱いに慣れ、フロッピが6、7枚になると様子が違ってきた。
誓約書を書いてもらわなければ、お金をいただくことになるかも知れないとも言われた
。旗色が悪くなってきた。仕事をし過ぎたようだ。もう11の調査をした。この辺でや
めることにした。施設使用料は1日25ポンドだ。まだ日が1週間ちょっと残っている
が、フィニッシト!フィニッシト!と言って歩いて、もう金は払わないことにした。ア
ントワネットはコービルドから言われて誓約書の書式を作っていた。明日からはストラ
ットフォードやウォリックやオックスフォードなどへ観光旅行をすることにした。
コンピュータ・パーソンはもう一人いる。ヘッドのティムで、彼は何でも知っていた
。あるとき私の質問に答えられなくて、ティムのところへ行ってくるとアレックスが言
ったときにはうれしくなった。ティムも親切で、ヘルプ!ヘルプ!と走っていくと、帰
っていいよ、言う。戻ってみるとマシーンは直っていて、「オール・ライト?バイ、バ
イ!」というメッセージ入っていたりする。データベースは日進月歩で毎日どんどん膨
らんでいく。プログラムも次々と作られる。そこでティムは時々講習会を開いてはみん
なを教育している。
『BBC英語辞典』のコンピュータ・プログラムはティムの援助を得てゾイが担当した
。彼女はどうしても私に一冊献呈したいと言って聞かなかった。帰りの荷物が多くても
う限界だと思っていたが、サインをして持ってきてくれたのを有難くいただいた。ティ
ム、ゾイと3人で辞書を持って記念撮影をした。その辞書は手元にはない。ロンドン大
学で推奨したため、無心されてユニバーシティ・カレッジのサーベィに置いてきてしま
った。

   セクレタリーの クリス

クリスはアントワネットからムラタの世話をするように指示され、余計な仕事が一つ

えたわけだが、嫌な顔一つしないで、よく私の面倒をみてくれた。ある時本を日本へ送
るため段ボールの空箱(ブラウンボックスと言う)をもらいに行ったら、本を持ってき
てくれたら私がやりますよ、と言って実に丁寧に荷造りしてユニバーシ
ティ・ポストオフィスに持っていってくれた。昨日郵便局へエアログラムを買いに行っ
たら休み時間で往復1時間無駄にしちゃったと言うと、私に言って下さい、明日までに
は買っておきますからとくる。
 この場合「指示」が大事らしい。クリスが2週間の夏休みを取った。手紙を書くため
パソコンかタイプライターを借りたいと思ってオフィスへ行くと、2人いるセクレタリ
ーは、私はマルカムのセクレタリーで、彼女はギネスのセクレタリーなの。あなたはア
ントワネットのところに来たんでしょう、と聞く。いや、ぼくはマルカムのインビテー
ションで来たんだ、だからちょっと貸して下さいよ。 「だめです。その間私は仕事が
出来ないもの。それに打っている 途中なんですよ」
「それじゃレターパッドだけでももらえませんか。ボールペンで 書きますから」
「マルカムのはユニットでコービルドではないんです。これを使 われては困ります
」 「ぼくは正式にはコービルドに来たんじゃなくて、ユニットにき たんだけど」
いやー、クリスがいないとだめだ、しかし、アンだったら引き下がらないだろうな、
と思った。所詮私は愚図で、英語のできない日本人だ。
廊下に雨漏りの後があった。古いマナーハウスだから仕方がないのだろう、と思って
いたら、ある日4、5人の作業員が来て突然廊下の壁を崩し始めた。そのころまでには
紙を張り合わせて作ったコロケーションの頻度表は30枚ぐらいになっていた。それが
全部ほこりだらけで、ざらざらになってしまった。私はほこりは大嫌いだ。日に何回も
自分の机を拭き、また口でも吹く。ダスティー!ダス
ティー!とクリスのところへ飛んで行った。
 ぞうきんとはたきを貸してくれと言うと、プロフェッサー、私がやりますよ、とクリ
スはあくまで親切だ。しかしここの人たちはほこりぐらいで動じない。私は一人で何度
も何度もはたいたり、ぞうきんで拭いたりした。ドアーを閉めてもどういうわけかドア
ーの上の方が大きく開いている。私があまり騒ぐものだから、工事の人たちは透明のビ
ニールで廊下を遮断して、仕事をしてくれた。そのおかげで今度はアレックスのところ
へ行けなくなってしまった。
 ロビーで紅茶を飲みながら、アレックスのところへ行けなくなっちゃって困ったとい
うと、こっちの階段から行けばいいのよ、とゾイが教えてくれた。なーるほど、コロン
ブスの卵だ、と感心しながら行ってみた。こちらの階段はじゅうたんが敷いてあって、
私が使っている階段の2倍も広い。ははーん、こちらが家族が使った階段で、向こうは
召使が使った階段かと納得した。このことを何人かの人に話したが召使が使った階段と
いう想像をした人はいなかった。なるほど2階には小さな、ドアーのちゃちな部屋がい
くつかある。召使は5、6人はいたのであろう。
召使は今でもいる。掃除の2人の女性だ。この女性達はみんなが出勤する前に掃除を
する。実際にはのろいものだから、11時頃までやっている。私は出勤が早いので、ご
みを集めにくる頃にはもう仕事を始めている。いつも挨拶をして、今日は寒いぐらいだ
ね、とか言うようにしている。ほこりまみれになった翌日、白人のほうがごみを集めに
きたので、床をクリーナーでやってくれないか、ものすごくダスティーになっちゃって
、と言ったら、金曜日にここはあのもう一人のレディがすることになっているの、とや
る気がない。二度三度頼んだらやっと下のトイレから掃除機を持ってきて掃除してくれ
た。なるほどレディという言葉はおもしろい。掃除の女性たち以外にはこの単語を使う
人はいない。今の問題が終わったら、
lady, woman, girl, wife と gentleman, man, boy, husband をちょっと調べてみよう
と思った。
 ここの人たちはだいたい二人の掃除の女性には挨拶もしないし、声も掛けない。広い
トイレの中に掃除の道具があって、私などが入っていくと、ソーリーと行って慌てて出
て行く。ソーリーなのはこちらの方なのだが。差別は厳然として存在する。私が挨拶す
るものだから、大学の構内で会ったときも向こうからハローと声をかけてくれる。
クリスはまた休みを取ると言う。するとこれがお別れかと思い、握手をして、お礼を
述べた。送るものがあったら今日の内にと言われて、出来上がっている頻度表を全部送
ってしまうことにした。
 クリスを見ていると、バーミンガムの事務員はどうなのかがわかる。出勤の時間は9
時らしいが、実際は9時半から11時ぐらいの間に出て来る。セクレタリーとして頼ま
れた仕事をマイペースでやっている。夏休みなので子供を連れてきて仕事をしていたり
する。ほかの人もそうだ。学部の方のセクレタリーも昼食に行ったまま、2時を過ぎて
も帰ってこなくて困ったこともある。かなりのんきに仕事をしている。仕事はまかされ
ていて、いちいち上司に許可を求める必要がない点が日本の事務官と最も異なる点だと
思った。
マルカム+クリス というクリスマスカードが来た。おそらくクリスが出してやるか

と言ってマルカムにサインさせたのであろう。まだ私のことを忘れないでいてくれる。
礼状も出さないで失礼をしてしまった。


2 INET GATE 1998/07/01 10:11
題名:[lex] {1}メビウス65

Date: Wed, 01 Jul 1998 09:47:34 +0900
From: 赤野 一郎 <>
Reply-To:
To:

Forwarded by 赤野 一郎 <>

------------

各位

 第65回メビウス研究会の予定が次のように決まりましたので、お知ら
せいたします。

 日時: 7月11日(土) 13:30〜16:30
 場所: 京都外国語大学6号館 663教室(今回はいつもの会場とは
     異なっております。ご注意ください)

 発表者: 立石浩一先生
 タイトル: パソコン1台でどこまで言語学が出来るか
 概要:   言語研究と情報処理というのは、すでに10年以上の間、
       密接な関係を保ち続けています。今回の発表では、1ユー
       ザーとしての立場での経験より、言語の学問にどれだけコ
       ンピューター、ことにパーソナルコンピューターの使用が
       有用であり、また有用になれるかについて論じたいと思い
       ます。英語学プロパーというより、英語学・言語学を題材
       としたコンピュータ使用の実際について、経験則から語り
       たいと思います。

 後半は、毎年恒例の、京都外国語大学大学院2回生による修士論文の中
間発表です。

  小田 稔大氏
  Phonological Observations of the West-Saxon Dialect in Beowulf

  渋谷 良方氏
  On English Adjective Past Participles

ご来場をお待ちもうしております。

                       小野隆啓()
                      98年度メビウス研究会世話役


4 INET GATE 1998/07/01 17:00
題名:[lex] 正誤の判断 {1}

Date: Wed, 1 Jul 1998 16:35:43 +0900
From: "Matumoto Yosihito" <>
Reply-To:
To: <>

佐賀の松本@MCSです。and の用法で、正しいのか、間違っているのかわからない
文がありました。

"We respect our old people." she says. "That's what I teach my children,
the same that my mom and dad taught me, to respect others and make
them respect you too." (某高校生用のリーダーテキストより)

で、最後の and が結んでいる respect と make です。辞書を見る限りでは、主語が
ずれている場合「文+文」や「節+節」で書いてありますし、多くの生徒がこの文の
意味をとれませんでした。

この and の用法はよくある用法なのかどうか、ご存じの方がいらっしゃいましたら
よろしくご教授お願い申しあげます。


2 INET GATE 1998/07/01 18:38
題名:[lex] corpora links based on Kennedy {2}

Date: Wed, 1 Jul 1998 10:18:40 +0100
From: "Hiroshi Shoji" <>
Reply-To:
To: <>

東海林@バーミンガムです。

投野先生:

>私のランカスターのホームページの1部で、Kennedy 教授の許可を得て,彼の
コー
>パス分類に基づいたリンク集を作成中です。自分の勉強用と言うところです
が、
>各コーパスごとに世界中の関連リンクを集められるだけ集めてあります。まだ

>部完成していませんが,興味のある方はご覧になってみてください。

早速拝見させていただきました。
大変有益なリンク集だと思います。
これにKennedyの言う'Second generation mega-corpora'へのリンクが加われ
ば、現時点でほぼ最強のリンク集になりますね。
貴重な情報を提供していただき、ありがとうございました。

Hiroshi Shoji
Visiting Research Fellow
CARE, University of Birmingham
(English)
(Japanese)


1 INET GATE 1998/07/01 18:39
題名:[lex] コービルド物語6 {2}

Date: Wed, 01 Jul 1998 18:18:06 +0900
From: kazuo kato <>
Reply-To:
To:

村田先生:

加藤@岩手医大です.

マナーハウスの描写おもしろく読ませていただきました.

>  ここの人たちはだいたい二人の掃除の女性には挨拶もしないし、声も掛けない。広い> トイ
レの中に掃除の道具があって、私などが入っていくと、ソーリーと行って慌てて出> て行く。ソ
ーリーなのはこちらの方なのだが。差別は厳然として存在する。私が挨拶す> るものだから、大
学の構内で会ったときも向こうからハローと声をかけてくれる。

1979年の Reading の CALS (Centre for Applied Language Studies) では
お互いにちがう class の人にも挨拶はしていましたが,やはり class がある
と再認識させられることがいろいろありました.

私が "Independent Study" の題として Dad,Daddy などの親族名称の用法の
研究を選んで実態調査を始めたのですが,working class の informants がい
なくて困っていると指導教官に言うと,紹介してくれた相手が掃除のおばさん
でした.たしか面接の様子を録音してそれを再生して聞いていたとき,「Cato
(私は Reading では Kazuo ではなく Cato と呼んでもらっていました),今
彼女が "you was ..." と言ったのに気がついたか」とその指導教官にいわれま
した.私は面談の内容を理解するに注意を集中していたので,聞き漏らしてし
まっていたのですが,なるほどと思いました.
今,P.D. James, Original Sin (1994) を読んでいるのですが,その中にも
"you was ..." という登場人物が出てきて,昔のことを思い出しました.
パブの class の問題もありますが,長くなりますから止めます.

次回の「コービルド物語」を楽しみにしております.


20 INET GATE 1998/07/02 11:34
題名:[lex] 正誤の判断 {2}

Date: Thu, 02 Jul 1998 11:14:57 +0900
From: kazuo kato <>
Reply-To:
To:

松本先生:

加藤@岩手医大です.

Matumoto Yosihito wrote:
>
> 佐賀の松本@MCSです。and の用法で、正しいのか、間違っているのかわからない
> 文がありました。
>
> "We respect our old people." she says. "That's what I teach my children,
> the same that my mom and dad taught me, to respect others and make
> them respect you too." (某高校生用のリーダーテキストより)
>
> で、最後の and が結んでいる respect と make です。辞書を見る限りでは、主語が
> ずれている場合「文+文」や「節+節」で書いてありますし、多くの生徒がこの文の
> 意。をとれませんでした。
>
> この and の用法はよくある用法なのかどうか

何が問題なのかよく理解できないところもありますが,私にはこの文はごくあ
たりまえの文のように思われます.つまり,「others を respect し, them
(= others)にも you を respect させる」ということではありませんか?
主語を補えば, you respect others and you make them respect you too と
いうことで,特に変わったところはないように思いますが.


18 INET GATE 1998/07/02 13:01
題名:[lex] コービルド物語6 {3}

Date: Thu, 02 Jul 1998 12:38:32 +0900
From: Minoru MURATA <>
Reply-To:
To:

加藤先生

村田 年です.

kazuo kato <> さんは書きました:
> 村田先生:
>
> 加藤@岩手医大です.
>
> マナーハウスの描写おもしろく読ませていただきました.

   お言葉いただきましてありがとうございます.

> 私が "Independent Study" の題として Dad,Daddy などの親族名称の用法の
> 研究を選んで実態調査を始めたのですが,working class の informants がい
> なくて困っていると指導教官に言うと,紹介してくれた相手が掃除のおばさん
> でした.

   私は「呼称」の問題には興味がありますね.日本語の場合はさまざま
   ですが,英語の場合でも,人に呼びかける場合,場面や親しさの度合
   いに応じて微妙な変化があるのではないでしょうか.


14 INET GATE 1998/07/02 14:56
題名:[lex] RE: [lex] 正誤の判断 {2} {1}

Date: Thu, 2 Jul 1998 14:30:27 +0900
From: "Matumoto Yosihito" <>
Reply-To:
To: <>

加藤先生、メールをありがとうございます。

>私にはこの文はごくあたりまえの文のように思われます.
>つまり,「others を respect し, them(= others)にも you
> を respect させる」ということではありませんか?
> 主語を補えば, you respect others and you make them respect
> you too ということで,特に変わったところはないように思いますが.

and の後の make の主語ですが、that (=to respect others または
to respect our old people)だとばかり思っておりました。(^_^;)

you respect others and that (または it) makes them respect you too. と考え
ていました。

少し頭が固かったようです。(^_^;;)


9 INET GATE 1998/07/02 17:06
題名:[lex] 呼称としての親族名称(1) {1}

Date: Thu, 02 Jul 1998 16:44:13 +0900
From: kazuo kato <>
Reply-To:
To:

加藤@岩手医大です.

1979年夏に University of Reading の CALS(Centre for Applied Lan-
guage Studies) で研修したとき,"Individual Project" で英語の親族名称に
ついて小規模な現地調査をしたことがあります.その結果は "When does
MUMMY become MUM, Daddy?--Address by kinship terms and its variation,"
「岩手医科大学教養部研究年報」No.14,pp.89-97 にまとめました.少し古い
話で恐縮ですが,言語の用法と辞書の限界についての話題提供にはなるかもし
れません.
親族名称についての関心は個人的なものです.私は秋田の農家の生まれで,
子供のころは父母を「おど」「あば」と呼んでいました.ところが,高校生の
ころになるとその「土くささ」のようなものが恥ずかしくなりだして,「おや
じ」「おふくろ」に切り替えました.そして,自分の子供が生まれると,「じ
っちゃ」「ばっちゃ」に変えました.そういうことが英語でもあるのかという
のがことの始まりです.(以下の引用ではイタリックは大文字に変えてありま
す.)
昔の中学・高校用の英語教科書の問題点を指摘した研究紀要に Some Problem
Spots in Current English Textbooks(愛媛大学教育学部 英語教育研修所,
1959)があり,その p.17 に "Don't open my bookcase, Daddy!" という教科
書の文について「DADDY は小児語.中学生の年齢では too old to call his
father "Daddy" である. MAMMY も小児語.」というコメントがあります.
ところが,1963年から1964年にかけて Austin の Texas 大学に留学し,あ
るパーテイに招かれて中年の歯科医と話をしていたとき,話題がたまたま私の
家族のことになり,私は自分の父のことを "my father" と言っていたのです
が,
彼の方では,"your Daddy" と言い,時々私の "my father" が気になると見え
て,
"your father" と言い直したりしていました.
後で,北東部出身の小児精神科医 Robert Coles の Children of Crisis
(Delta Books, 1967) という南部の人種差別撤廃運動下の人間群像を描いた本
を読んだとき次のような個所を見つけて,「なるほど」と思いました:
"Daddy [Southern fathers can be 'daddy' to their children forever
without embarrassment] had a bad temper, and I took it all myself."
(このことについては1974年1月号の「英語青年」の「英語クラブ」というコラ
ムに書いたことがあります.)

次は同一人物の同一時期の親族名称の使い分けについてです.Ernest
Hemingway の短編小説に "Indian Camp" というのがあります.これは主人公の
少年 Nick が医師の父親に同行してインデイアン部落に行き,父親がジャック
ナイフとつり用のテグス糸というきわめて原始的なやりかたで帝王切開手術を
する場面と,妊婦の夫の自殺を目撃する話ですが,その島へ行くボートの中で
Nick 少年は "Where are we going, Dad?" と言います.しかし,帰りのボート
の中では "Is dying hard, Daddy?" と父親に質問します.
Defalco, J. (1963), The Hero in Heminway's Short Stories (University
of Pittsburg Press) はこの違いに注目して,Dad から Daddy への切り替えは
Nick の "rever[sion] to infantile dependence" を表すと分析しています.
この短編の日本語訳は「どこへ行くのよ,おとうちゃん?」「死ぬっていう
のは苦しいことなの,おとうちゃん?」です.ここで私は翻訳を批判している
のではなく,英語の親族名称の用法の一端を示すのが目的です.Dad と Daddy
のこの差は多分翻訳不可能でしょう.(ただ,主人公の年齢を考えると「おと
うちゃん」よりは「おとうさん」の方がよかったのではないかという気がしま
す.)
以上,呼称としての親族名称の用法に関係する要因としては,年齢がある
が,地域差も無視できないこと,また,同じ個人でも状況によっては両者を使
い分けることがあることを指摘したつもりです.
更に,社会階層・階級的な違いも考慮に入れなければなりません.次の引用
は,英国の "working class" 出身の作家 Stan Barstow, A Kind of Loving
(Penguin Books, 1962) の一節です:

'He's really hardly ever at home,' Ingrid says. 'Mother says it's
like being married to a sailor.' (I notice the way she says 'mother'
and not 'my mother' or 'me mam', and this puts her family a notch
above mine straight away.) (p. 104)

このほか,血縁関係の濃淡というような要因もありますが,今回はここまでに
します.


6 INET GATE 1998/07/03 19:16
題名:[lex] 呼称としての親族名称(2) {1}

Date: Fri, 03 Jul 1998 18:49:38 +0900
From: kazuo kato <>
Reply-To:
To:

加藤@岩手医大です.

前回の分に Stan Barstow, A Kind of Loving の一節の引用がありましたが,
その中の 'me mam' の 'me' は "my" の意味で,発音は [mi:] ではなく[mI]
です.次の引用は前回の私個人の父母の呼び方の記述の英語版みたいなもの
です:

As a simple illustration of language selected in response to the
interrelationships of speakers, consider the vocative in English
sentences and the case of the middle-class young Englishman, perhaps
of public school background, addressing his mother. The often observ-
able use of her Christian name may give offence to some but reflec-
tion shows that the options open to the young man are few. MUM has
class connotations which he may not 'overcome', if at all, until he
is a good deal older, MUMMY became impossible for him to use from the
age of 10 or 11 or thereabouts, and MOTHER might suggest to some a
measure of old-maidishness or the status of a bachelor living with
his mother. There seems therefore to be few available choices other
than the use of the Christian name or the adoption of a deliberately
jocular form such as MA.
----Mitchell, T. F. (1971), "Linguistic 'goings on': Collocations and
other lexical matters arising on the syntagmatic record," Archivum
Linguisticum 2 (new series), 39-40.

一般的に言って Mummy,Mommy, Daddy などように -y という指小辞のつい
た呼び方は幼児語であり,上の引用にある通り -y のつかない形に「卒業する」
のが普通ですが,-y 形がまったく用いられないということではなく,前回の
Hemingway の引用で見たように使い分けをすることがあります.私が面接した
中学生ぐらいの年齢の少年は次のように言っていました:

"You use MUMMY when you want to wheedle something out of her, but
usually MUM."

また,前回の分でふれなかったことに性差の問題があります.Schneider, D.M.
and Homans, G.C. (1955), "Kinship terminology and the American kinship
system," American Anthropologist 57 (no. 6, Part 1), 1194-1208 によると
米国社会では次のような傾向があるということです.つまり,女性は daddy の
ような指小形を使い続けることに男ほど抵抗を感じないということです.(し
かし,この論文は50年近くも前のものですから,最近のアメリカでは少し様
変わりしているかもしれません.日本でも最近では自分の両親について教師に
語るとき「お父さん」「お母さん」と言って平気な大学生が沢山いますから.)

daddy-->dad daddy-->daddy
MALE { FEMALE {
mommy-->mom, ma mommy-->mother

私が面接した一人も "Girls tend to go on saying DADDY and MUMMY more
than boys." と言っておりました.小説や伝記などから集めた手元の用例も同
じような傾向を示しています.しかし,多少後ろめたい思いをしながら daddy
を使い続ける人もありますし,まったく当然のことのように使っている人もい
て,個人の感じ方にはかなり大きな差があるようです.

前回米国南部では大人になっても平気で daddy を使うという観察をしました
が,英国の場合は階級差という要因もありそうです.Informants のなかには
daddy は "upper class" で "precious" だという人もいました.例えば,John
Osborn の "Look Back in Anger" (1956) の登場人物 Jimmy Porter と妻の
Alison は Alison の両親(upper middle class か upper class)のことを
Daddy, Mummy と言い,Alison は父親がフラットを訪れたとき Daddy と呼んで
います.
調査中に30代か40代の独身女性で母娘二人暮らしの女性(父は入院中で
不在)が Mummy と呼びかけているのを目撃したことがあります.この女性は一
人っ子だったので,母親との関係の密接さが少し関係があるのかもしれません.
ただ,自分で実際にどういう使い方をしているかは別にして,改まって外国人に
聞かれるとほとんどの場合 Mummy は「子供っぽい」という答えが返ってくると
考えていいようです.
面白かったのは,兄弟姉妹が多数いる場合,下の兄弟は「早熟」で早くから
Mum を使い始める傾向があるという観察でした.上の兄弟を見習って「背伸び」
をするのかもしれません.

今日はもう時間がなくなりました.次回は「しゅうと」や継母をどう呼ぶかと
という問題について報告します.


5 INET GATE 1998/07/03 19:19
題名:[lex] 呼称としての親族名 {1}称(1) {1}

Date: Fri, 3 Jul 1998 19:18:24 +0900
From: (SATO Hiroaki)
Reply-To:
To:

papaとmamaの使用回数を434作品のレーザーディスク映画で調べて,papaとmamaの合
計使用回数の合計が多い順に並べます。

順位 Title, Year, mama, papa, papaとmamaの合計使用回数
1 Fiddler on the Roof(屋根の上のバイオリン弾き),71年,18,66,合計84回
2 Heaven & Earth(天と地),93年,19,34,合計53回
3 Anne of Green Gables 2(続・赤毛のアン),88年,31,18,合計49回
4 Driving Miss Daisy(ドライビング・ミス・デイジー),89年,31,2,合計33回
5 Beauty and the Beast(美女と野獣),92年,8,21,合計29回
6 Scarface(スカーフェイス),83年,25,2,合計27回
7 Tina(ティナ),?年,23,0,合計23回
8 "Color Purple, the(カラーパープル)",86年,20,3,合計23回
9 Swing Kids(スウィング・キッズ),94年,16,5,合計21回

注目すべき点が2つあります。

1つは,1,3,5,8,9で描かれた時代が,50年以上昔だということです。

もう1つは,3以外の映画では,主な登場人物が「キリスト教徒白人英米人」以外で
あることです。1はユダヤ系ロシア人(この映画はミュージカルで,papaを繰り返す
歌詞があるため使用頻度が高い),2はベトナム人,4はユダヤ系アメリカ人,5は
昔話の世界,6はキューバ人,7,8は黒人,9はドイツ人。

アメリカ映画はインチキですから,ロシア人やドイツ人にも英語を話させます。まと
もな英語分析の資料には使えません。でも,映画製作者がpapaやmamaを「キリスト教
徒白人英米人」以外がよく使う言葉であると思っているらしいことが,映画のデータ
を眺めていると,伝わってくるような感じがします。映画を観た観客は,映画の言葉
遣いに(たとえ,それが間違っていても)言語的な影響を受けるはずです。

  "Nature imitates art"--Oscar Wilde
 「自然(言語)は芸術(=映画)を模倣する」(佐藤弘明訳)
___________________
佐藤弘明
(SATO Hiroaki)
専修大学商学部


1 INET GATE 1998/07/04 12:48
題名:[lex] 呼称としての親族名称(3) {1}

Date: Sat, 04 Jul 1998 12:31:52 +0900
From: kazuo kato <>
Reply-To:
To:

加藤@岩手医大です.

佐藤弘明先生,映画の papa, mama の用法についての情報とコメントありがと
うございました.

前回予告した「しゅうと」や継母の呼び方について報告する前に,兄弟姉妹間
でも呼び方が異なることがあるという事実にふれたいと思います.
あるインフォーマントは二人の娘が親を呼ぶのに別な呼び方をすると報告し
ました.18歳の長女は Dad, Mum,16歳の次女は Mother, Father というと
言うのです.このインフォーマントは,これは二人が通っている学校に関係が
あるかもしれないと言いました.二人は別々の学校に通っていて,次女の通っ
ている学校は "more academic" なのだそうです.
また,別のインフォーマントは自分の家では一人の娘は Dad で,もう一人は
Daddy だと言っていました.
話相手によっても言い方が変わることがあります.これは日本語でも自分の
両親について語るときは「父,母」と言っても,本人には「お母さん,お父さ
ん」と言い,自分の兄弟姉妹には「おやじ,おふくろ」を使うといった使い分
けと同じ性質のものでしょう.
あるインフォーマントは自分の兄弟姉妹に両親について語るときには Mum,
Dad で,甥・姪や友人には My Mum, My Dad (時に my old man), 職場の同僚に
は My mother, my father を使うと言っていました.

次に「しゅうと」や継母の呼び方の問題に移ります.ここでは「肉親」度と
でもいう要因が重要な働きをします.なお,以下のインタビューの引用では
FN=First Name,LN=Last Name という略称を使います.
あるインフォーマントは次のように報告していました(テープの英語の固有
名詞は伏せました.また,自然な発話なので必ずしも文法的に整っていないと
ころがあります):

My son-in-law calls me Mrs. LN. I think it becomes very difficult
when you get married to say to your in-laws, calling them as you
called your own mother and father. I couldn't call your [i.e. the in-
formant's husband's] mother MUM. It was always MOTHER. I notice X
[i.e. the informant's sister -in-law] always called her MOTHER LN and
[her husband] FATHER LN. And I called your father FATHER. But I
couldn't call them MUM and DAD like I called my own. Somehow there
was, I don' know, there was closeness with your own mother, and al-
though you become very close with your in-laws, there's just a little
deficiency that gives you a little formality and respect.

別のインフォーマントは自分のしゅうとを MOTHER, FATHER などではなく,
F[irst] N[ame] で呼んでいたと言っていました.

次は継母の場合です.当時ホームステイしていた家庭の20代の娘が実家に
遊びに来たときに彼女は父親に Daddy と呼びかけ,父の妻 (step-mother) は
FN で呼んでいました.この step-mother 自身は子供のころ里親の母を Auntie
と呼んでいたとのことです.
Michael Medved, Hospital (Simon and Schuster, 1982) は米国の病院で働
く人々の人間像をインタビューのテープをもとにして記述した本ですが,その
中に次のような個所があります:

And I really enjoy my stepsons, though it's a painful situation at
times. They see their father every weekend. He's a very successful
orthopedic surgeon on the other side of town, and they really worship
him. They call me Allen and sort of treat me more like a big brother,
though sometimes they call me Dad by mistake.

前回引用した Mitchell は FN しか選択肢が残されないことがあると言って
いますが,次のような場合もあります.60代のインフォーマントの女性は結
婚した娘たちが実家の親を MUM, DAD ではなく,FN で呼びかけると言うので
す:

Another thing I found is that when [our] girls got into [their]
twenties, they said, they feel that you're aging and say, 'Do you
want me to call you MUM and DAD? Would you rather I called you by
your Christian name?' I suppose it's in a way to try and make you
feel younger.
Maybe when they get married they feel they've also become one of
you, you know, you're all matrons, married matrons....

Clinton 大統領は実父を1歳のときになくし,アル中の父親と再婚した母親が
家庭内で暴力を振るわれるのを守ったそうですが,この父親のことは何と呼ん
でいたのでしょうか? しかし,この父親がガンで死ぬときには和解したという
ことですから,そのときは Dad と呼んだのでしょうか?また,彼の母はその後
Kelley という男と結婚して,この人と大統領の中は悪くないそうですから,な
んと呼んでいるか知りたい気もします.
80年代から使われるようになったことばに,離婚者同士の家族を表す
blended families というのがありますが,1991年の国勢調査では米国の
約6400万人の子供の15%がこの blended families で生活していると言
われます.こういう家族での親族名称の用法は伝統的な家族内でのそれとはか
なり異なっているかもしれません.

最後に,「プログレッシブ英和中辞典」(第3版)(1988)の Dad に関する
注について私の感想を述べます.この辞書には「実の父 (father) であっても,
実際に育てていないと dad と呼ばれない」と書いてありますが,上に見たよう
な複雑な現象についてこのような断定をするにはかなり勇気が要るのではない
かと思います.

次回の報告では,子供に向かって自分のことを「お父さん」という日本流の
やりかたが英語にもあることを見たいと思います.


2 INET GATE 1998/07/05 18:34
題名:[lex] COBUILD の 'pragmatics' label {2}

Date: Sun, 05 Jul 1998 18:02:00 +0900
From: 井上 永幸 <>
Reply-To:
To:

加藤先生

井上(島根大学)です。

いつも興味深い書き込みあをありがとうございます。いつぞや書かれていた表
題の話題ですが,気になっておりながら,まとまった時間がとれずに,ずっと
心に引っかかっておりました。

時間が経ちましたので,このメールの末尾に念のため全文引用しておきます。

> COBUILD の情報を(中略)採り入れるときには COBUILD のいう
>'pragmatics'に関する情報は相当割愛してかまわないのではないかと思います.
>例えば,indiscriminate には新しく「(けなして)」という注がありますが,
>これは '..., you are critical of it because it does not involve any
>careful thought of choice' という部分に基づくものでしょうが,「(けなし
>て)」という語感は「無差別の,見境のない,無計画の,でたらめな」という
>訳語に十分出ていますから,わざわざ述べるまでもないことです.これまでの
>ゲラでも自分の考えでこの種の注はかなり削除するよう指示してきたような気
>がしますが,最近届いた雑誌 English Today の記事の一つ,Larousse plc in
>Edinburgh の Robert Allen による LDOCE, COBUILD, CIDE, OALD の書評にも
>全く同趣旨のきびしい指摘があり,我が意を得たりと思いました (ET 12(2):
>41-47).

この部分ですが,私の意見は少し違います。

特定の注記やレーベルをつけることで統一されている書式を,都合で一部だけ
変えると,それがあることを期待しているユーザーは混乱してしまいますし,
その辞書の信頼性にもかかわります。ユーザーはつくり手側がよかれと思って
やったことでも,それをそのように受け取ってくれるとは限らないからです。

また,実際このような語用論の注記をつけるには十分な理由があります。たと
えば,英語で特定のニュアンスをもつ語句であっても,他の母国語の読者がそ
れを見て同じようなニュアンスを感じとってくれるとは限らないのです。ニュ
アンスだけでなく,文法的なふるまいの場合の注記についてもそうです。英語
ではそれほど制限のない語句も,フランス語では否定文に限られるといった制
限をもつ語句もあるわけで〔いわゆる同根異義語句〕,とくにEFL辞典の場合
は,あらゆる母国語話者を想定したつくり方が必要になってくると思います。

私は辞書におけるある程度の重複は必要悪だと思います。重複のない辞書は,
果たして本当にユーザーのためになるのでしょうか。私は,LDOCE, COBUILD,
CIDE, OALDなどのこういった配慮を心から評価したいと思っています。

----原文--------------------------------------------------------------
> 2 INET GATE 1998/06/17 11:15
> 題名:[lex] COBUILD の 'pragmatics' label {1}
>
>Date: Wed, 17 Jun 1998 11:01:33 +0900
>From: kazuo kato <>
>Reply-To:
>To:
>
>加藤@岩手医大です.
>
>COBUILD の kindly の 'pragmatics'の情報を直訳した英和辞典の問題が取り上
>げられました.
>>
>> 安井稔・長谷川ミサ子(1997)『私家版英和辞典』(p.17)に、
>>
>> Kindly take your hands off my knee.(...)のような場合のkindly
>> は、話し手の側における怒りと優越感を示す.
>>
>> とあります。ご参考までに。
>
>数年前ある英和辞典の校閲をしていたときに送り状の一つに次のように書いた
>ことがあります(1996年5月27日):
>
> COBUILD の情報を(中略)採り入れるときには COBUILD のいう
>'pragmatics'に関する情報は相当割愛してかまわないのではないかと思います.
>例えば,indiscriminate には新しく「(けなして)」という注がありますが,
>これは '..., you are critical of it because it does not involve any
>careful thought of choice' という部分に基づくものでしょうが,「(けなし
>て)」という語感は「無差別の,見境のない,無計画の,でたらめな」という
>訳語に十分出ていますから,わざわざ述べるまでもないことです.これまでの
>ゲラでも自分の考えでこの種の注はかなり削除するよう指示してきたような気
>がしますが,最近届いた雑誌 English Today の記事の一つ,Larousse plc in
>Edinburgh の Robert Allen による LDOCE, COBUILD, CIDE, OALD の書評にも
>全く同趣旨のきびしい指摘があり,我が意を得たりと思いました (ET 12(2):
>41-47).
> Allen は COBUILD の 'pragmatics' というラベルについて 'However, this
>device [i.e. 'pragmatics' label] is something of an illusion, since
>much of the information about pragmatics is implicit in the defining
>style, and adding a signpost does not necessarily make the point any
>clearer. It is more effective at function words like INDEED than at
>words whose main characteristics is (for example) markedness, like
>LOUSY.' (p. 45) と述べています.
>
>問題の命令文中の kindly は「いんぎん無礼」な用法でしょう.もし注をつけ
>るとしたら,この種の用法については「皮肉な使い方もある」のような注記で
>十分ではないかと私は思います.COBUILD や『私家版英和辞典』の注は「やり
>すぎ」であると私は判断します.
> 英英辞典の情報を英和辞典に採用する際にはやはり「検証」が必要だと思い
>ます.従来は indiscriminate な採用が多かったように思います.
>

17:37 (日) 07/05/98 井上永幸 <>
[辞書学MLログを公開中: http://lexis.edu.shimane-u.ac.jp/inoue/ml_log.html]
--辞書学ML脱会は宛てにsignoff lexと送る--


1 INET GATE 1998/07/05 22:15
題名:[lex] COBUILD の 'pragmatics' label {3}

Date: Sun, 5 Jul 1998 13:56:32 +0100
From: "Hiroshi Shoji" <>
Reply-To:
To: <>

東海林@バーミンガムです。

私の発言がきっかけになった議論だと思いますので、問題を整理しながら私の考
えを述べたいと思います。
ですから少々長文になるかもしれませんが、御容赦下さい。

最初にお詫び申し上げますが、「バスの社内掲示」という恥ずかしい変換ミスを
訂正させて下さい。
正しくはもちろん、「バスの車内掲示」です。

私がバスの車内で見た掲示には次のようにありました:

For a cleaner, more pleasant environment,
Kindly refrain from: -
smoking, eating & drinking
on this bus.

この命令文中の'kindly'に関して、COBUILD on CD-ROMの記述は次のようになっ
ていました:

2 If you ask someone to kindly do something, you are showing that you
are angry with them, or that you have a feeling of superiority over
them.

EXAMPLE : Kindly take your hand off my knee...
Can you kindly tell me how this situation has got this far?

GRAMMAR : adverb + infinitive
SYNONYMS : please

ここで注意していただきたいのは、COBUILD on CD-ROMはCOBUILD「第1版」を下
敷きにしたものであり、まだ'PRAGMATICS' labelは用いられていないことです。
私は「定義」中の'angry'や'superiority'に関して疑問を呈したのでした。

後の磐崎先生のメールに、

> 安井稔・長谷川ミサ子(1997)『私家版英和辞典』(p.17)に、
>
> Kindly take your hands off my knee.(...)のような場合のkindly
> は、話し手の側における怒りと優越感を示す.
>
> とあります。ご参考までに。

とあったのに私は驚き、

> そ、それは用例も説明もCOBUILD1そのままではありませんか…

と書きました。
これに対して赤野先生が、

> 安井稔・長谷川ミサ子(1997)『私家版英和辞典』は、英文法書の記述の中か
> ら、辞書に盛り込むべき情報を羅列しただけの、非常に安易な作り方の本だ
> と思います。文法学者の記述を鵜呑みにし、実際にどうであるかの検証が全
> くなされていません。

と発言されました。

更に加藤先生が、

> COBUILD だけではないのですが,多分語義記述の精密化をはかるために,辞書
> には文脈の意味までもその語の語義にしてしまう傾向があるように思います.
> Uriel Weinreich (1961), "On the semantic structure of language"
> (Labov, W. (ed.), On Semantics (University of Pennsylvania Press,
1980)
> に再録されています)は fair chance と fair weather の fair に別々の
> 語義を立てるようなやりかたは "overspecification" であり "fallacy" で
> あるとして厳しく批判したことがあります.(私も「辞書への異議申し立て」
> (1993)という小論で英和辞典の語義記述に関してこの問題を論じたことが
> あります.)

と発言されました。

私は赤野先生の言う「検証」、加藤先生の言う「文脈」、この2つが辞書作りの
かなり重要なポイントになるのではないかという趣旨の発言をしました。

次に井上先生が引用なさった加藤先生のメールが位置するわけです。
COBUILDは「第2版」になって'PRAGMATICS' labelを採用し、「定義」中の語用
論的情報に対して、labelで「更に」注意を促すようにしました。
この「表示法」の是非についての私の見解は後回しにしまして、まずは次の問題
に絞りたいと思います。

言語表現が、

1.100%の使用状況でliteral meaningから離れる
2.literal meaningで用いられる状況が100%で、そこから離れて語用論的に意
味を持つことはない

という両極端のどちらかであれば、1の場合に定義等で語用論的注意を促し、2
の場合にliteral meaningのみを記述するという単純な提示法で十分ということ
になります。
問題は、実際の言語はそう単純ではないということです。
1と2の中間には無限に近い段階が存在するように思われます。
その場合、1にどの程度近ければ語用論的注意を促す必要があるのかということ
が重要になってくるのではないでしょうか。

私がバスの車内で見た命令文中のkindly、その後コーパスで検索して得た

either wearing an aid or thinking about one, then you may apply for a
summary of the new rules FREE OF CHARGE compliments of Hidden Hearing
Ltd together with a copy of a free booklet on hearing. Kindly indicate
on the coupon whether you are using an aid or not. <p> Please post me
FREE a copy of `Hearing Aids- Your Rights Explained" PLUS full colour
booklet for the Hard of Hearing.

の中にあるkindlyの両者は、今考えてみてもliteral meaningであると言えま
す。
ところがCOBUILDは「第1版」・「第2版」両者共に、命令や依頼に用いられる
kindlyは

1.100%の使用状況でliteral meaningから離れる

であるかのように使用者に思わせてしまう記述をしているのです。
これが学習辞典として適切かどうかは、繰り返しになりますが、1にどの程度近
いかどうかによるのではないでしょうか。
私が見た例が無視できる程度に少ないのであれば、私の問題提起は「揚げ足取
り」として片付けることができるでしょう。

Corpus-basedが当たり前になった英国のEFL辞書の場合、上記の1と2の間の
どの段階で線引きをするかということに関して、ある程度はっきりした基準を設
けることが可能になっていると思います。
けれども、案外このあたりは執筆者に任されているのかもしれません。
一番身近なCOBUILD社の場合については、近いうちに聞いてみようと思います。

井上先生:

> 私は辞書におけるある程度の重複は必要悪だと思います。重複のない辞書は,
> 果たして本当にユーザーのためになるのでしょうか。

上記の1に近いのならば(どの程度近ければいいのかという問題はあります
が)、重複表示は本当にユーザーのためになると思います。
けれども例えば1と2の中間的な場合、

1.5 literal meaningから離れる使用状況50%/literal meaningの使用状況50%

の言語表現に対して重複表示が「断言的に」なされたらどうでしょうか。
そのような場合、私は加藤先生と同じように「やりすぎ」と判断します。
いずれにせよ、「検証」が必要な問題だと思います。

本当に長文になってしまいました。
けれどもこの問題に関して議論が深まるのは非常に意義あることと思われますの
で、どうぞお許しを。

Hiroshi Shoji
Visiting Research Fellow
CARE, University of Birmingham
(English)
(Japanese)


1 INET GATE 1998/07/05 23:54
題名:[lex] COBUILD の 'pragmatics' label {4}

Date: Sun, 05 Jul 1998 23:36:00 +0900
From: 井上 永幸 <>
Reply-To:
To:

東海林先生:

メールをありがとうございます。

ご丁寧に議論の展開を再現していただきありがとうございました。正直なとこ
ろ,お示しいただいたような展開ははっきり覚えていませんでした。(^_^;)

>私がバスの車内で見た掲示には次のようにありました:
>
>For a cleaner, more pleasant environment,
>Kindly refrain from: -
>smoking, eating & drinking
>on this bus.

この例ですが,私はこのkindlyに運営当局の控えめな権威の表出を感じるので
すが,いかがでしょうか。

>2 If you ask someone to kindly do something, you are showing that you
>are angry with them, or that you have a feeling of superiority over
>them.

要請を表わすような文脈で用いられると,怒り,優越感といったニュアンスが
感じられるというのを,データの上で優勢と見たから上のような記述になった
のではないかと思います。

>> COBUILD だけではないのですが,多分語義記述の精密化をはかるために,辞書
>> には文脈の意味までもその語の語義にしてしまう傾向があるように思います.
>> Uriel Weinreich (1961), "On the semantic structure of language"
>> (Labov, W. (ed.), On Semantics (University of Pennsylvania Press,
>1980)
>> に再録されています)は fair chance と fair weather の fair に別々の
>> 語義を立てるようなやりかたは "overspecification" であり "fallacy" で
>> あるとして厳しく批判したことがあります.(私も「辞書への異議申し立て」
>> (1993)という小論で英和辞典の語義記述に関してこの問題を論じたことが
>> あります.)

これは列挙されている訳語を,語義と認識するか,2か国語辞典には避けられ
ない訳語のバラエティーの提示として認識するかの違いも関係します。2か国
語辞典ではむしろ目標言語の選択制限や文法的特性を考慮して訳語のバラエテ
ィーを提示しておくのはEFL辞典としては自然な流れだと思います。むしろ学
問的な厳密な語義にこだわった語義立てに終始すれば,きわめて使いにくいも
のになるのではないでしょうか。

>私は赤野先生の言う「検証」、加藤先生の言う「文脈」、この2つが辞書作りの
>かなり重要なポイントになるのではないかという趣旨の発言をしました。

もちろんこれには異論はありません。(^_^)

>1.100%の使用状況でliteral meaningから離れる
>2.literal meaningで用いられる状況が100%で、そこから離れて語用論的に意
>味を持つことはない
>
>という両極端のどちらかであれば、1の場合に定義等で語用論的注意を促し、2
>の場合にliteral meaningのみを記述するという単純な提示法で十分ということ
>になります。
>問題は、実際の言語はそう単純ではないということです。
>1と2の中間には無限に近い段階が存在するように思われます。
>その場合、1にどの程度近ければ語用論的注意を促す必要があるのかということ
>が重要になってくるのではないでしょうか。

そうですね,それらの程度の差を表わすために辞書では「通例」,「しばし
ば」,「時に」などのhedgeが使われるわけです。

>私がバスの車内で見た命令文中のkindly、その後コーパスで検索して得た
>
> either wearing an aid or thinking about one, then you may apply for a
>summary of the new rules FREE OF CHARGE compliments of Hidden Hearing
>Ltd together with a copy of a free booklet on hearing. Kindly indicate
>on the coupon whether you are using an aid or not. <p> Please post me
>FREE a copy of `Hearing Aids- Your Rights Explained" PLUS full colour
>booklet for the Hard of Hearing.
>
>の中にあるkindlyの両者は、今考えてみてもliteral meaningであると言えま
>す。

私には,上の文も運営当局者の控えめな権威の表出を感じるのですが,考えす
ぎでしょうか。

>ところがCOBUILDは「第1版」・「第2版」両者共に、命令や依頼に用いられる
>kindlyは
>
>1.100%の使用状況でliteral meaningから離れる
>
>であるかのように使用者に思わせてしまう記述をしているのです。

100%であるかどうかは,私もコーパスをよく調べていないのでよく分かりませ
ん。ただ,手もとの辞書をいくつかみましたが,依頼や要請の文脈のものでは,
COBUILDの注記のようなことを感じるものが多いですね。

2 spoken formal a word meaning 'please', which is often used when you
are annoyed: Will you kindly put that book back?--LDOCE3

2 (used when making polite requests or with IRONY (1) when ordering sb
to do sth) please: Would you kindly hold this for a moment? o Kindly
leave me alone!--OALD5

"Kindly" is used when asking someone to do something, usually if you
are annoyed with them but still want to be polite: Kindly put that
book away! o You are kindly requested to leave the building.--CIDE

OALD5の第1例のように不明なものもあります。しかしこの文も,精神的に優越
感を感じている人が使う文なのかもしれません。まさに,「文脈」が欲しいと
ころです。

>これが学習辞典として適切かどうかは、繰り返しになりますが、1にどの程度近
>いかどうかによるのではないでしょうか。

そうですね。

>井上先生:
>
>> 私は辞書におけるある程度の重複は必要悪だと思います。重複のない辞書は,
>> 果たして本当にユーザーのためになるのでしょうか。
>
>上記の1に近いのならば(どの程度近ければいいのかという問題はあります
>が)、重複表示は本当にユーザーのためになると思います。
>けれども例えば1と2の中間的な場合、
>
>1.5 literal meaningから離れる使用状況50%/literal meaningの使用状況50%
>
>の言語表現に対して重複表示が「断言的に」なされたらどうでしょうか。
>そのような場合、私は加藤先生と同じように「やりすぎ」と判断します。

使用状況比と,重複の問題は別のような気がします。

要請や依頼を表わす文脈で使われたkindlyをさがして,文字どおりの意味で使
われた用例を探す方が難しければ,100%でないにしても学習辞典としては東海
林先生のおっしゃる(1)の立場で示しておくというのがCOBUILDの立場なのでは
ないでしょうか。私はCOBUILDを発刊以来使っていてそのように感じます。

>いずれにせよ、「検証」が必要な問題だと思います。

それはそうですね。

22:42 (日) 07/05/98 井上永幸 <>
[辞書学MLログを公開中: http://lexis.edu.shimane-u.ac.jp/inoue/ml_log.html]
--辞書学ML脱会は宛てにsignoff lexと送る--


1 INET GATE 1998/07/06 05:46
題名:[lex] COBUILD の 'pragmatics' label {5}

Date: Sun, 5 Jul 1998 21:31:35 +0100
From: "Hiroshi Shoji" <>
Reply-To:
To: <>

東海林@バーミンガムです。

井上先生:

> >For a cleaner, more pleasant environment,
> >Kindly refrain from: -
> >smoking, eating & drinking
> >on this bus.
>
> この例ですが,私はこのkindlyに運営当局の控えめな権威の表出を感じるの
> ですが,いかがでしょうか。

私個人としては、以前のメールにも書きましたように、「サービス業」当局が
「乗客」に対して出している掲示であるため、literal meaningの例と判断しま
した。
私の変換ミスのように、「社内掲示」であれば話は別なのでしょうが(^_^;)。

> >2 If you ask someone to kindly do something, you are showing that you
> >are angry with them, or that you have a feeling of superiority over
> >them.
>
> 要請を表わすような文脈で用いられると,怒り,優越感といったニュアンス
> が感じられるというのを,データの上で優勢と見たから上のような記述にな
> ったのではないかと思います。

もちろんその通りだと思います。
ただ「優勢」が「どの程度」であるかが気になるところです。
繰り返しになりますが、「断定的な記述」は、辞書の使用者に「それ以外の用法
はゼロである」という印象を与えます。

(加藤先生の御発言に対する井上先生のコメント:)

> これは列挙されている訳語を,語義と認識するか,2か国語辞典には避けら
> れない訳語のバラエティーの提示として認識するかの違いも関係します。2
> か国語辞典ではむしろ目標言語の選択制限や文法的特性を考慮して訳語のバ
> ラエティーを提示しておくのはEFL辞典としては自然な流れだと思います。
> むしろ学問的な厳密な語義にこだわった語義立てに終始すれば,きわめて使
> いにくいものになるのではないでしょうか。

加藤先生から送っていただいた「辞書への異議申立て」(1993)の該当個所を読
み返してみました。
加藤先生は同論文の中でWeinreich(1961)による(1か国語辞典における)
fairの語義立て批判を紹介しておられながらも、「英和辞典ではfair chanceと
fair healthのfairに別々の訳語を立ててはならない」とまではおっしゃってい
ません(もし加藤先生がそこまで踏み込んで主張されるとしたら、私は異を唱え
るでしょう)。
mouthfulという語の語義記述の問題点(overspecification)を論じる際に先行
研究の例として紹介されているのです。
加藤先生の論点に関しては原文を参照していただくとして、私の解釈では「学問
的な厳密な語義にこだわった語義立て」を主張しているものではないということ
を述べるに留めておきます。
井上先生のおっしゃる「訳語のバラエティーの提示」とは決して相反する主張で
はないと私は思います。
(加藤先生、私の読みが間違っておりましたら訂正していただければ幸いで
す。)

> >1と2の中間には無限に近い段階が存在するように思われます。
> >その場合、1にどの程度近ければ語用論的注意を促す必要があるのかとい
> うこと
> >が重要になってくるのではないでしょうか。
>
> そうですね,それらの程度の差を表わすために辞書では「通例」,「しばし
> ば」,「時に」などのhedgeが使われるわけです。

このhedgeは大変重要かと思います。

> 2 spoken formal a word meaning 'please', which is often used when you
> are annoyed: Will you kindly put that book back?--LDOCE3

における'often'、

> "Kindly" is used when asking someone to do something, usually if you
> are annoyed with them but still want to be polite: Kindly put that
> book away! o You are kindly requested to leave the building.--CIDE

における'usually'は、明らかにhedgeとして機能していますよね。

> 2 (used when making polite requests or with IRONY (1) when ordering sb
> to do sth) please: Would you kindly hold this for a moment? o Kindly
> leave me alone!--OALD5

における'or with IRONY'(特に'or')は、明示的なhedgeとは言わないまでもそ
れに近い機能を果たしているように見えます。

> 使用状況比と,重複の問題は別のような気がします。

確かに別レベルの問題かもしれませんが、重複、特にそれがhedgeを伴わない
「断言」である場合、学習者に大いに有益な情報になる場合と、逆に誤解の元に
なる場合とがあるように思えます。
後者を未然に防ぐためには、使用状況比をコーパス等で「検証」して問題ないと
判断された場合に限り重複表記をする必要があると思うのです。

> 要請や依頼を表わす文脈で使われたkindlyをさがして,文字どおりの意味で
> 使われた用例を探す方が難しければ,100%でないにしても学習辞典としては
> 東海林先生のおっしゃる(1)の立場で示しておくというのがCOBUILDの立場な
> のではないでしょうか。私はCOBUILDを発刊以来使っていてそのように感じ
> ます。

文字どおりの意味で使われた用例を探す方が「どの程度」難しければ(1)の立場
で示すのが学習辞典として適切なのかということに私は関心があるのです。
残念ながらこの点に関して私の見解はまだ確立していません。
いろいろな方々の御意見を伺いたいところです。

またまた長文お許し下さい。

Hiroshi Shoji
Visiting Research Fellow
CARE, University of Birmingham
(English)
(Japanese)


2 INET GATE 1998/07/06 09:11
題名:[lex] COBUILD の 'pragmatics' label {6}

Date: Mon, 06 Jul 1998 08:54:00 +0900
From: 井上 永幸 <>
Reply-To:
To:

東海林 先生:

メールをありがとうございます。

>> 要請を表わすような文脈で用いられると,怒り,優越感といったニュアンス
>> が感じられるというのを,データの上で優勢と見たから上のような記述にな
>> ったのではないかと思います。
>
>もちろんその通りだと思います。
>ただ「優勢」が「どの程度」であるかが気になるところです。
>繰り返しになりますが、「断定的な記述」は、辞書の使用者に「それ以外の用法
>はゼロである」という印象を与えます。

このあたり,COBUILD対LDOCE/OALDの姿勢の違いの現われと思います。COBUILD
はあくまでデータに基づくという姿勢。データが少なければ,たとえ本来の意
味でも無視します。COBUILDの語義区分というのは,形の区分とも思える場合
が多くあります。従来の辞書であれば同じ語義のもとで記述されていた事項も,
別のコロケーションをとれば語義項目を改めていることがありますね。一方,
LDOCE/OALDは,一応本来の意味も確認しながら,コーパスの成果も取り入れて
ゆくといった態度ではないでしょうか。

私はCOBUILDの記述の仕方は,善悪の問題より,学習辞典に対する考え方の違
いだと思います。COBUILDが現在のように縮小される前にCOBUILDのeditorsの
ひとりであるKrishnamurthy氏にCOBUILDの辞書に関する考え方をいろいろうか
がっていたのでよけいにそう思います。

ちょっと話題がそれますが,辞書も人間が作るものですから,いろいろ個性が
あります。ある人から見れば,あるいはある用途から見れば「あばた」でも,
ある人から見れば「えくぼ」かもしれません。単に非難するだけでなく,こう
いったそれぞれの辞書の個性を生かして利用してこそ,その辞書は生きてくる
のではないでしょうか。そして,教師の側はそれらの辞書の個性をうまく利用
できるように指導してゆくことが必要だと思います。

>> 要請や依頼を表わす文脈で使われたkindlyをさがして,文字どおりの意味で
>> 使われた用例を探す方が難しければ,100%でないにしても学習辞典としては
>> 東海林先生のおっしゃる(1)の立場で示しておくというのがCOBUILDの立場な
>> のではないでしょうか。私はCOBUILDを発刊以来使っていてそのように感じ
>> ます。
>
>文字どおりの意味で使われた用例を探す方が「どの程度」難しければ(1)の立場
>で示すのが学習辞典として適切なのかということに私は関心があるのです。
>残念ながらこの点に関して私の見解はまだ確立していません。
>いろいろな方々の御意見を伺いたいところです。

東海林先生はご説明の中で,「100%」というお言葉をしばしばお使いになって
おられますが,現実の言葉において100%可能な説明というのはごくまれである
と思われます。個人的には,辞書においては,大辞典でさえも95%程度,学習
辞典レベルでは80%程度現実を反映していればその任務は果たしていると考え
ます。また,教育的にもその程度の方が記述が複雑になりすぎなくていいわけ
です。100%の記述を目指そうとすると,ページはいくらあっても足りません。
論文になってしまいます。

あまり有名人の引用をするのは得意ではありませんが(^_^;),Fillmore
Atkins (1994)※は「辞書編集における最大の敵は,編集中の時間不足よりも
スペース不足である」と述べています。(^_^;)


Atkins, B.T. Sue & Antonio Zampolli (eds.)(1994) Computational
Approaches to the Lexicon. Oxford: OUP.
Fillmore, Charles J. & B.T. Sue Atkins (1994) "Starting where the
Dictionaries Stop: The Challenge of Corpus Lexicography," in Atkins
& Zampolli, pp. 349-393.

08:18 (月) 07/06/98 井上永幸 <>
[辞書学MLログを公開中: http://lexis.edu.shimane-u.ac.jp/inoue/ml_log.html]
--辞書学ML脱会は宛てにsignoff lexと送る--


1 INET GATE 1998/07/06 09:17
題名:[lex] COBUILD の 'pragmatics' label {6}

Date: Mon, 06 Jul 1998 08:59:00 +0900
From: 井上 永幸 <>
Reply-To:
To:

訂正です。

>あまり有名人の引用をするのは得意ではありませんが(^_^;),Fillmore
>Atkins (1994)※は「辞書編集における最大の敵は,編集中の時間不足よりも
>スペース不足である」と述べています。(^_^;)

のFillmore Atkinsは"Fillmore & Atkins"の誤りでした。お詫びして訂正しま
す。

08:57 (月) 07/06/98 井上永幸 <>
[辞書学MLログを公開中: http://lexis.edu.shimane-u.ac.jp/inoue/ml_log.html]
--辞書学ML脱会は宛てにsignoff lexと送る--


1 INET GATE 1998/07/06 10:34
題名:[lex] COBUILD の {1}'pragmatics' label {

Date: Mon, 6 Jul 1998 10:12:43 +0900
From: Asao Kojiro <>
Reply-To:
To:

朝尾@東海大学です。

次の kindly の意味について興味深く、みなさんのお考えを読ませて
いただいておりました。

------------------------------------------------------
> >私がバスの車内で見た掲示には次のようにありました:
> >
> >For a cleaner, more pleasant environment,
> >Kindly refrain from: -
> >smoking, eating & drinking
> >on this bus.
>
> この例ですが,私はこのkindlyに運営当局の控えめな権威の表出を感じるので
> すが,いかがでしょうか。
------------------------------------------------------

井上先生の上のお考えが私には納得できるように思います。
1例だけですが、手元の資料の中で同じような例が映画にあ
りました。Dead Poets Society という映画です。破天荒な
文学教師が生徒の心をつかみますが、学校側からは敬遠され
ます。ついに学校側は代理の臨時教師を立て、この教師が初
めて教室に立つところです。

教師: I will be teaching this class through exams.
    We'll find a permanent English teacher ... during the break.
    Who will tell me where you are in the Pritchard textbook?
    Mr. Anderson ? Ah, in the -- I can't hear you!
    In the Pritchard? Kindly inform me, Mr. Cameron.
生徒: We skipped around a lot, sir.

Kindly inform me. という部分です。生徒の心をとらえて
生徒に人気のあった教師に代わり、代理の教師が臨時に教
室に立ちます。生徒が自分に対して好意的ではないことは
うすうす知っています。そこで、教師という権威のうえに
生徒に、「前の教師の授業では教科書の進度はどこまでか」
と聞いています。(破天荒な教師は教科書を破って捨てさ
せ、教科書とは関係ない授業をしていました。それで生徒
は質問に答えたくないわけです) 記憶から文脈をたどっ
たので、あるいは思い違いをしているかもしれませんが、
kindly の意味が先に紹介されたバスの掲示と同じような感
じで使われているように思いました。

------------------------------ phone (work): 0463-58-1211 --
朝尾幸次郎 東海大学(文学部)英文学科 内線: 3133
fax (work): 0463-50-2239
-- http://www.lb.u-tokai.ac.jp/~koji/ ----------------------


1 INET GATE 1998/07/06 12:29
題名:[lex] COBUILD の 'pragmatics' label {7}

Date: Mon, 06 Jul 1998 12:00:01 +0900
From: kazuo kato <>
Reply-To:
To:

井上先生;東海林先生;朝尾先生:

加藤@岩手医大です.コメントありがとうございました.
自宅にパソコンがないので,今日(月)学校で日曜日のメールを読みました.
東海林先生には私見を代弁していただき,恐縮しております.私は東海林先生
の見解に賛成です.ただ,どこかで Weinreich の例の fair chance と fair
weather の後半が fair health になっていました.

私は COBUILD は非常に優れた辞書だと思います.ただ,今度の改訂で使われ
るようになった 'pragamatics' というは label は感心しません.今回問題に
なった kindly の語釈は 'pragamatics' という label と用例を除けば,
COBUILD の初版のものと同じですから,私は初版の語釈に対しても同じ批判を
することになります.COBUILD の例も朝尾先生がお示しになった例も基本的に
は同類のものですが,朝尾先生の例は文脈が非常にはっきりしているので助か
ります.問題はこういう用法が現実の命令文中の kindly の用例のほとんどに
なるのかどうかということだと思います.
反例は東海林先生がすでにいくつか示されましたので,ここで繰り返すこと
はしませんが,COBUILD の語釈を読む学習者はあの説明が大抵の命令文中の
kindly の用法にあてはまると読んでしまうのではないか,だとすれば mis-
leading であろうというのが私の主張でした.しかし,私の批判は「だから
COBUILD はダメ辞書である」というような全称否定では決してありません.
COBUILD から学ばなければならないことは沢山あるが,その情報のすべてを
'gospel truth' として受け取るのではなく,取捨選択すべきであるというのが
私の主張です.
私はかつて OED の without fail は「命令・約束に用いる」という注を孫引
きした英和辞典を批判したことがあります.今では OED2 on CD-ROM の用例で
すらこの注に根拠がないということを示しております.したがって,これは
OED の勇み足だったということになります.しかし,私は OED2 on CD-ROM は
比較的よく利用する人間の一人だと思っております.ある特定の記述や説明を
批判することはその批判の対象を全面否定することにはなりません.私は
COBUILD が次の改訂でこの問題をどう処理するか見守りたいと思います.
まだ書かなければならないことがありますが,時間がなくなりました.


1 INET GATE 1998/07/06 19:20
題名:[lex] COBUILD の 'pragmatics' label {8}

Date: Mon, 06 Jul 1998 18:56:56 +0900
From: kazuo kato <>
Reply-To:
To:

加藤@岩手医大です.

'pragmatics' label {7}の補足のつもりです.前回はあわてて「送信」ボタン
を押してしまって,カットすべきところを全部引用してしまいました.以後,
気をつけます.

kazuo kato wrote:

> 私はかつて OED の without fail は「命令・約束に用いる」という注を孫引
> きした英和辞典を批判したことがあります.今では OED2 on CD-ROM の用例で
> すらこの注に根拠がないということを示しております.したがって,これは
> OED の勇み足だったということになります.しかし,私は OED2 on CD-ROM は
> 比較的よく利用する人間の一人だと思っております.ある特定の記述や説明を
> 批判することはその批判の対象を全面否定することにはなりません.私は
> COBUILD が次の改訂でこの問題をどう処理するか見守りたいと思います.
> まだ書かなければならないことがありますが,時間がなくなりました.
>
「まだ書かなければならないこと」の第一は{2}の井上先生の次のご指
摘についてです:

また,実際このような語用論の注記をつけるには十分な理由があります。たと
えば,英語で特定のニュアンスをもつ語句であっても,他の母国語の読者がそ
れを見て同じようなニュアンスを感じとってくれるとは限らないのです。ニュ
アンスだけでなく,文法的なふるまいの場合の注記についてもそうです。英語
ではそれほど制限のない語句も,フランス語では否定文に限られるといった制
限をもつ語句もあるわけで〔いわゆる同根異義語句〕,とくにEFL辞典の場合
は,あらゆる母国語話者を想定したつくり方が必要になってくると思います。

加藤回答:
たとえば,Can you please pass me the salt? という疑問文に対しては
Yes, I can. という返事はせず,塩を手渡すという行為をする,つまり,この
一見疑問文とも見える文は実は「依頼」であるといった情報は必要でしょう.
しかし,今回の kindly の語釈や label が同じような性質のものかどうかに
ついては疑問があります.
また,いわゆる「同根異義語句」についての情報は当然のことで,すでに
CIDE が日本語,タイ語,韓国・朝鮮語,ヨーロッパの諸言語の 'false friends'
を付録の形で示しております.例えば,仏英辞典では,フランス語の ignorer
は英語の ignore とは意味が異なること,また,personne は person と共通
するところもあるが,(ne) ... personne のような否定代名詞としての用法も
あること,また obeir(アクセント記号が打てないので省略します)は obey
とは異なり,自動詞であって前置詞の a(アクセント記号省略)を取ることな
ど,は必須の情報でしょう.私はこのような情報についてその必要がないと主
張しているのではありません.

井上先生は{4}で「訳語のバラエテイー」の問題を提起しておられますが,
私は fair chance と fair weather という用例の fair を同じ訳語で統一すべ
きであると主張したつもりはありません.この2つの用例から fair について
別々の語義を立てるような語義の細分化は避けるべきではないかということで
す.

次に,問題になったバスの車内掲示の文 [Kindly indicate on the coupon
whether you are using an [hearing] aid or not/Kindly refrain from
smoking, eating & drinking on this bus.] と朝尾先生の例 [Kindly inform
me, Mr. Cameron.] に「(控えめな)権威の表出」が感じられるかどうかとい
う問題について私見を述べさせていただきます.
私自身はバスの車内掲示文には「(控えめな)権威の表出」を感じることが
できません.まして,COBUILD がいう 'you are showing that you are angry
with them, or that you have a feeling of superiority' という感じあると
は思えません.むしろ,バスの管理責任を持つバス会社がお得意様に下手に出
てお願いしているという気がします.
朝尾先生の例は,私が最初に言った「いんぎん無礼」の例だと思います.
Sinclair and Coulthard, Towards an Analysis of Discourse (Oxford Uni-
versity Press, 1975) は教室での教師と生徒の談話分析ですが,教師のことば
の特徴の一つは彼らが 'Direct’と呼んでいる指示文(その中核は命令文です)
が多いことです. Put your pencils down. や Look at the blackboard,
everyone. などがその代表的なものです.それに対して Kindly inform me,
Mr. Cameron. は教室での教師の指示としては異常なほど 'polite' です.怒
りの気持ちや権威の表出は Kindly という単語そのものから生じるのではない
と思います.本来命令文というのは話者と聞き手の間に権力関係を前提し,そ
の間に一定の社会的な距離が存在するのが普通です.また,話者が聞き手に対
しどの程度まで強圧的に出られるかについても一定の約束があります.
そういう条件を無視して 'polite' に過ぎると,その発話には本来存在しな
かった語用論的な読みが出てきます.ほかにもっと適切な例があるかもしれま
せんが,例えば Esther N.Goody (ed.), Questions and Politeness:
Strategies in Social Interaction (Cambridge University Press, 1978), p.
147 には次のような例があります:

Moreover, although one's intuitions are clear that, say, (27) is
more polite than (28):

(27) I don't suppose I could possibly ask you for a cup of flour,
could I?
(28) I'd like to borrow a cup of flour if I may.

one has to be cautious in generalizing across contexts--(27) might
well be standoffish if said to a very close friend (or even ironic,
from an officer to a cook in the army).

つまり,絶対的なスケールでは(27)は(28)より 'polite' ですが,たかが
小麦粉1カップ借りるのに親友に対して(27)を使えば「よそよそしい」とい
う響きがあるし,軍隊で将校が料理番にこういえば「皮肉」と取られるだろう
ということだと思います.
ことばにはその場面にふさわしい丁寧さが存在するのですが,朝尾先生が示
された例はその社会的・語用論的な申し合わせをあえて破っているので,教師
の権威を誇示し怒りを示すことになるのではないでしょうか.COBUILD その他
に見える類例は程度の差こそあれみなこの社会的・語用論的な申し合わせ違反
をの例だと私は思います.kindly という副詞が please にくらべてややあらた
まった感じのことばなので,そのような使い方がよくされるのだと思います.
ただ,くどいようですが,kindly を用いた命令文・依頼文の大多数がそうで
ない限り,COBUILD の扱いかたは「やりすぎ」ではないかというのが私の判断
です.
もう列車の時間なので読み返さずに送信します.勘弁してください.


1 INET GATE 1998/07/06 21:31
題名:[lex] COBUILD の 'pragmatics' label {9}

Date: Mon, 06 Jul 1998 21:13:00 +0900
From: 井上 永幸 <>
Reply-To:
To:

加藤 先生:

井上(島根大学)です。

> 次に,問題になったバスの車内掲示の文 [Kindly indicate on the coupon
>whether you are using an [hearing] aid or not/Kindly refrain from
>smoking, eating & drinking on this bus.] と朝尾先生の例 [Kindly inform
>me, Mr. Cameron.] に「(控えめな)権威の表出」が感じられるかどうかとい
>う問題について私見を述べさせていただきます.
> 私自身はバスの車内掲示文には「(控えめな)権威の表出」を感じることが
>できません.まして,COBUILD がいう 'you are showing that you are angry
>with them, or that you have a feeling of superiority' という感じあると
>は思えません.むしろ,バスの管理責任を持つバス会社がお得意様に下手に出
>てお願いしているという気がします.

お客様とはいえ,公共の乗り物を管理運営しているバス会社は,公共の場であ
るバスの車内でのふるまいや切符に関する扱いなど,それなりに権威をもった
広告を出すのではないでしょうか。私はあまり地元でバスに乗りませんので,
分かりませんが,以前関西に住んでいた折に,阪急電車とかに乗ると,車内で
のふるまいや切符の扱いについて注意書きがあったように思いますが,この種
のものは「…おやめください」「…ご遠慮下さい」調で書いてあったと思いま
す。公序良俗に反する行ないをすれば拘束される可能性もあるわけです。これ
を「控えめな権威の表出」といったわけです。

>Mr. Cameron. は教室での教師の指示としては異常なほど 'polite' です.怒
>りの気持ちや権威の表出は Kindly という単語そのものから生じるのではない
>と思います.本来命令文というのは話者と聞き手の間に権力関係を前提し,そ
>の間に一定の社会的な距離が存在するのが普通です.また,話者が聞き手に対
>しどの程度まで強圧的に出られるかについても一定の約束があります.
> そういう条件を無視して 'polite' に過ぎると,その発話には本来存在しな
>かった語用論的な読みが出てきます.ほかにもっと適切な例があるかもしれま

おっしゃるとおりだと思います。命令文という文法形式と,それが生じる権力
関係の前提関係が語用論的な読みを誘発しているわけです。

> ただ,くどいようですが,kindly を用いた命令文・依頼文の大多数がそうで
>ない限り,COBUILD の扱いかたは「やりすぎ」ではないかというのが私の判断
>です.

COBUILDの当該箇所の執筆者・編集者は,少なくともデータを見て,そういっ
た用法が大多数であると判断し,data-drivenの学習辞典としてはああいう結
論であったのだと想像します。

思わぬ方向に進んで,いい勉強をさせていただきましたが,私の最初の意図は
辞書の中のいろいろな意味での重複はむだではないということでした。加藤先
生のお書き込みはいつも何らかの文献に基づいており,私の不勉強を恥じてい
る次第です。ただ,私は私でいろいろと加藤先生との見方や方法論の違いを感
じていることも事実です。今回はこのような意見もあるということをお示しし
たくて,あえて書き込みをさせていただいた次第です。今後とも宜しくお願い
申し上げます。

19:35 (月) 07/06/98 井上永幸 <>
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1 INET GATE 1998/07/06 22:56
題名:[lex] COBUILD {1}の 'pragmatics' label {

Date: Mon, 06 Jul 1998 22:33:19 +0900
From: 赤野 一郎 <>
Reply-To:
To:

赤野@京都外大です。

東海林先生:
井上先生 :

割って入って議論を逸らすことになるかもしれませんが、井上先生の発言、

> ちょっと話題がそれますが,辞書も人間が作るものですから,いろいろ個性が
> あります。ある人から見れば,あるいはある用途から見れば「あばた」でも,
> ある人から見れば「えくぼ」かもしれません。単に非難するだけでなく,こう
> いったそれぞれの辞書の個性を生かして利用してこそ,その辞書は生きてくる
> のではないでしょうか。そして,教師の側はそれらの辞書の個性をうまく利用
> できるように指導してゆくことが必要だと思います。

は、辞書批評に関する重要な点を含んでいます。東海林先生のkindlyの議論に触
発されて書いたものですが、以下はあくまで私なりの辞書批評に関する一般論で
す。

どのような辞書にも不備や誤りはあります。その一つ一つを改めていくために、
編纂者は利用者の指摘を謙虚に受け止めなければなりません。ただ批評する側に
とって、誤りや不備を指摘するのは容易なことで、その気になればいくらでもで
きます。私が辞書批評で心がけていることは、不備や誤りの指摘をすることで、
当該辞書の価値を否定するような批判の仕方を避けることと、批判するときには
できるだけ代案を示すことです。

__/__/__/__/__/__/__/__/__/__/__/__/__/__/__/__/__/__/
AKANO, Ichiro
Kyoto University of Foreign Studies
TEL: 075-322-6103
E-MAIL:
NIFTY SERVE:
__/__/__/__/__/__/__/__/__/__/__/__/__/__/__/__/__/__/


3 INET GATE 1998/07/07 00:20
題名:[lex] COBUILD の 'pragmatics' label {10}

Date: Mon, 6 Jul 1998 16:04:08 +0100
From: "Hiroshi Shoji" <>
Reply-To:
To: <>

東海林@バーミンガムです。

まず初めに、この議論に関して私が抱いている<前提>と<問題点>を再確認し
たいと思います。
両者は自明のこととして私は議論を進めてきてしまったのですが、誤解を受けて
いる恐れもあると思われますので、再確認の必要を感じたのです。

************************************************************************

<前提1>(必要性)
 辞書、特に学習辞書には「語用論的情報」の記述が必要である。
<前提2>(考えられるフィールド)
 語用論的情報の提示には、「定義に含める方法」、「レーベルを用いる方
法」、「用例により(暗示的に)提示する方法」、「いずれか、あるいは全ての
併用(重複)」がある。
<前提3>(提示の強度)
 語用論的情報の提示には、「断言・断定的な提示」、「限定語(hedge:
usually, often, etc.)を用いた提示」、加えて「ゼロ提示」(何も記述しな
い)がある。

************************************************************************

<問題点1>
 <前提2>で示した方法のうち、どれが学習者に対して効果的な提示なのか?
<問題点2>
 現行のcorpus-basedであるEFL辞書は、どのような基準に基づいて<前提
3>で示した提示方法を使い分けているのか?
<問題点3>
 <問題点2>と関連するが、コーパスに基づいて新たなEFL辞書を作成する
場合、どのような基準に基づいて<前提3>で示した提示方法を使い分ければ、
学習者に誤解を与えずに、かつ効果的に語用論的情報を伝えることができるのか

************************************************************************

以上から明らかなように、私の議論の目的は「コーパスを利用して、(学習)辞
書に必要な語用論的情報を収録する際の(客観的)方法論の模索」でありまし
て、決して1辞書の欠点を指摘しようというものではありません。

(そもそも私が研修先に当地バーミンガムを選んだのは、(井上先生と同じよう
に)COBUILDをワクワクしながら使い続けてきたからでありまして、決してその
欠点を探そうというためではありません(^_^;))。

加えて、私は全面的に加藤先生の立場に賛成というわけでもありません。
時には文脈を読み込んだ定義やレーベルも必要かと思っています。
もっとも、それがevidenceに基づいていればという条件があるのは言うまでもあ
りません。

井上先生:

> このあたり,COBUILD対LDOCE/OALDの姿勢の違いの現われと思います。COBUILD
> はあくまでデータに基づくという姿勢。データが少なければ,たとえ本来
> の意味でも無視します。

くどいようで大変申し訳ないのですが、「データが少なければ」の部分の「程
度」を私は問題にしているのです(<問題点2>・<問題点3>参照)。

> 私はCOBUILDの記述の仕方は,善悪の問題より,学習辞典に対する考え方の
> 違いだと思います。

私自身は、「善悪の問題」を指摘したつもりはありません(もしそう受け取られ
てしまったとしたら、私の文章力のなさが原因です(^_^;))。

> ちょっと話題がそれますが,辞書も人間が作るものですから,いろいろ個性
> があります。ある人から見れば,あるいはある用途から見れば「あばた」で
> も,ある人から見れば「えくぼ」かもしれません。単に非難するだけでなく,
> こういったそれぞれの辞書の個性を生かして利用してこそ,その辞書は生き
> てくるのではないでしょうか。そして,教師の側はそれらの辞書の個性をう
> まく利用できるように指導してゆくことが必要だと思います。

全くおっしゃる通りだと思います。
私の発言により井上先生が上記のように感じられたのは、私のacademic skills
の欠如が原因と思われます(まだまだ修行が足りません(;_;))。

> 東海林先生はご説明の中で,「100%」というお言葉をしばしばお使いになっ
> ておられますが,現実の言葉において100%可能な説明というのはごくまれで
> あると思われます。個人的には,辞書においては,大辞典でさえも95%程度,
> 学習辞典レベルでは80%程度現実を反映していればその任務は果たしている
> と考えます。また,教育的にもその程度の方が記述が複雑になりすぎなくて
> いいわけです。100%の記述を目指そうとすると,ページはいくらあっても足
> りません。
> 論文になってしまいます。

この点に関しても誤解を解いておかねばなりません。
もう既に長文になっているメールを更に長くしてしまうのは本当に恐縮ですが、
次の私の発言をもう一度御覧下さい。

> 言語表現が、
>
> 1.100%の使用状況でliteral meaningから離れる
> 2.literal meaningで用いられる状況が100%で、そこから離れて語用論的
> に意味を持つことはない
>
> という両極端のどちらかであれば、1の場合に定義等で語用論的注意を促し、
> 2の場合にliteral meaningのみを記述するという単純な提示法で十分とい
> うことになります。
> 問題は、実際の言語はそう単純ではないということです。
> 1と2の中間には無限に近い段階が存在するように思われます。
> その場合、1にどの程度近ければ語用論的注意を促す必要があるのかという
> ことが重要になってくるのではないでしょうか。

私の用いた「100%」は、「そうであれば物事は簡単だが、現実はとてもそうで
はない」ということを示すためのレトリックに過ぎません。
「100%可能な説明」ということは全く述べていません。

> 「辞書編集における最大の敵は,編集中の時間不足よりもスペース不足であ
> る」

全く同感です。
ですから限られたスペースに、どのような情報をどのように盛り込むかが一番大
変な問題なのですよね。

朝尾先生がお示し下さった映画からの例は、COBUILDの記述がまさによく説明し
ている実例だと思います。
けれども、バスの掲示の解釈に関しては、
「井上先生・朝尾先生」⇔「加藤先生・私」と真っ向から対立してしまいました
(^_^;)。
おそらくここで私が自説を繰り返しても意味がありませんから、Bank of
Englishから私がliteral meaningと判断する例をもう一例だけ示させて下さい。

I am pleased to say that your Prize Draw Number 7080749 has won a
Runner-Up Prize and attached below is a cheque in respect of your
winning amount. Kindly detach the cheque and pay it into your account as
soon as possible.

けれども、この例を示すからと言って、「やはりCOBUILDの記述はけしからん」
と述べたいのではなく、まだ検証不足と思っております。

加藤先生:

> 東海林先生には私見を代弁していただき,恐縮しております.私は東海林先
> 生の見解に賛成です.ただ,どこかで Weinreich の例の fair chance と
> fair weather の後半が fair health になっていました.

加藤先生(1993)ではhealthになっているのでそこから引用しました。
原典に当たらなかったものですから…

> しかし,私の批判は「だからCOBUILD はダメ辞書である」というような全称
> 否定では決してありません.
> COBUILD から学ばなければならないことは沢山あるが,その情報のすべてを
> 'gospel truth' として受け取るのではなく,取捨選択すべきであるという
> のが私の主張です.

この点、全く私も同感であることは是非井上先生他にもわかっていただきたいと
存じます。
PRAGMATICSレーベル自体の是非に関しましては、上記のように私は加藤先生とは
若干立場が異なるかもしれません。

赤野先生(四苦八苦してこのメールを書いている途中に飛び込んできたメッセー
ジより引用):

> どのような辞書にも不備や誤りはあります。その一つ一つを改めていくため
> に、編纂者は利用者の指摘を謙虚に受け止めなければなりません。ただ批評
> する側にとって、誤りや不備を指摘するのは容易なことで、その気になれば
> いくらでもできます。私が辞書批評で心がけていることは、不備や誤りの指
> 摘をすることで、当該辞書の価値を否定するような批判の仕方を避けること
> と、批判するときにはできるだけ代案を示すことです。

このメールのはじめの部分が、この部分に対する返答と受け取っていただければ
幸いです。
「検証」がもう少し進んで本当に「やりすぎ」だということを強く感じられるよ
うになったとしたら、次のような代案を示すことも可能かもしれません。

If someone asks you kindly to do something, they are either politely
asking you to do it, or asking in a way which shows that they have
authority or anger over you; formal use.

あくまでも「素案」で、長くなり過ぎてしまって自分でも全然満足していません
(^_^;)。

いつもながら、長い割には下手な文章で申し訳ありません(^_^;)。

Hiroshi Shoji
Visiting Research Fellow
CARE, University of Birmingham
(English)
(Japanese)


1 INET GATE 1998/07/07 09:17
題名:[lex] lexicography training {1}

Date: Tue, 07 Jul 1998 09:00:00 +0900
From: 井上 永幸 <>
Reply-To:
To:

lexicographer 各位:

LDOCE3のManaging Editorを務めたRndell氏より以下のメッセージがCorporaメ
ーリングリストより流れてきました。ご本人の許可を得ましたので,ここに転
載させていただきます。

>Dear Colleagues
>Sue Atkins and Michael Rundell, two highly experienced lexicographers, are
>offering courses in all aspects of dictionary making and computational
>lexicography. Courses cover a range of academic issues and practical
>applications, and can be tailored to meet specific needs. To find out more,
>check out our website at:
>http://ds.dial.pipex.com/town/lane/ae345/
>
>Michael Rundell
>

08:47 (火) 07/07/98 井上永幸 <>
[辞書学MLログを公開中: http://lexis.edu.shimane-u.ac.jp/inoue/ml_log.html]
--辞書学ML脱会は宛てにsignoff lexと送る--


3 INET GATE 1998/07/07 09:51
題名:[lex] lexicography training {1}

Date: Tue, 07 Jul 1998 09:38:00 +0900
From: 井上 永幸 <>
Reply-To:
To:

lexicographer 各位:

先ほどRundell氏よりのメッセージの転載をしましたが,個人的にもメールを
いただいておりましたので,その内容をご紹介し,このMLにご登録いただいて
おります皆さんからのご意見をひろくうかがえればと存じます。

【趣旨】
Aue Atkins 氏 (OUP)とMichael Rundell 氏 (LDOCE3, Managing Editor)はこ
れまでの辞書づくりのノウハウをまとめて,学術的・商業的な受講生を想定し
て日本でlexicography courseの開催を計画しているとのことです。当初,
Rundell氏は2週間のコース〔時期未定〕というふうに書いておられましたが,
2週間ぶっ通しで参加できる受講生は日本ではかなり限られるのではないかと
思い,もう少し短めのコースを設定して〔たとえば,2,3日〕,そのなかから
好きなものを選べるようにした方がよいのではないかとご提案させていただい
たところです。

さて,その後,コースの具体的内容としては,どのようなものに対する関心が
高いかということに関して,質問を受けております。このMLにご登録の皆さん
の場合,あるいはご登録いただいていない方を想定した場合でもけっこうです
が,どのようなテーマでコースが設定されていれば,そのコースを受講してみ
たいとお思いになられるでしょうか。どんなご意見でもけっこうですので,皆
さんのご興味を引きそうな内容をご提案いただければと存じます。

09:22 (火) 07/07/98 井上永幸 <>
[辞書学MLログを公開中: http://lexis.edu.shimane-u.ac.jp/inoue/ml_log.html]
--辞書学ML脱会は宛てにsignoff lexと送る--


3 INET GATE 1998/07/07 12:33
題名:[lex] COBUILD の 'pragmatics' label {11}

Date: Tue, 07 Jul 1998 12:04:00 +0900
From: kazuo kato <>
Reply-To:
To:

井上先生;赤野先生;東海林先生:

加藤@岩手医大です.コメントありがとうございました.最近この ML とい
うサイバースペースを不法占拠したようで申し訳なく思っております.ただ,
「60の手習い」で始めたこの ML での議論が楽しくてしかたがないのです.
ここで交換される情報量は snail mail でやりとりしていたころの情報量とは
くらべものになりません.それがありがたくてちょっと調子に乗りすぎたかも
しれません.お詫びいたします.

ところで本題ですが,

東海林先生:

> 加えて、私は全面的に加藤先生の立場に賛成というわけでもありません。
> 時には文脈を読み込んだ定義やレーベルもK要かと思っています。
> もっとも、それがevidenceに基づいていればという条件があるのは言うまでもあ
> りません。
>
私も「時には文脈を読み込んだ定義やレーベルも」必要だと思います.
「'pragmatics' label {8}」では Can you please pass me the salt? の例を
挙げました.しかし,どこで線引きをするかについては意見の相違があるかも
しれません.辞書編纂という仕事は science というより craft ですから個人
差が出るのは当然だと思います.

> > 東海林先生には私見を代弁していただき,恐縮しております.私は東海林先
> > 生の見解に賛成です.ただ,どこかで Weinreich の例の fair chance と
> > fair weather の後半が fair health になっていました.
>
> 加藤先生(1993)ではhealthになっているのでそこから引用しました。
> 原典に当たらなかったものですから…
>
申し訳ありません.fair health のままでよかったのでした.ほかのことで
fair weather について調べたことがあって,そのため混線してしまったようで
す.失礼いたしました.

赤野先生:

> > どのような辞書にも不備や誤りはあります。その一つ一つを改めていくため
> > に、編纂者は利用者の指摘を謙虚に受け止めなければなりません。ただ批評
> > する側にとって、誤りや不備を指摘するのは容易なことで、その気になれば
> > いくらでもできます。私が辞書批評で心がけていることは、不備や誤りの指
> > 摘をすることで、当該辞書の価値を否定するような批判の仕方を避けること
> > と、批判するときにはできるだけ代案を示すことです。
>
私の批判がそのように受け取られたのであれば,ことばの足りなかったことを
お詫びしなければしなければなりません.ただ,私としては6月17日の
「COBUILD の 'pragmatics' label{1}」で一応代案を示したつもりでした.
そのときは「「皮肉な使い方もある」のような注記で十分ではないか」と書き
ました.数ある英和辞典の中にはもうすでにこれを実行しているものがあるか
もしれません.
また,代案の提示は削除提案も含むと考えております.
一般論としてですが,代案がなくても発言してもいいのではないかという気
もしますが,いかがなものでしょうか?代案の提示を非常に大切にする言語学
関係のいくつかの雑誌で,必ずしも解決案を示さなくても新しい問題提起をす
る短い論文に対して 'Squib' というコーナーを特設しているものがあります.
まして,辞書は学習の必需品であり,実用価値の高いものですから,悪意の中
傷でない限りは認めていただいてもいいのではないでしょうか?

この後は「追伸」です.調べてみたら Sidney Greenbaum, Studies in
English Adverbial Usage (Longman, 1969), p 168 に次のような記述があり
ました:

KINDLY is unique among formulaic aduncts [i.e. CORDIALLY,
GRACIOUSLY, HUMBLY and KINDLY] in its ability to appear before an
imperative, and even before a negative imperative, e.g.:

KINDLY close the door.
KINDLY don't say anything about it.

In such contexts it is less polite than PLEASE, and, indeed, is
often used in contexts where the speaker is adopting a disrespectful
attitude.

Longman Active Study Dictionary of English, New Ed.(1991) は kindly に
ついて PLEASE の意味と用例,皮肉な意味と用例を併記して,次のような
USAGE ノートをつけております:

1 Remember that KINDLY is not always used in polite requests. On
the contrary, it often expresses anger or annoyance:<Would you KINDLY
remove your feet from that seat!/KINDLY shut up at the back!>
2 If you want to make a request very polite, one way is to use the
phrase COULD YOU POSSIBLY...?: <Could you POSSIBLY give me a hand
with this?/Could you POSSIBLY spare me a minute?>

私は英和辞典が見習うべきなのはこの辞書のやり方だと思います.なお,英国
産の辞書では Harrap's Essential English Dictionary (1995) も2種類の意味
と用例を載せております.
米国の辞書では次の3種を見ましたが,いずれも PLEASE の意味だけです:
Random House Webster's Dctionary of American English (1997), The
American heritage English as a Second Language Dictionary (1998), The
Newbury House Dictionary of American English (1997)
これは米語では問題の皮肉な用法が英国英語ほど頻繁には用いられないという
ことなのか,それとも単に無視したということなのかわかりませんが,また,
新しい問題が一つ出てきました.
一般的に英国人はアメリカ人ほどに率直にものを言わず,understatement を
多用するといわれますが,そういう文化的な違いとも関係があるのでしょうか?
ちょうど時間になりました.


1 INET GATE 1998/07/07 15:37
題名:[lex] Pragmatic information in dictionar

Date: Tue, 7 Jul 1998 07:17:20 +0100
From: "Hiroshi Shoji" <>
Reply-To:
To: "lex" <>

東海林@バーミンガムです。

Subjectを変更致しました。

加藤先生:

> この ML での議論が楽しくてしかたがないのです.

私もそうです。
(ここ数日は、自分の文章力のなさを反省することが多いのですが…)

> ここで交換される情報量は snail mail でやりとりしていたころの情報量と
> はくらべものになりません.

私は本来筆不精で、snail mailはほとんど書かない(書けない)性質ですから、
情報量はゼロに近いところから加藤先生以上飛躍的に増加しています(^_^;)。

> 私も「時には文脈を読み込んだ定義やレーベルも」必要だと思います.
> 「'pragmatics' label {8}」では Can you please pass me the salt? の
> 例を挙げました.しかし,どこで線引きをするかについては意見の相違があ
> るかもしれません.辞書編纂という仕事は science というより craft です
> から個人差が出るのは当然だと思います.

御主張を曲解して申し訳ありませんでした。
「どこで線引きをするか」、これについては以前のメールに書きましたように私
自身の見解は未確立なのですが、「学習辞典の理想的なあり方」を考える際に
は、議論が必要な事項と思っております。

> 英国産の辞書では Harrap's Essential English Dictionary (1995) も2種
> 類の意味と用例を載せております.

HEEDと中身が同じはずのChambersEEDを以前見た時は見落としておりましたが、
この辞書は(形式上の)「命令文」と「疑問文」を分けて記述しているのです
ね。

2 If you tell someone kindly to do something you are telling them
sternly or angrily to do it: Kindly put that photograph back where you
found it.
3 You ask someone if they would kindly do something when you are
politely requesting them to do it: Would you kindly pass me the salt?
[same as please]

定義文中の2 'tell', 3 'ask'に注目する必要があると思います。
私が以前3を見落としてしまったのは、例のバスの掲示が(形式上の)「命令
文」であったことに気を取られていて、2を見てそれ以上の情報があるのを予想
しなかったためでした。
それぞれの形式毎に分けて考えると、この辞書も「断定・断言的」な記述である
とも言えるかと思います。

米国の辞書で手元にあるのはRandom House Unabridged Electronic Dictionary
のみですが、やはり次のような単純な記述でした。

7. obligingly; please: Would you kindly close the door?

英米の用法差があるのかどうかについては、それこそ「検証」が必要な事項です
ね。
(それにしても単語一つ取ってみても、真面目に「検証」しようと思ったらかな
りの時間がかかってしまいます。辞書作りにおいて「どこでよしとするか」とい
うのは頭が痛い問題ですね。)

Hiroshi Shoji
Visiting Research Fellow
CARE, University of Birmingham
(English)
(Japanese)


3 INET GATE 1998/07/07 17:01
題名:[lex] COBUILD の 'pragmatics' label {12}

Date: Tue, 07 Jul 1998 16:46:00 +0900
From: 井上 永幸 <>
Reply-To:
To:

加藤 先生:

井上(島根大学)です。

お忙しいところ,レスポンスをありがとうございます。

>「60の手習い」で始めたこの ML での議論が楽しくてしかたがないのです.
>ここで交換される情報量は snail mail でやりとりしていたころの情報量とは
>くらべものになりません.それがありがたくてちょっと調子に乗りすぎたかも
>しれません.お詫びいたします.

いえいえ,楽しんでいただければこれ以上の喜びはありません。(^_^;)

私の気持ちといたしましては,このメーリングリストは,学術論文と違って,
専門家や研究者の方以外の方も多く参加しておられますから,そのあたりのご
配慮をいただければ嬉しく存じます。

>しれません.辞書編纂という仕事は science というより craft ですから個人
>差が出るのは当然だと思います.

どうしたって,craftの部分は残るわけですが,私は個人的には,及ばずなが
らできるだけscienceに近づけたいと思っております。

>Longman Active Study Dictionary of English, New Ed.(1991) は kindly に
>ついて PLEASE の意味と用例,皮肉な意味と用例を併記して,次のような
>USAGE ノートをつけております:
>
> 1 Remember that KINDLY is not always used in polite requests. On
> the contrary, it often expresses anger or annoyance:<Would you KINDLY
> remove your feet from that seat!/KINDLY shut up at the back!>
> 2 If you want to make a request very polite, one way is to use the
> phrase COULD YOU POSSIBLY...?: <Could you POSSIBLY give me a hand
> with this?/Could you POSSIBLY spare me a minute?>
>
>私は英和辞典が見習うべきなのはこの辞書のやり方だと思います.なお,英国
>産の辞書では Harrap's Essential English Dictionary (1995) も2種類の意味
>と用例を載せております.

そうですね,こういった書き方の方が誤解は少ないと思います。日本の英和辞
典の多くも形式的にはこのやり方に近いのではないでしょうか。というより,
向こうが日本の学習辞典のやり方をまねたと言った方が適切かもしれません。
(^_^;)

ただ,COBUILDはこういった注記はのせずに,語義立てや語義項目の配列順で
すべてを語らせる編集方針ですから,あの項目を書いた執筆者としてはああな
ったのでしょう。

16:27 (火) 07/07/98 井上永幸 <>
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2 INET GATE 1998/07/07 17:03
題名:[lex] COBUILD の 'pragmatics' label {11}

Date: Tue, 07 Jul 1998 16:45:00 +0900
From: 井上 永幸 <>
Reply-To:
To:

東海林 先生:

メールをありがとうございます。

>> このあたり,COBUILD対LDOCE/OALDの姿勢の違いの現われと思います。COBUILD
>> はあくまでデータに基づくという姿勢。データが少なければ,たとえ本来
>> の意味でも無視します。
>
>くどいようで大変申し訳ないのですが、「データが少なければ」の部分の「程
>度」を私は問題にしているのです(<問題点2>・<問題点3>参照)。

そうですね。どの程度からどういった採用の仕方をするのか。そのあたりを編
集レベルで管理できるようにしておく仕組みが必要であると思います。

>私の発言により井上先生が上記のように感じられたのは、私のacademic skills
>の欠如が原因と思われます(まだまだ修行が足りません(;_;))。

いえいえ,私が曲解していた部分もあったと思いますので,気になさらないで
ください。

>> 問題は、実際の言語はそう単純ではないということです。
>> 1と2の中間には無限に近い段階が存在するように思われます。
>> その場合、1にどの程度近ければ語用論的注意を促す必要があるのかという
>> ことが重要になってくるのではないでしょうか。

このあたり,数値化は不可能でしょうから,結局,執筆者・ひいては編集者の
主観によるほかはしかたがないと思います。そのあたりで,COBUILDやその他
の辞書とで扱いに差がでてくるわけでしょう。

>おそらくここで私が自説を繰り返しても意味がありませんから、Bank of
>Englishから私がliteral meaningと判断する例をもう一例だけ示させて下さい。
>
>I am pleased to say that your Prize Draw Number 7080749 has won a
>Runner-Up Prize and attached below is a cheque in respect of your
>winning amount. Kindly detach the cheque and pay it into your account as
>soon as possible.

なるほど,これはかなりliteral meaningに近づいていると思いますが,賞金
を与える立場ともらう立場というのは,やはり気になりますね。(^_^;)

16:14 (火) 07/07/98 井上永幸 <>
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1 INET GATE 1998/07/07 17:03
題名:[lex] Pragmatic information in dictionar

Date: Tue, 07 Jul 1998 16:46:00 +0900
From: 井上 永幸 <>
Reply-To:
To:

東海林 先生:

>> 英国産の辞書では Harrap's Essential English Dictionary (1995) も2種
>> 類の意味と用例を載せております.
>
>HEEDと中身が同じはずのChambersEEDを以前見た時は見落としておりましたが、
>この辞書は(形式上の)「命令文」と「疑問文」を分けて記述しているのです
>ね。
>
>2 If you tell someone kindly to do something you are telling them
>sternly or angrily to do it: Kindly put that photograph back where you
>found it.
>3 You ask someone if they would kindly do something when you are
>politely requesting them to do it: Would you kindly pass me the salt?
>[same as please]
>
>定義文中の2 'tell', 3 'ask'に注目する必要があると思います。
>私が以前3を見落としてしまったのは、例のバスの掲示が(形式上の)「命令
>文」であったことに気を取られていて、2を見てそれ以上の情報があるのを予想
>しなかったためでした。

COBUILDの扱い方との違いがおもしろいですね。3の語義を載せるかのせないか
がCOBUILDの執筆者との判断の違いでしょうが,使われているコーパスが違う
ということも注意が必要かもしれませんね。

問題は東海林先生がおっしゃっている,どの程度3のような用法がでてきてこ
の語義を採用したのかということですね。

>それぞれの形式毎に分けて考えると、この辞書も「断定・断言的」な記述である
>とも言えるかと思います。

新たな疑問ですね。(^_^;)

16:35 (火) 07/07/98 井上永幸 <>
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1 INET GATE 1998/07/07 17:19
題名:[lex] kindlyとplease {1}

Date: Tue, 07 Jul 1998 17:05:00 +0900
From: 井上 永幸 <>
Reply-To:
To:

東海林先生

井上(島根大学)です。再び失礼します。

今度は,辞書の問題というより,語法の問題です。

【東海林先生】
>>おそらくここで私が自説を繰り返しても意味がありませんから、Bank of
>>Englishから私がliteral meaningと判断する例をもう一例だけ示させて下さい。
>>
>>I am pleased to say that your Prize Draw Number 7080749 has won a
>>Runner-Up Prize and attached below is a cheque in respect of your
>>winning amount. Kindly detach the cheque and pay it into your account as
>>soon as possible.

【井上】
>なるほど,これはかなりliteral meaningに近づいていると思いますが,賞金
>を与える立場ともらう立場というのは,やはり気になりますね。(^_^;)

結局,この用法のkindlyは自分より優位な立場の人に対して使えるのかという
ことが問題だと思います。pleaseは「どうぞ」よりも「どうか」に近いという
ことを言っている人がいますが,pleaseは基本的にそれを発している話者に利
益がある場合に用いるという主張です。もちろん,この主張にも疑問点はある
わけですが,それでも,子供が親にねだるときのPlease, please, ... と同様
の用法はkindlyにはないような気がします。

一部の辞書で,pleaseと置き換える説明がありますが,あれもミスリーディン
グだと思います。

16:55 (火) 07/07/98 井上永幸 <>
[辞書学MLログを公開中: http://lexis.edu.shimane-u.ac.jp/inoue/ml_log.html]
--辞書学ML脱会は宛てにsignoff lexと送る--


3 INET GATE 1998/07/07 18:38
題名:[lex] COBUILD の 'pragmatics' label {13}

Date: Tue, 07 Jul 1998 18:21:40 +0900
From: kazuo kato <>
Reply-To:
To:

井上先生:

加藤@岩手医大です.メール拝見いたしました.

> 私の気持ちといたしましては,このメーリングリストは,学術論文と違って,
> 専門家や研究者の方以外の方も多く参加しておられますから,そのあたりのご
> 配慮をいただければ嬉しく存じます。

このことについては個人的な思い出があります.もう大昔,40年も前の話で
すが,私は田舎の中学の英語教師をしておりました.どこが主催だったかもう
忘れてしまいましたが,どこかの大学の先生が当時英語教育との関係で話題に
なっていたアメリカ構造言語学について講演するために田舎の町に来られまし
た.私は構造言語学に興味を持っていたので,楽しみにしてその講演会に参加
したのですが,その先生はその講演を「現場の先生方にはなじみがないかもし
れませんが,構造言語学といっても一昔前のパーマー(H.E.Palmer) みたい
なもので」と切り出して,英語でいうといかにも 'condescending' な態度で,
まさに 'talking down'という感じでした.私はそれ以来,その大学の先生を
「反面教師」にしています.
私がよく先行文献を引用するのは,もしかしてその文献を見てみようと思う
人もいるかもしれないと思うからです.中学の教師をしていたときは,そうい
った文献をたまに上京したときに丸善に注文するなどということもしました.
しかし,文献の書誌事項がわからなくては発注もできません.また,地元の大
学の先生に借りたくても本の名前がわからなくては借りることもできません.
それに自分の意見と他人が発信した情報はきちんと区別する必要があります
ので,引用はきちんとしたいと思っています.

ついでですから,kindly の問題について一言させてください.この問題に
ついては Quirk et al.,A Comprehensive Grammar of the English Language
(Longman, 1985),pp 569-572 の 'Courtesy subjuncts' というところでくわ
しく論じられています.COBUILD の執筆者の方がここを読んでいれば,少なく
とも2版の原稿はああいう風には書かなかったのではないかと思いました.


2 INET GATE 1998/07/07 19:26
題名:[lex] COBUILD の 'pragmatics' label {1}{

Date: Tue, 07 Jul 1998 19:06:00 +0900
From: 村田 年 <>
Reply-To:
To:

加藤先生

村 田  年です.ばけちゃって読めません.ニフテイーの性でしょうか.
東海林先生,井上先生とのやりとり,やっとこさで読ませていただいて
います.皆さん,精力的で驚きです.


1 INET GATE 1998/07/07 19:33
題名:[lex] Pragmatic information in dictionar

Date: Tue, 7 Jul 1998 11:10:12 +0100
From: "Hiroshi Shoji" <>
Reply-To:
To: <>

東海林@バーミンガムです。

(加藤先生)
> >しれません.辞書編纂という仕事は science というより craft ですから
> >個人差が出るのは当然だと思います.

(井上先生)
> どうしたって,craftの部分は残るわけですが,私は個人的には,及ばずな
> がらできるだけscienceに近づけたいと思っております。

(東海林:今回)
私は、このMLでの議論も、craft→scienceへの模索の試みと思っております。

(東海林:以前)
> >くどいようで大変申し訳ないのですが、「データが少なければ」の部分の
> >「程度」を私は問題にしているのです(<問題点2>・<問題点3>参
照)。

(井上先生)
> そうですね。どの程度からどういった採用の仕方をするのか。そのあたりを
> 編集レベルで管理できるようにしておく仕組みが必要であると思います。

(東海林:以前)
>> 1と2の中間には無限に近い段階が存在するように思われます。
>> その場合、1にどの程度近ければ語用論的注意を促す必要があるのかという
>> ことが重要になってくるのではないでしょうか。

(井上先生)
> このあたり,数値化は不可能でしょうから,結局,執筆者・ひいては編集者
> の主観によるほかはしかたがないと思います。

(東海林:今回)
コーパスを分析してpragmatic informationを探る作業には、「データの解釈」
が関わってきますから、「厳密な数値化」は不可能かもしれません。
けれども解釈が疑わしい場合もそれなりに考慮することによって、「ファジーな
数値化」はできるかもしれないと思います。
それに基づいてpragmatic informationを記述する「基準」を設け、それを井上
先生がおっしゃるように「編集レベルで管理できるようにしておく仕組み」を確
立するのが理想のように思えます。
(うまく言いたいことが説明できずに苦労しています(^_^;))。

[lex] kindlyとplease {1}
(井上先生)
> 結局,この用法のkindlyは自分より優位な立場の人に対して使えるのかとい
> うことが問題だと思います。pleaseは「どうぞ」よりも「どうか」に近いと
> いうことを言っている人がいますが,pleaseは基本的にそれを発している話
> 者に利益がある場合に用いるという主張です。もちろん,この主張にも疑問
> 点はあるわけですが,それでも,子供が親にねだるときのPlease, please,
> ... と同様の用法はkindlyにはないような気がします。

Pragmatic informationとstylistic informationというのは私自身、不勉強でそ
の違いを明確に説明できないのですが、以前も引用したことがあるCOBUILD
English Usage (1992)(COBUILD on CD-ROMにも収録)にはこの用法のkindlyは
'rather old-fashioned'とあり、COBUILD2 (1995)には'formal'とあります。
このstylistic informationが井上先生の御指摘(pleaseとの差異)を説明して
いると思いますが、間違っているでしょうか?
(例のバスの掲示も'old-fashioned'かつ/または'formal'であるという説明
は、学習者にとっては実に有益な情報だと私には思えます。)

Hiroshi Shoji
Visiting Research Fellow
CARE, University of Birmingham
(English)
(Japanese)


1 INET GATE 1998/07/07 21:19
題名:[lex] lexicography training {2}

Date: Tue, 7 Jul 1998 13:05:08 +0100
From: "Hiroshi Shoji" <>
Reply-To:
To: <>

東海林@バーミンガムです。

井上先生:

> さて,その後,コースの具体的内容としては,どのようなものに対する関心
> が高いかということに関して,質問を受けております。このMLにご登録の皆
> さんの場合,あるいはご登録いただいていない方を想定した場合でもけっこ
> うですが,どのようなテーマでコースが設定されていれば,そのコースを受
> 講してみたいとお思いになられるでしょうか。どんなご意見でもけっこうで
> すので,皆さんのご興味を引きそうな内容をご提案いただければと存じます。

やはり「コーパス・データの辞書への利用」関連を望みたいところですが、短期
間ということで、受講生がコンピュータの扱いに慣れていない場合を考慮する
と、ハード・ソフトの操作そのものをコースに組み込むのには多少無理があると
思われます。

そこで、次のような提案です。

「コンコーダンス・データの分析から辞書の記述へ」

1.受講生にKWIC(keyword-in-context)形式コンコーダンスのプリントアウト
したデータを与え、講師がまずその分析方法から分析を基にした辞書の本文記述
まで、段階を追って説明する。
2.次に受講生が別の語について同じことを実践訓練する。

現実にはKWICのみではcontext不足のことも多いかとは思われますが、そのあた
りの問題点も指摘しながら、基本的な方法論を提供することには意味があるので
はないでしょうか。

Hiroshi Shoji
Visiting Research Fellow
CARE, University of Birmingham
(English)
(Japanese)


2 INET GATE 1998/07/07 21:31
題名:[lex] 辞書批評の仕方について {1}

Date: Tue, 07 Jul 1998 21:20:00 +0900
From: 井上 永幸 <>
Reply-To:
To:

赤野先生
辞書批評に関するコメントをありがとうございました。

加藤先生

いかに述べさせていただいた意見は,特に加藤先生だけにというわけではなく,
今後同じようなご意見を書き込んでいただく方々にご配慮いただければという
気持ちで書いております。

> 一般論としてですが,代案がなくても発言してもいいのではないかという気
>もしますが,いかがなものでしょうか?代案の提示を非常に大切にする言語学

インフォーマルななかでの議論ですので,代案を強制することも難しいかとは
存じますが,

>関係のいくつかの雑誌で,必ずしも解決案を示さなくても新しい問題提起をす
>る短い論文に対して 'Squib' というコーナーを特設しているものがあります.

別のメールでも申し上げましたように,原則として専門家相手の雑誌とこのメ
ーリングリストは性格が違うように思います。好意的な寸評であればともかく,
特定の辞書に対する一方的な否定的見解は,多くの一般的な登録者の方に大き
な影響を与えます。ましてや,関係者が反論をしにくい状況〔立場や物理的理
由で〕にあるときはなおさらです。よい点と悪い点,また他の辞典との比較を
交えながら,建設的な方向でご意見がいただければと思います。

>まして,辞書は学習の必需品であり,実用価値の高いものですから,悪意の中
>傷でない限りは認めていただいてもいいのではないでしょうか?

意見を述べていただくのはもちろん歓迎ですが,偏りのないようご配慮いただ
ければ幸いです。以前,千葉大の村田年先生が『ヴィスタ』についてコメント
をされていましたが,私は非常に気持ちよく読ませていただいたことを思い出
します。

私もあまり人のことをどうこう言える立場ではありませんので,この辺で終わ
らせていただきます。失礼の段お許し下さい。今後とも宜しくお願い申し上げ
ます。

19:49 (火) 07/07/98 井上永幸 <>
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1 INET GATE 1998/07/07 21:36
題名:[lex] lexicography training {3}

Date: Tue, 07 Jul 1998 21:24:00 +0900
From: 井上 永幸 <>
Reply-To:
To:

東海林 先生:

さっそく貴重なご意見をありがとうございます。

>やはり「コーパス・データの辞書への利用」関連を望みたいところですが、短期
>間ということで、受講生がコンピュータの扱いに慣れていない場合を考慮する
>と、ハード・ソフトの操作そのものをコースに組み込むのには多少無理があると
>思われます。

なるほど,おっしゃるとおりですね。

>「コンコーダンス・データの分析から辞書の記述へ」
>
>1.受講生にKWIC(keyword-in-context)形式コンコーダンスのプリントアウト
>したデータを与え、講師がまずその分析方法から分析を基にした辞書の本文記述
>まで、段階を追って説明する。
>2.次に受講生が別の語について同じことを実践訓練する。
>
>現実にはKWICのみではcontext不足のことも多いかとは思われますが、そのあた
>りの問題点も指摘しながら、基本的な方法論を提供することには意味があるので
>はないでしょうか。

ご意見は,後でまとめて,Rundell氏の方に伝えたいと思います。ありがとう
ございました。他の方もご意見を宜しくお願い申し上げます。

21:21 (火) 07/07/98 井上永幸 <>
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3 INET GATE 1998/07/07 22:10
題名:[lex] COBUILD の 'pragmatics' label {14}

Date: Tue, 07 Jul 1998 22:00:00 +0900
From: 井上 永幸 <>
Reply-To:
To:

加藤 先生:

>なもので」と切り出して,英語でいうといかにも 'condescending' な態度で,
>まさに 'talking down'という感じでした.私はそれ以来,その大学の先生を
>「反面教師」にしています.

なるほど,興味深いお話しありがとうございます。ふだんの加藤先生の精力的
なお書き込みの原点はここにあったわけですね。
〔いいすぎでしょうか?(^_^;)〕

> 私がよく先行文献を引用するのは,もしかしてその文献を見てみようと思う
>人もいるかもしれないと思うからです.中学の教師をしていたときは,そうい
>った文献をたまに上京したときに丸善に注文するなどということもしました.
>しかし,文献の書誌事項がわからなくては発注もできません.また,地元の大
>学の先生に借りたくても本の名前がわからなくては借りることもできません.
> それに自分の意見と他人が発信した情報はきちんと区別する必要があります
>ので,引用はきちんとしたいと思っています.

これはもう加藤先生のお書き込みを見れば,そのご信念はだれにでも伝わって
きます。

21:30 (火) 07/07/98 井上永幸 <>
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2 INET GATE 1998/07/07 22:13
題名:[lex] kindlyとplease {2}

Date: Tue, 07 Jul 1998 22:01:00 +0900
From: 井上 永幸 <>
Reply-To:
To:

東海林 先生:

井上(島根大学)です。

>[lex] kindlyとplease {1}
>(井上先生)
>> 結局,この用法のkindlyは自分より優位な立場の人に対して使えるのかとい
>> うことが問題だと思います。pleaseは「どうぞ」よりも「どうか」に近いと
>> いうことを言っている人がいますが,pleaseは基本的にそれを発している話
>> 者に利益がある場合に用いるという主張です。もちろん,この主張にも疑問
>> 点はあるわけですが,それでも,子供が親にねだるときのPlease, please,
>> ... と同様の用法はkindlyにはないような気がします。
>
>Pragmatic informationとstylistic informationというのは私自身、不勉強でそ
>の違いを明確に説明できないのですが、以前も引用したことがあるCOBUILD
>English Usage (1992)(COBUILD on CD-ROMにも収録)にはこの用法のkindlyは
>'rather old-fashioned'とあり、COBUILD2 (1995)には'formal'とあります。
>このstylistic informationが井上先生の御指摘(pleaseとの差異)を説明して
>いると思いますが、間違っているでしょうか?
>(例のバスの掲示も'old-fashioned'かつ/または'formal'であるという説明
>は、学習者にとっては実に有益な情報だと私には思えます。)

出典も明記せずに,あいまいな発言をしてしまいました。すみません。

私があげた内容のものは
Hofmann & Kageyama (1986) 10 Voyages in the Realms of Meaning,
Kuroshio Shuppain.〔日本名:『10日間意味旅行』〕

の,Chapter 4 Orientationsに現われるものです。ほぼ同じ内容の議論は,

Hofmann, Th.R. (1993) Realms of Meaning. Harlow: Longman.

の,Chapter 5 Orientationsでも扱われています。

Hofmann & Kageyama (1986)のほうから少しだけ引用しますと(pp. 55-56),

Please, or Please ?
This notion of orientation is also useful to understand the
nature of the word please. This adverb is not just a semantical-
ly empty marker that adds a polite flavor to requests (in fact
as we will see shortly, English-politeness is not shown by
please but by Could you ... or Would you ...). Rather please
is a way to say that the action is to benefit the speaker, and
that he will be obliged if the request is properly carried out.
You can use please, then, in requests, pleas, and wishes as in
(a), but using it in giving suggestions, advice or permission as
in (b)--a special error that only Japanese seem to make--is
strange or even weird in English, as the addressee rather than
the speaker is to benefit from the action.

a) Please wash the dishes. [a request]
Will you please wash the dishes? [a strong command!]
Please let me go with you, mummy. [a plea]
Please have a nice trip. [a wish]

b) *Please put the meat on first, so it will be done on time. [recipe]
*Why don't you please put the meat on first. [suggestion]
*Please take 2 pills after each meal. [recommendation]
*You may please go home now. [permission]

といったぐあいです。

21:38 (火) 07/07/98 井上永幸 <>
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1 INET GATE 1998/07/07 22:15
題名:[lex] 加藤先生の文字化け {1}

Date: Tue, 07 Jul 1998 22:00:00 +0900
From: 井上 永幸 <>
Reply-To:
To:

村田 年 先生:

井上(島根大学)です。

>村 田  年です.ばけちゃって読めません.ニフテイーの性でしょうか.
>東海林先生,井上先生とのやりとり,やっとこさで読ませていただいて
>います.皆さん,精力的で驚きです.

実は私のところでも,加藤先生のメールで{7}のみがニフティーで見るときに
文字が化けておりました。Infoweb経由では大丈夫でしたので,他のニフティ
ー経由でご覧の方のために再掲しておきます。ニフティー以外の方はお許し下
さい。<m()m>

>井上先生;東海林先生;朝尾先生:
>
>加藤@岩手医大です.コメントありがとうございました.
>自宅にパソコンがないので,今日(月)学校で日曜日のメールを読みました.
>東海林先生には私見を代弁していただき,恐縮しております.私は東海林先生
>の見解に賛成です.ただ,どこかで Weinreich の例の fair chance と fair
>weather の後半が fair health になっていました.
>
> 私は COBUILD は非常に優れた辞書だと思います.ただ,今度の改訂で使われ
>るようになった 'pragamatics' というは label は感心しません.今回問題に
>なった kindly の語釈は 'pragamatics' という label と用例を除けば,
>COBUILD の初版のものと同じですから,私は初版の語釈に対しても同じ批判を
>することになります.COBUILD の例も朝尾先生がお示しになった例も基本的に
>は同類のものですが,朝尾先生の例は文脈が非常にはっきりしているので助か
>ります.問題はこういう用法が現実の命令文中の kindly の用例のほとんどに
>なるのかどうかということだと思います.
> 反例は東海林先生がすでにいくつか示されましたので,ここで繰り返すこと
>はしませんが,COBUILD の語釈を読む学習者はあの説明が大抵の命令文中の
>kindly の用法にあてはまると読んでしまうのではないか,だとすれば mis-
>leading であろうというのが私の主張でした.しかし,私の批判は「だから
>COBUILD はダメ辞書である」というような全称否定では決してありません.
>COBUILD から学ばなければならないことは沢山あるが,その情報のすべてを
>'gospel truth' として受け取るのではなく,取捨選択すべきであるというのが
>私の主張です.
> 私はかつて OED の without fail は「命令・約束に用いる」という注を孫引
>きした英和辞典を批判したことがあります.今では OED2 on CD-ROM の用例で
>すらこの注に根拠がないということを示しております.したがって,これは
>OED の勇み足だったということになります.しかし,私は OED2 on CD-ROM は
>比較的よく利用する人間の一人だと思っております.ある特定の記述や説明を
>批判することはその批判の対象を全面否定することにはなりません.私は
>COBUILD が次の改訂でこの問題をどう処理するか見守りたいと思います.
> まだ書かなければならないことがありますが,時間がなくなりました.
>

21:34 (火) 07/07/98 井上永幸 <>
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1 INET GATE 1998/07/07 22:24
題名:[lex] kindlyとplease {2}

Date: Tue, 07 Jul 1998 22:08:00 +0900
From: 井上 永幸 <>
Reply-To:
To:

井上(島根大学)です。

一部訂正です。

>Hofmann & Kageyama (1986) 10 Voyages in the Realms of Meaning,
> Kuroshio Shuppain.〔日本名:『10日間意味旅行』〕

上のShuppainはShuppanの間違いでした。

>Hofmann & Kageyama (1986)のほうから少しだけ引用しますと(pp. 55-56),
>
>
>Please, or Please ?
> This notion of orientation is also useful to understand the
>nature of the word please. This adverb is not just a semantical-
>ly empty marker that adds a polite flavor to requests (in fact

上のPlease, or Please ?の部分は,Please, or ,please ?の間違いでした。
~~~~~~ ~~~~~~~〔コンマもイタ〕
実際には~~の部分はイタリックになっています。

本文中にもイタリックの部分はありますが,メール上では特に示しませんでし
た。あしからず。

22:04 (火) 07/07/98 井上永幸 <>
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4 INET GATE 1998/07/08 12:10
題名:[lex] Pragmatic information in dictionar

Date: Wed, 08 Jul 1998 11:10:19 +0900
From: kazuo kato <>
Reply-To:
To:

井上先生;東海林先生:

加藤@岩手医大です.

> (加藤先生)
> > >しれません.辞書編纂という仕事は science というより craft ですから
> > >個人差が出るのは当然だと思います.
>
> (井上先生)
> > どうしたって,craftの部分は残るわけですが,私は個人的には,及ばずな
> > がらできるだけscienceに近づけたいと思っております。
>
> (東海林:今回)
> 私は、このMLでの議論も、craft→scienceへの模索の試みと思っております。

(加藤:今回)
craft ということばを使ったときは Sidney I. Landau, Dictionaries: The
Art and Craft of Lexicography (Scribners, 1984)(邦訳「辞書学のすべて」
研究社,1988)の副題のことを考えておりました.しかし,science を目指す
べきではないとか,science への模索の試みはおかしいとか言っているつもり
はありません.あくまでも「現在の辞書編纂という作業は」というつもりでし
た.

それから,例の kindly の問題ですが,R. W. Burchfield (ed.), The New
Fowler's Modern English Usage (Oxford, 1996), p 434 に面白い記述があり
ました(引用ではイタリックを大文字にしたり,適当に引用符号を補ったりし
ました):

There is some evidence that the use [i.e. the use of KINDLY as in
"Authors are kindly requested to note] to which Fowler objected is
on the wane. In taxis now, for example, the printed message about
smoking is commonly "Thank you for not smoking" rather than "You are
kindly requested not to smoke, Will passengers kindly refrain from
smoking," or the very direct "No smoking."

例のバスの車内広告の refrain from というややいかめしい表現には(日本の
国語辞典なら「老人語」というラベルを貼るような)kindly がふさわしいとい
うことなのでしょうね.


3 INET GATE 1998/07/08 13:33
題名:[lex] 呼称としての親族名 {1}称(3) {1}

Date: Wed, 8 Jul 1998 13:23:44 +0900
From: (SATO Hiroaki)
Reply-To:
To:

精子銀行の精子提で産まれた娘が描かれている「メイド・イン・アメリカ」とう映画
があります。精子提供者のことを娘がどう呼ぶかが参考になります。精子提供者との
関係が深まるにつれて,娘の精子提供者に対する呼び方は,"sperm"==>"guy"==>"fat
her"==>"dad"と変わっていきます。母親や精子提供者は,daddyという言葉を使いま
すが,高校4年生の娘は,<精子提供者>に対して最後までdaddyと呼んでいません。

#1/1 1993 M06-A LD 00:08:16
■Made in America// メイド・イン・アメリカ
娘: So you bought @SPERM?
母親:Yes, yes, I bought the sperm.
娘:How much did it cost?

#1/1 1993 M06-A LD 00:07:41
■Made in America// メイド・イン・アメリカ
娘: You have no idea who the @GUY was?
母親:No.

#9/34 1993 M06-A LD 00:23:15
■Made in America// メイド・イン・アメリカ
(初対面の精子提供者に対して)
娘: You're my >>FATHER<<.
精子提供者:Whose father?

#13/34 1993 M06-A LD 00:27:48
■Made in America// メイド・イン・アメリカ
娘:I found my father.
母親:Wait. Wait. What does that mean, you found your
>>FATHER<<?
娘:I--I went to the sperm bank, got your file from the
computer and he's my father.

#15/34 1993 M06-A LD 00:30:12
■Made in America// メイド・イン・アメリカ
母親:" Hal's your pal "?
娘: That's my dad.

#1/1 1993 M06-A LD 00:38:14
■Made in America// メイド・イン・アメリカ
母親: My daughter came to you...to pour her heart out, and
you offered her a kidney. Now, who the hell do you think
you are?
精子提供者:Oh, now, wait a second, lady. She
caught me off-guard. I mean, I donate an ounce of sperm
18 years ago, and today, some kid wants to call me Daddy.
母親: Excuse me! She does not wanna call you Daddy.

#32/34 1993 M06-B LD 00:45:51
■Made in America// メイド・イン・アメリカ
娘:He's not my father, Tea. You know the worst part... is I
wanted a dad, and he was my dad.

#33/34 1993 M06-B LD 00:50:12
■Made in America// メイド・イン・アメリカ
(朝礼台の上で全校生徒に向かってマイクで家族を紹介する娘)
娘:This is my mom. And--
精子提供者:Your dad.
娘:And my dad.

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ニューヨークやサンフランシスコでは,同性愛者の家庭で育つ子供がいますが,子供
たちは自分を育ててくれている大人をどのように呼んでいるのでしょうか? 食事・
洗濯などの世話をしてくれる片方の大人FrankのことをUncle Frankと呼ぶのは,理解
できますが,Momとは呼べない感じがします。

科学の発達や,社会の変化で,子供と子供を育てる大人の関係が多様化してきている
なか,親子の間の呼び方もさらに変化していくことでしょう。
___________________
佐藤弘明
(SATO Hiroaki)
専修大学商学部


1 INET GATE 1998/07/08 16:12
題名:[lex] 呼称としての親族名 {2}称(3) {1}

Date: Wed, 08 Jul 1998 15:03:04 +0900
From: kazuo kato <>
Reply-To:
To:

佐藤弘明先生:

加藤@岩手医大です.「メイド・イン・アメリカ」に関する情報ありがとうご
ざいました.時々,先生がご覧になっていない映画があるのかな,などと妙な
感心のしかたをしております.


1 INET GATE 1998/07/08 16:47
題名:[lex] Art & Craft {1}

Date: Wed, 8 Jul 1998 07:00:31 +0100
From: "Hiroshi Shoji" <>
Reply-To:
To: "lex" <>

東海林@バーミンガムです。

加藤先生:

> craft ということばを使ったときは Sidney I. Landau, Dictionaries: The
> Art and Craft of Lexicography (Scribners, 1984)(邦訳「辞書学のすべ
> て」研究社,1988)の副題のことを考えておりました.しかし,science を目
> 指すべきではないとか,science への模索の試みはおかしいとか言っているつ
> もりはありません.あくまでも「現在の辞書編纂という作業は」というつもり
> でした.

もちろん、加藤先生が同書(名著だと思います)を頭に入れて御発言されている
ことは当然のことと思っておりました。
もちろん、scienceを「模索」することが必要だという考えは変わりませんが、
おそらくLandauがある程度威厳を込めてArt and Craftという表現を使ったよう
に、いつの時代になっても「人間」が関わる以上、この部分は残るのだとも思い
ます。

(そもそも私は前回、「scienceの確立」という表現を、慌てて「scienceへの模
索」と書き換えたのでした(^_^;)。)

(ちなみに余談ですが、日本のどこかの大書店が、在庫紹介パンフレットの中で
Landauの著作を『辞書学の美術と工芸』と訳しているのを見て苦笑したことがあ
ります(^_^;)。
このことを訳者のお一人である小島先生にお話したところ、先生は、「そもそも
lexicographyという語は、(-logyや-icsなどのように)「学問」を示す形をし
ていないのだよ」と指摘されたことがあり、なるほどなあと思った記憶がありま
す。)

(コンピュータ・グラフィックスの技術が如何に進んでも、「絵心」がなければ
いい作品は書けないのと事情が似ているのではないでしょうか?)

Hiroshi Shoji
Visiting Research Fellow
CARE, University of Birmingham
(English)
(Japanese)


1 INET GATE 1998/07/08 18:43
題名:[lex] Pragmatics & Stylistics {1}

Date: Wed, 8 Jul 1998 10:00:20 +0100
From: "Hiroshi Shoji" <>
Reply-To:
To: "lex" <>

東海林@バーミンガムです。

加藤先生:

> それから,例の kindly の問題ですが,R. W. Burchfield (ed.), The New
> Fowler's Modern English Usage (Oxford, 1996), p 434 に面白い記述が
> ありました(引用ではイタリックを大文字にしたり,適当に引用符号を補っ
> たりしました):
>
> There is some evidence that the use [i.e. the use of KINDLY as in
> "Authors are kindly requested to note] to which Fowler objected is
> on the wane. In taxis now, for example, the printed message about
> smoking is commonly "Thank you for not smoking" rather than "You are
> kindly requested not to smoke, Will passengers kindly refrain from
> smoking," or the very direct "No smoking."
>
> 例のバスの車内広告の refrain from というややいかめしい表現には(日本
> の国語辞典なら「老人語」というラベルを貼るような)kindly がふさわし
> いということなのでしょうね.

またまた、貴重な情報ありがとうございます。
引用された部分を読んでみますと、pragmaticな要素とstylisticな要素とは密接
な関係を持っているというのではという感を強くしました。
そして両者が関わり合いつつ、時代と共に変化していく場合があるのではないで
しょうか?

英語史関連の講義で、次のような単語の意味変化の例を担当の先生(上田稔先
生)は用いられました。
sillyはもともとhappyの意味であった。
それが「ばかげた」という意味に変化したのは、日本語の「おめでたい」と少し
事情が似ている(例、「あいつはおめでたい奴だ」)。

意味・用法の変化はある日突然起こるのではありませんから、「過渡期」が必ず
あるはずです。
kindlyの場合も、現在その「過渡期」にあるのかもしれません。
「過渡期」の用法の記録が、辞書にとっては難しいというわけですね。

本当にいつも、勉強の機会を与えていただき、ありがとうございます。

Hiroshi Shoji
Visiting Research Fellow
CARE, University of Birmingham
(English)
(Japanese)


4 INET GATE 1998/07/09 12:33
題名:[lex] kindly の語釈の変遷 {1}

Date: Thu, 09 Jul 1998 11:53:39 +0900
From: kazuo kato <>
Reply-To:
To:

加藤@岩手医大です.

「性懲りもなく」と言われそうですが,この問題を少し時間を追って整理して
みたくなりました.下の引用では原文のボールドやイタリックを大文字に変え
たり,用例の前後に < > をつけたりしております:

LDOCE1 (1978):
2 please:<Will you kindly put that book back?/Kindly put it back.>

LDOCE2 (1987):
2 (esp. used to show annoyance) please:<Will you kindly put that
book back?/Kindly put it back.>

LDOCE3 (1995):
2 SPOKEN FORMAL a word meaning 'please', which is often used when
you are annoyed:<Will you kindly put that book back?>

USAGE NOTE: KINDLY
FORMALITY
A request like <would you kindly ...?> or <kindly shut the door!> is
formally polite. In informal contexts it sounds as though you are
annoyed and <could you possibly...?> would be more usual.

OALD3 (1974):
2 (in polite formulas)<Will you kindly tell me the time?>

OALD4 (1989):
2 (used when making polite requests or ironically when ordering sb
to do sth) please: <Would you kindly hold this for a moment?/Kindly
leave me alone!>

OALD5 (1995):
2 (used when making polite requests or with IRONY(1) when ordering
sb to do sth) please: <Would you kindly hold this for a moment?/
Kindly leave me alone!>

COBUILD1 (1987):
2 If you ask someone to KINDLY do something, you are showing that
you are angry with them, or that you have a feeling of superiority
over them. EG <Kindly take your hand off my knee.../Can you kindly
tell me how this situation has got this far?>

COBUILD2 (1995):
2 If someone asks you to KINDLY do something, they are asking you in
a way which shows that they have authority over you, or that they
are angry with you; formal use. <Will you kindly obey the instruc-
tions I am about to give?>

HEED (Harrap's Essential English Dictionary) (1995):
2 If you tell someone KINDLY to do something you are telling them
sternly or angrily to do it: <Kindly put that photograph back where
you found it.>
3 You ask someone if they would KINDLY do something when you are
politely requesting them to do it: <Would you kindly pass me the
salt?> [same as PLEASE]

CIDE (1995):
"Kindly" is used when asking someone to do something, usually if you
are annoyed with them but still want to be polite: <Kindly put that
book away.>

順序が逆になりますが,私は「Subject: [lex] 新刊辞書情報 {2} Date: Tue,
26 May 1998 11:30:43 +0900」で次のような報告をしました:

Harrap's Essential English Dictionary(HEED) が CEED になった「内部事
情」はわかりませんが,HEED と CIDE の関係については,昨年8月26日早稲田
大学で行われた「英語辞書研究会講演会」で,Tom McArthur が "Guides to
tomorrow's English: The shapes that dictionaries and other works of
reference have begun to take on, in order to cope with English as
universal language" という講演の「脱線」の中でこんな話をしていました:
CIDE はもともと Cambridge-Chambers が共同で企画し,Tom McArthur が中心
になって編集作業を進めていたのだそうですが,3年後に両社の間に "acrimony"
があって "divorce" したそうです.その時の「離婚」の条件が,データベース
は共有してお互いが自由に使ってかまわないということだったそうです.
その後 Chambers は Larousse に身売りしたそうですが,Larousse は
Chambers だけではなく Harrap も買収し,Chambers の本は Harrap のものに
なったということでした.今改めて HEED を見てみると,確かに Published by
Chambers Harrap Publishers Ltd とあります.そんなわけで Tom McArthur は
CIDE と HEED の双方に親のような気持ちを持っていると言っていたようです.
(データベースが同じですからこの二つの辞書は "much the same" だとも言っ
ていました.)

もし,HEED と CIDE が同じデータベースを使っているとするなら,なぜこのよ
うな食い違いが出てくるのでしょうか?私は,これはライバル辞書の学習の結
果(「模倣」とは言いません)だと思います.CIDE の語釈は COBUILD1 のもの
に酷似しております.
実は,これはたまたま発見したのですが,CIDE が COBUILD1 をよく研究した
と思われる状況証拠がもう一つあります.それは eclectic という語の語釈で
す:

COBUILD1: '... means choosing what seems to be best or most useful from
several different sets of ideas or beliefs, rather than following one
complete set of ideas or beliefs only; a formal word'

COBUILD2: 'If you describe a collection of objects, ideas, or beliefs
as ECLECTIC, you mean that they are wide-ranging and come from many
different sources; a formal word'

2版では初版の語釈から 'Best or most useful' が消えています.これはこの
個所がまずかったからだと私は判断します.CIDE の語釈は COBUILD1 の語釈
の言い換えみたいなものです:

CIDE: 'fml (of methods, belief, ideas, etc.) combining what seems the
best or the most useful thing from many different areas or systems,
rather than following a single system'

趣味が悪いと言われそうですが,私がこれに気づいたのは an eclectic reader
を「良書を取捨選択して読む読者」というある英和辞典のゲラを見たからです.
この訳がどこから生まれるのかと思って,ある先行辞書を見ると「作品を吟味
して読む読者」という訳が見えます.これはどうも私がこの単語について持っ
ていたイメージと違うので,いろいろ調べているうちに COBUILD1 の語釈に行
き当たって,ああこれがそうだったのか,と思いました.そして,私は「色々
な分野の本を読む人,雑読する人」という修正案を提案しました.
自慢話をして悪趣味であると言われそうですが,背景説明が必要だと思った
のです.

ずいぶん長くなりましたが,私はこの kindly の問題に関する限りは OALD5
や LDOCE3 の扱いが 'sensible' だと思います.LDOCE3 USAGE NOTE で 'In
informal contexts it sounds as though you are annoyed....' だと言って
いるところがポイントだと思います.大雑把な言い方をすると,皮肉な読みは
formal な kindly が informal なコンテクストで使われるときに生じる,と考
えていいように思います.
また,COBUILD1 の二つ目の例は面白いと思います.<Can you kindly tell
me how this situation has got this far?> に怒りや不機嫌の響きが出てく
るのは 'this situation' というように話し手がこの状況にかかわっているか
らで,もしこれが 'this situation' ではなく 'that situation' と言えば,
話し手はその状況に対して第三者として客観的な関心を持つだけになりそうで
す.そうすれば,皮肉や怒りの感情は薄くなるのではないでしょうか.
この辺は微妙なところですから,主張ではなく一つの示唆と受けとめていた
だければ幸いです.
長くなったついでに,インターネットのサイトで拾った please と kindly
が共起している例を紹介して終わりにします:

Also, please kindly refrain from posting articles on the Quincente-
nary to "nn.general" henceforth....

Please kindly refrain from using profanity, making libelous state-
ments or engaging in personal attacks.


4 INET GATE 1998/07/09 19:23
題名:[lex] kindly の語釈の変遷 {2}

Date: Thu, 9 Jul 1998 10:56:59 +0100
From: "Hiroshi Shoji" <>
Reply-To:
To: <>

東海林@バーミンガムです。

加藤先生、

引用していただいた各版の辞書、日本にいれば研究室もしくは自宅で短時間に調
べることができるのに、こちらでは(特に円安の折)重複して購入するのがため
らわれたり、図書館に出かけていくのを億劫がったりしておりました。
日本在住時より英国産辞書へのアクセスが悪いという状況は、何ともバツが悪い
ものです。
けれども必要なものは近くに置いておく必要性、それから面倒臭がってはいけな
いということを痛感致しました。

わずか20年の間に(現代において20年は「わずか」では決してないのかもし
れませんが)、1つの語の用法記述がこれほどまでに変化しているのを見ると、
記述の態度の変化も多少はあるでしょうが、「用法」そのものが変わってきたこ
とも言えそうに思えます。

私の最初の問題提起は純粋に「共時的」なものでしたが、現代用法に関してで
あっても、「通時的」なアプローチを取ることで見えてくる面もあるということ
を、今回の議論で学ばせていただきました。

コーパス・データでそのような用法変化を探るためには、少なくとも10年刻み
で調べてみなければならないように思えます。
コーパス検索のuser interfaceも、分野毎に分けて検索できるだけではなく、年
代毎に検索できるようにすることが望まれるのではないでしょうか(CD-ROM版の
OEDのように)。

先生の御発言はいつも考える機会を与えて下さいます。
本当にありがとうございます。

Hiroshi Shoji
Visiting Research Fellow
CARE, University of Birmingham
(English)
(Japanese)


3 INET GATE 1998/07/10 11:47
題名:[lex] ニフティーでの同報メールアドレ {1}

Date: Fri, 10 Jul 1998 11:19:00 +0900
From: 村田 年 <>
Reply-To:
To:

ニフテイー・マネジャーでの同報メールの作り方

村田 年(千葉大)です.
ニフテイー・マネジャーのバージョンアップ(4.50)をして,さて新し
い同報メールを作ろうと思ったら,うまく作れません.ニフテイーで同報メ
ールを作っている方がいらっしゃったら教えて下さいませんでしょうか.

1.一般のローカル・アドレスから同報メールの方へ ID をコピーする方法.
2.同報メールのアドレスから一般のアドレスへコピーする方法.
3.同報メールAから適当にピックアップして同報メールBを作る方法.

これが旧バージョンでは簡単にできたのですが,できません

ニフテイー・マネジャーでホームページを読む,これもある先生に教えてい
ただいて,さんざん試みたがいまだ成功していません.

機器に弱い者には E-mail ひとつでもきついですね.

よろしくお願い致します.


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