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1998年7月 (21日〜31日)


Subject: [lex] Here we go! {1}
Date: Tue, 21 Jul 1998 10:14:57 +0900
From: kazuo kato <>
Reply-To:
To:

加藤@岩手医大です.

Here we are! と Here we go! についてですが,後者について辞書に次のよう
な記載があります.引用に際してはフランス語のアクサンは省略,ボールドは
大文字に変え,用例は < > にはさみました.

最初は Betty Kirkpatrick, Dictionary of Cliches (Bloomsbury, 1996)です:

HERE WE GO! is a twentieth century cliche used to imply repetition,
usually the repetition of something which one has already found tedious,
as <Here we go! She's going to tell us about her struggle to get to the
top again.> The expression is also used in the more obvious sense of
'we are about to start'. When trebled, HERE WE GO!, HERE WE GO!, HERE
WE GO!, the expression becomes a well-known football supporters' chant.

この chant については Nigel Rees, Dictionary of Catchphrases (Cassell,
1995) がくわしく書いています:

HERE WE GO, HERE WE GO, HERE WE GO! chant sung to the tune of Sousa's
'Stars and Stripes for Ever' beloved of British football supporters,
though it does have other applications. It suddenly became very
noticeable at the time of the Mexico World Cup in June 1986. The
previous year, the Everton football team had made a record of the
chant, arranged and adapted by Tony Hiller and Harold Spiro. This
version included an excursion into Offenbach's famous Can-Can tune.

Here you go! や Here you are にも物を手渡す場面以外で用いる用法がありそ
うです.



Subject: [lex] Here you go {7}
Date: Tue, 21 Jul 1998 12:22:44 +0900
From: Asao Kojiro <>
Reply-To:
To:

朝尾@東海大学です。

Back to the Future 1, 2, 3 について Here you go. という
部分を調べてみました。 2 の方の最初に1つ、3 の方に2つ現
れます。最初の例はどういった場面か思い出せないのですが、
2番目、3番目は物を渡している場面ですね。行の前の数字は
ビデオの頭からの時間です。

Back to the Future 2 から

00:32:35 Hydrate level 4, please.
00:32:36 [bubbling]
00:32:38 [ding]
00:32:41 Mmm.
00:32:44 Is it ready?
00:32:45 Here you go.
00:32:47 Mom, you sure can hydrate a pizza.

Back to the Future 3 から

04:01:30 Give me some soap, Frank.
04:01:32 Here you go.
04:02:38 Hyah!

04:22:23 Once we pass this windmill,
04:22:24 it's the future or bust.
04:22:29 Here you go, Marty.
04:22:30 Connect that to the positive terminal.

Here you are. が現れるのは 1 の最後の部分にひとつあります。

01:38:54 Yes. 70 years, 2 months, 12 days, to be exact.
01:38:57 Sign on line six, please.
01:38:59 Here you are.
01:39:11 It's from the Doc!
01:39:16 "Dear Marty, if my calculations are correct,
01:39:19 "You will receive this letter
01:39:20 "Immediately after the Delorean's struck by lightning.

------------------------------ phone (work): 0463-58-1211 --
朝尾幸次郎 東海大学(文学部)英文学科 内線: 3133
fax (work): 0463-50-2239
-- http://www.lb.u-tokai.ac.jp/~koji/ ----------------------



Subject: [lex] Here you go {8}
Date: Tue, 21 Jul 1998 14:38:03 +0900
From: (SATO Hiroaki)
Reply-To:
To:

At 0:22 PM 98.7.21 +0900, Asao Kojiro wrote:
>Back to the Future 1, 2, 3 について Here you go. という
>部分を調べてみました。 2 の方の最初に1つ、3 の方に2つ現
>れます。
CC(クローズド・キャプション)には,セリフの省略がある(が,歌詞は省略されて
いない)聴覚障害者用CCと,英語のセリフの省略がない(が,フランス語やドイツ語
などは省略され,歌詞も省略される場合の多い)英語学習用CCとがあります。朝尾先
生のデータは,聴覚障害者用CCですね。

Back to the Future 1の英語学習用CCには,

  00:11:14 Here you go, lady.
   There's a quarter.
  
があります。聴覚障害者用CC(米oldCC)だと,この部分は,

  00:11:18 HERE, LADY.
THERE'S A QUARTER.

Back to the Future 1に関しては,もう1つセリフの省略の少ない聴覚障害者用CC(
米newCC)もあります。これだと,CCがセリフの通りhere you goです。

  00:10:24 HERE YOU GO, LADY.
  00:10:24 THERE'S A QUARTER.

次のBack to the Future 1の3つのCCも,微妙に違います。

  米oldCC: 00:05:50 I'LL REMEMBER THAT.
  米newCC: 00:04:55 I'LL KEEP THAT IN MIND.
  日本製英語学習用CC:
   00:05:43 - Yeah, I'll keep that in mind.

DVDの英語字幕は,大文字・小文字混じりで表記される点が,日本製英語学習用CCと
同じです。しかし,DVDの字幕には,セリフの省略があります。また,DVDの英語字幕
は,「絵」として記録されているため,テキストファイルに変換して,データベース
で検索することは出来ません。

DVDが普及してLDが消えてしまうと,日本製英語学習用CCもなくなってしまうのでしょ
う。秋葉原では,日本製英語学習用CC付きLD映画が3割引き,5割引きで投げ売りさ
れています。買うなら今の内です。

___________________
佐藤弘明
(SATO Hiroaki)
専修大学商学部



Subject: [lex] kick the dirt {1}
Date: Tue, 21 Jul 1998 18:12:46 +0900
From: kazuo kato <>
Reply-To:
To:

加藤@岩手医大です.

例えば,to get lost がその原義からずれて Get lost! のように慣用的に使
われることは珍しくありません.しかし,ある表現がいつ文字通りの意味を離
れて成句として用いられるかというのは予測が難しく,辞書にその情報が網羅
されているわけでもありません.
The International Herald Tribune, July 16, 1998, p. 8 に次のような,
この間の参議院議員選挙の論評があります(問題の個所は強調のために大文字
にしてあります):

Elections in Japan usually produce political custodians. Voters
KICK THE DIRT, resigned that nothing ever changes. For decades that
proposition has kept the financial markets calm. But last Sunday's
parliamentary elections were emphatically something new.

これは選挙民がいらいらして地面を蹴っとばすということではないかと思いま
すが,次の例も同じような例ではないかと思います.これは1947年の
World Series で Joe DiMaggio がホームラン性の当たりをにレフトのブルペン
の上で捕まれ,腹立ちまぎれにセカンドの前の地面を蹴飛ばしたところを描写
したものです:

...Al Gionfriddo took a homerun away from Joe DiMaggio, plucking
the ball out of the left-field bullpen. He saw the great DiMaggio
KICK THE DIRT just in front of second base.

(この He は Red Foley という記者です.)

また, KICK THE DIRT は感情的な含みなしに,動物がするように単に「土を
足で蹴る」という意味でも使うこともあります(例は省略).

これで話が終わりになれば何のことはないのですが,上の用法とは異なる用
法があり,この意味をどう定義すべきか今迷っています.次のような例です:

As an aside, I am continuously annoyed by the prevalence of B-
School MBA's who got into the business on the strength of their
number crunching abilities. Better they should go out and KICK THE
DIRT and understand the market place. Anybody can pick up Lotus or
Excel. When it comes to cimputer spreadsheets, garbage in, garbage
out.

"This is a chance for guys to chew the fat, get away from their
wives, get drunk, KICK THE DIRT," said Wooten Johnson, a 27-year-old
Democratic operative.

どうも「(比喩的に)泥まみれになる」という意味のようですが,用例があま
り多くないので,自信がありません.同僚の米人は出張中なので今は相談がで
きません.どなたか教えて下さいませんか.


Subject: [lex] Here you go {9}
Date: Wed, 22 Jul 1998 00:02:30 +0100
From: "Hiroshi Shoji" <>
Reply-To:
To: <>

東海林@バーミンガムです。

Here you goに関するBank of English (320-million-word full version)による
調査結果の「一部」を報告します。

here+you+goの全ヒット件数:68

brspok (BR informal transcribed talk)での出現頻度が最も高く、1.4/million
(29件)で、以下次のように続きます。

npr (US National Public Radio): 0.5/million(11件)
usbooks (US miscellaneous books) : 0.3/million( 9件)
brbooks (BR miscellaneous books) : 0.3/million(11件)
(以下略)

一番頻度の高いbrspokは、(transcription以外にほとんど情報のない)spoken
corpusの宿命で、使用状況がわかりにくいものが多く、実際に何かを手渡す時に
使われているのかどうかを確認することが不可能なものがほとんどです。

<brspokより>
<F0X> Shut up. <F0X> MX and his fetish. <F0X> <tc text=laughs> <tc
text=pause> <M0X> Here you go. <tc text=laughter> <M0X> <ZGY> <F0X> It's
brilliant isn't it. <F0X> That is so just brilliant. <F0X> It's
absolutely wonderful.

次に頻度の高いuprは、純然たるspoken corpusと純然たるwritten corpusの中間
的存在とも言えるもので、ラジオドラマの録音なども含まれていて、brspokより
は使用状況判断が容易である場合が多いと感じました。

<nprより>
<p> Unidentified Man #2: Would you like a doughnut? <p> Unidentified
Child #5: Yes. <p> Unidentified Woman #1: Would you like something to
drink? <p> Child #5: And a drink. <p> Man #2: OK. Here you go. <p>
Tomlinson: As the relief effort, slow and haphazard at first, is kicked
into higher gear, most kids are now eating regularly.

usbooksとbrbooksの実例を見ると、登場人物のセリフに'here you go'が登場
し、その前後どちらかもしくは両方に、地の文で状況が説明されているものが比
較的多いことに気付きました。
それぞれ1例ずつ示したいと思います。

<usbooksより>
<p> We've been partners for three years," Michael told Burke. <p> That's
great." <p> Here you go, sport." Brian handed Michael a Calistoga on the
rocks.

<brbooksより>
Edwin offered me coffee and dematerialized when I declined. When I sat
down beside him, Ollie reached inside his jacket and pulled out the
pigskin volume. `Here you go," he said. <p> I accepted the Dutch Blue
Error in both of my hands.

これだけ明確に説明されていると、here you goが何かを手渡す場面で使われる
ことがはっきりわかります。

今回の調査から気付いた点をまとめておきます。

1.transcription以外に情報が少ないspoken corpusは、ある言語表現の「頻
度」を知る上では有力なデータとなるが、その使用状況判断は困難な場合も多
い。
2.written corpusを利用して動作を伴う口語表現を調査する場合、登場人物の
セリフに出現する当該表現の前後どちらかもしくは両方の地の文から、その使用
状況を判断できる場合が比較的多い。

当たり前のことかもしれませんが、今回調べてみて「実感」できました。

Hiroshi Shoji
Visiting Research Fellow
CARE, University of Birmingham
(English)
(Japanese)



Subject: [lex] コービルド物語7 {2}
Date: Wed, 22 Jul 1998 17:05:10 +0900
From: kazuo kato <>
Reply-To:
To:

村田先生:

加藤@岩手医大です.

夏休みに入ってほっと一息ついて「積ん読」していた雑誌をめくっていたら,
The HIT-centre--Norwegian Computing Centre for the Humanities で出して
いる ICAME (International Computer Archive of Modern English) Journal,
No. 22 (April 1998), pp. 107-111 の, "The 18th ICAME conference in
Chester, England (21-25 May 1997)”という Hilde Hasselgard の記事が目に
とまりました (-gard の a の上には,北欧語のアルファベットの小さな丸があ
ります.Hasselgard はオスロ大学の人です).その中にいつかの「コービルド
物語」で話題になっていた Antoinette Renouf の名前があります:

"The town of Chester was certainly a beautiful setting for the 18th
ICAME conference, which was organized by Antoinette Renouf and her
team at the University of Liverpool."

ところが,この記事は COBUILD の Bank of English には一度もふれず,コー
パスの中では BNC に比較的多くの紙面をさいています.これが Antoinette
Renouf がバーミンガムを去ったことに関係があるのかどうかわかりませんが,
ワイドショー的な興味をそそられ,おもしろいと思いました.


Subject: [lex] NTCの辞書を読む {1}
Date: Thu, 23 Jul 1998 10:57:50 +0900
From: (okada terutada)
Reply-To:
To:

日本大の岡田です.新刊情報を頼りに、早速NTCマックミランの辞書を購入しました
.それで、全くの素人の一使用者としての感想を一言、三言.装丁:箱入りですが、
使っているうちにページが膨らんできて箱に入りにくくなります.「なんとかの基礎
知識」みたいに時々使うなら未だしもしょっちゅう使うなら箱は邪魔になるでしょう
.表紙が薄くてすぐ捲れてしまいます.約50ページずつの合本的製本ですから、使
用しているうちにお腹が出てきて、それに沢山の手術の傷跡みたいなのが縦に浮き上
がって(術後の私の連想で失礼)、やがてその辺を境にバラバラに割れてくるかも知
れません.これはペーパーの宿命でしょうか.しかし、活字は平明で、各項目毎に1
行分の空白があるのは大変見やすく、うれしい.
内容:発音表記で/ei/が/e/ , /ou/が/o/で表されていますが、とくに前者はどうも
馴染めません.例文はLDOCE,AOLDなどより大人の感じがしますがJohn,Jimmy,Bill,Bi
llyと主語に多く使われる人名はまさに民主党政権ですか.それで、かどうかは知り
ませんが、invasionの例文はちゃっかり真珠湾攻撃を入れて、忘れませんよと主張し
ているようですし、roachの項では女性に踏み殺させて平気です.折角、新しい辞書
を作るのですから、いっそのことAの項の人名はハリウッドの男女優の名前を主に、B
の項は犯罪者の名前にするとか、etc,etc..一工夫欲しいですな。
また、丸番号の多用やご丁寧にカッコの中を(Pt/pp: left)と大文字にするのも目障
りなら、名詞、動詞にいちいちirrg.とイタリックで繰り返し表記するご丁寧さには
ほとほと感心を通り越します.例えば、leaveにed-form などあるのでしょうか.等
等.そういえば、この語の記述の素っ気なさは、例えばCIDEなどに比べてなんとも言
いようがありません.
イディオムについては、今までのアメリカの辞書に比べて沢山なのは歓迎ですが、例
えば、keep one's eye on someone or somethingの例文では、Bill/his,heのどちら
かを別の語に変えたい気がします.自分の浪費は注意していてもダメで、すぐやめる
べきことだからです.
巻末のインデックスは便利ですが、地名に関しては、例えばZambiaの項は1年前の出
来事ながら間に合わなかったのかコンゴと区別がつきません.ついでに言えば、地名
は、特別長い情報ではありませんから、Gazetteerを見よというのをやめて、そこに
組み込めば同じ巻末にある地図を見るのも手間が省けていいのですが.
もちろん、不勉強な私には初めて知ったということは山ほどありますが、専門の方に
教えて頂きたいのは、たどえば、riskの項でrunはもう古くて、あるいはアメリカで
は、使わないのでしょうか.summon 2. and sommons.tv.の例文にI will sommons
you.とありますが、これは別見出しにしたほうが現代的では?というのも、summonの
複数形はsummonsesで、過去(分詞)はsummonsedがありますから.またyoke, yolkそ
れぞれに「比較せよ」とありますが語源的なことにたいする注意ということでしょうか
.本当に興味深かったのはrunnyで、半熟卵と鼻水が連想されるというのは大変いいこ

とを教えられたと思います.それにしてもdecelerateとに限らず何度も同工同曲の例
文でしっかりと運用能力を高めるように工夫されているようです.以上、パラパラと
めくって見た感想ですが、これだから素人は困ると笑わないでください.多分、私は
次の改訂版がでるころまでにはこの辞書をバラバラにしていると思いますから.


Subject: [lex] コービルド物語7 {3}
Date: Thu, 23 Jul 1998 13:04:32 +0900
From: Minoru MURATA <>
Reply-To:
To:

加藤和男先生

村田 年です.
いつもいろいろな面で教えていただいております.
Antoinette が元気で活躍中なのは何よりです.
Bank of English にふれてないのはアントワネットに気をつかっている面もある
かも知れませんが,もともと ICAME にしても Lancaster の Prof. Leech に
しても London大学の Survey にしても Bank of English には冷たいのではない
でしょうか.中村純作先生とか井上永幸先生のように ICAME で仕事をされた先生
に解説してもらいたいところです.Leech でしたか(?),Computer Linguistics を
概観していてコービルドの Corpus にほとんどふれてないものを読んだ記憶があ
りますが.
コーパスの構築に対する考え方にかなり大きなずれがあることが根本にあるので
はないでしょうか.
バーミンガムからの帰りにロンドン大学の Survey で1週間ちょっとコロケー
ションの調査をさせていただいたときも Greenbaum はコービルドの話は避けて
るというか,無視してる様子で,私がコービルドではここがこうなっていて,
その方が便利ではないかと言うと,いやな顔をされて,その内容を聞こうとは
されませんでした.(私はこの頃はすっかりバーミンガム学派の一員になって
いたんですねー.)

kazuo kato <> さんは書きました:
>
> "The town of Chester was certainly a beautiful setting for the 18th
> ICAME conference, which was organized by Antoinette Renouf and her
> team at the University of Liverpool."
>
> ところが,この記事は COBUILD の Bank of English には一度もふれず,コー
> パスの中では BNC に比較的多くの紙面をさいています.これが Antoinette
> Renouf がバーミンガムを去ったことに関係があるのかどうかわかりませんが,
> ワイドショー的な興味をそそられ,おもしろいと思いました.



Subject: [lex] 個人的なお願いですが {1}
Date: Thu, 23 Jul 1998 23:26:17 +0900
From: "Kazunobu Minari" <>
Reply-To:
To: "井上研究室ML" <>

三成和伸と申します。

加藤先生がかなり前になされた投稿(下に全体を引用します)ですが,English Today
に掲載された各種学習辞典の書評の記事を読みたいと思い,配信されたメールを見返
していたところ,"ET12(2):>41-47"とありましたので,この号を見てみました。しか
し,出版年が1988か1989年頃になっており,書評が見つかりませんでした。お恥ずか
しいことですが,あとで考えてみると,CIDEの出版年が1995年であるので中身を見る
までもなくCIDEに関する書評はでていないことに気づくべきでした。

そこで加藤先生にお願いですが,書評が掲載された号をもう1度教えていただけない
でしょうか。お手数を掛けますがよろしくお願いします。

-----Original Message-----
差出人 : kazuo kato <>
宛先 : <>
日時 : 1998年6月17日 11:07
件名 : [lex] COBUILD の 'pragmatics' label {1}

>加藤@岩手医大です.
>
>COBUILD の kindly の 'pragmatics'の情報を直訳した英和辞典の問題が取り上
>げられました.
>>
>> 安井稔・長谷川ミサ子(1997)『私家版英和辞典』(p.17)に、
>>
>> Kindly take your hands off my knee.(...)のような場合のkindly
>> は、話し手の側における怒りと優越感を示す.
>>
>> とあります。ご参考までに。
>
>数年前ある英和辞典の校閲をしていたときに送り状の一つに次のように書いた
>ことがあります(1996年5月27日):
>
> COBUILD の情報を(中略)採り入れるときには COBUILD のいう
>'pragmatics'に関する情報は相当割愛してかまわないのではないかと思います.
>例えば,indiscriminate には新しく「(けなして)」という注がありますが,
>これは '..., you are critical of it because it does not involve any
>careful thought of choice' という部分に基づくものでしょうが,「(けなし
>て)」という語感は「無差別の,見境のない,無計画の,でたらめな」という
>訳語に十分出ていますから,わざわざ述べるまでもないことです.これまでの
>ゲラでも自分の考えでこの種の注はかなり削除するよう指示してきたような気
>がしますが,最近届いた雑誌 English Today の記事の一つ,Larousse plc in
>Edinburgh の Robert Allen による LDOCE, COBUILD, CIDE, OALD の書評にも
>全く同趣旨のきびしい指摘があり,我が意を得たりと思いました (ET 12(2):
>41-47).
> Allen は COBUILD の 'pragmatics' というラベルについて 'However, this
>device [i.e. 'pragmatics' label] is something of an illusion, since
>much of the information about pragmatics is implicit in the defining
>style, and adding a signpost does not necessarily make the point any
>clearer. It is more effective at function words like INDEED than at
>words whose main characteristics is (for example) markedness, like
>LOUSY.' (p. 45) と述べています.
>
>問題の命令文中の kindly は「いんぎん無礼」な用法でしょう.もし注をつけ
>るとしたら,この種の用法については「皮肉な使い方もある」のような注記で
>十分ではないかと私は思います.COBUILD や『私家版英和辞典』の注は「やり
>すぎ」であると私は判断します.
> 英英辞典の情報を英和辞典に採用する際にはやはり「検証」が必要だと思い
>ます.従来は indiscriminate な採用が多かったように思います.



Subject: [lex] 辞書研究会からの連絡 {1}
Date: Thu, 23 Jul 1998 23:51:00 +0900
From: 村田 年 <>
Reply-To:
To:

                             1998.7.22
JACET英語辞書研究会会員の皆様へ
英語の辞書に関心のある方々へ

    JACET英語辞書研究会
        世話人:赤野一郎  赤須 薫  井上永幸
                  小林ひろみ 南出康世 村田 年
             山田 茂
           URL: http://www.f.chiba-u.ac.jp/JACET-LEX.html

1.新同報メールを作りました
 辞書研の同報メールを改訂する呼びかけに応じて再登録をいただきましてあ
りがとうございました.再登録者がかなり少なかったものですから,少しこち
らの判断で加えさせていただきました.入るつもりはなかったのに,という方
は申し訳ありませんがご連絡下さい.

2.前回の「英語辞書研究会6月例会」の報告
設定・連絡と司会を担当された畠山利一さんに簡単な報告を寄せていただき
ました.

 前回ここでご案内いたしました表記の会が1998年6月14日(日)に園田学園女
子大学(兵庫県尼崎市)で開催されました.関西ではじめての例会(通算で第
14回)でしたが丁度30人の参加があり盛会となりました.英語辞書研究会のお
世話をしていただいている村田年先生をはじめ東京からの7人の方が来られ、中
国地方、九州から来られた方もありました.
 新緑を伸ばした木々に囲まれて、きれいな校舎が立ち並び、すぐ近くを幹線
道路が走っているとは思えないほど静かなところで例会が行われました.二つ
の研究発表がありました.濱嶋 聡氏(園田学園女子大学助教授)はオーストラ
リアの英語辞書・辞書学について話された.続いて南條健助氏(大阪国際大学
・甲南大学国際言語文化センター非常勤講師)は学習英和辞典における発音表
記について話された.どちらも熱のこもった内容で、発表後に活発な質疑応答
がありました.
 その後、大学近くの焼き肉屋へ席を移しての懇親会には18人の方が残られ、
研究発表の会場で論じ足りなかった事柄などに議論の輪が広がり、親睦が深ま
りました.午後6時過ぎに解散しました.    畠山利一(大阪国際大学)

3.ワークショップでぜひ発表を!
 昨年のワークショップは京都で開かれ,40人もの発表者を得て盛会でし
た.今年は 11月28日(土)に早稲田で開きます.ぜひご発表をお願い致しま
す.詳細は 6月10日付でご案内しましたが,辞書研のホームページを見ていた
だくか,またはご請求いただければ再度お送り致します.
 同僚,友人,教え子の方々も誘って発表して下さい.

4.AILA'99 Tokyo(国際応用言語学世界大会)で発表を!
 AILA'99 東京大会(1999年8月1-6日.於 早稲田大学)でぜひ研究発表して
下さい.この大会は世界65ヶ国から2000名以上の参加者が見込まれ,キーノー
ト・スピーカーとしても第一級の学者が30名以上も招待されています.1000件
の発表が予定されています.
 われわれの辞書研としてはシンポジウムとポスターセッションを出す予定で
企画中です.
 詳細は6月14日付でご連絡してありますが,請求いただければ再度お送りいた
します.正規のサード・サーキュラーが間もなく出来上がる予定です.
AILA のホームページをご覧下さい.
http://langue.hyper.chubu.ac.jp/jacet/AILA99/
発表の申込み締切は9月30日です.

5.9月11日のシンポジウムに参加を!
 JACET年次大会の中で開かれる辞書研のシンポジウムは司会の赤須 薫さん
(東洋大学)を中心に提案者の討議が進んでいます.大会要綱の原稿も提出し
ました.
日時: 9月11日 14:10--15:40
場所: 就実女子大学(岡山県岡山市)T館 208室
テーマ:学習辞書と用例
次回に赤須さんに詳しく書いていただく予定です.

6.日本で Lexicography Training Course を開く
 LDOCE3の Managing Editor を務めた Michael Rundell 氏から2,3日か
ら 2週間までのいくつかのコースを企画中との連絡を受けました.どのぐら
いの参加者が見込めるかわかりませんが,辞書研のメンバーに連絡することは
しますと返事をしておきました.
Hartmann博士企画の Inerlex seminar の東京での開催もまだ具体化していな
いようです.このような辞書学のゼミは歓迎ですが,企画の経費の点で問題が
あるのではないかと思います.

連絡先:村 田  年
      
      FAX: 043-290-3747
      〒273-0865 船橋市夏見4ー9ー5


Subject: [lex] 「コービルド物語」を読んで {1}
Date: Fri, 24 Jul 1998 00:52:27 +0900
From: "NISHIMURA Tadamasa" <>
Reply-To:
To: "lex" <>

学者が、何気なくしてくれる暮らしぶりの話には、後を追う者にとって、
勉強の仕方を教えてくれることが多々あります.「コービルド物語 7」には
次のように書かれていました.

… という問題を常に意識しながら仕事をし、人と話をしてきた。
わかったと自分で思ったことは歩きながら何ども頭の中ではん
すうした。(… 反すうということの強さを確信した。バーミンガム
は広い。… 最初は歩きながら英会話の勉強をした。そのうち
飽きてしまってもっぱら自分の経験とその解釈のはんすうにそ
の時間を使った)

学者の薀蓄はこのようにして成るものかと、学問の仕事場をのぞかせて
もらった思いがしました.

このところ、CD-ROM の辞書を、パソコンの画面に引き出す使い方をし
ているうちに、辞書が無機質的なものにしか見えませんでした.しかし、た
とえば辞書学者がこのようにバーミンガムで研究していたことを知ると、
辞書が足音をたてて歩いてくれます.

またほんの最近は盤崎先生が、「コービルド人物小史」(月刊『言語』)で、
COBUILD という辞書が足音をたてて生きているのだということを感じさせて
くれました.(したがって、メメント・モリ でもありましょうけれど.)

『ジーニアス英和辞典』は、私の大好きな英和辞典ですが、辞書を使うの
に慣れていない学生の利用の仕方をみていると、この辞書がなんだか、ス
ペース節約のための方法を最大限に生かして、ともかくありったけの情報
を詰め込んでしまえ、といっただけの辞書のように見えることもありました.

しかし、『英語青年』創刊100周年記念号で小西友七先生が語った兵士
としての話を読んで、『ジーニアス英和辞典』が私のなかで生きて歩いてくれる
ようになりました.

小西先生は徴兵のため繰り上げ卒業でその後、飢えと雨のビルマで
戦友の三分の二を失う野戦生活、1年の抑留生活、とのこと.寡聞にし
てこの雑誌でこれをはじめて知りました.たまたま、阿川弘之著『暗い波涛』
を読んだあとだったので、ビルマの野戦状態がどのようだったかよく想像が
つき、怖くなります.

これからは小西先生の辞書を引くたびに、このことを思うでしょう.学生に
この話をしておいたら、とも考えますが、そのためには戦争文学をまず読ま
せなくてはならないし、….

村田先生の 「コービルド物語」 がこんなことを考えさせてくれました.

(西村 公正)


From: 磐崎 弘貞 <>
To:
Subject: [lex] From Bham {1}
Date: Fri, 24 Jul 1998 04:15:00 +0900

lexの皆様、

磐崎@筑波大学です。今、少しの間、バーミンガムに来ています。
M Lewisのcollocation辞書が昨年出ているのを、初めて知りました
(東海林さんの机の上にあったので)。

Ramishも、COBUILDの事件の後、大学に残って教えているのを知り、
大変嬉しく思いました。彼はいろいろな議論に応じてくれます
(これは村田先生のコービルド記にもありましたね)。

磐崎弘貞



From: kazuo kato <>
To:
Subject: [lex] 個人的なお願いですが {2}
Date: Fri, 24 Jul 1998 09:21:37 +0900

三成和伸様:

加藤@岩手医大です.メール拝見しました.

> 三成和伸と申します。
>
> 加藤先生がかなり前になされた投稿(下に全体を引用します)ですが,English Today
> に掲載された各種学習辞典の書評の記事を読みたいと思い,配信されたメールを見返
> していたところ,"ET12(2):>41-47"とありましたので,この号を見てみました。しか
> し,出版年が1988か1989年頃になっており,書評が見つかりませんでした。お恥ずか
> しいことですが,あとで考えてみると,CIDEの出版年が1995年であるので中身を見る
> までもなくCIDEに関する書評はでていないことに気づくべきナした。
>
> そこで加藤先生にお願いですが,書評が掲載された号をもう1度教えていただけない
> でしょうか。お手数を掛けますがよろしくお願いします。
>
"ET12(2): 41-47" は April 1996 号です.English Today の巻・号の表示は
ちょっとややこしくて困ります.この雑誌は最初は通し号数で表示していまし
たので, ET1 から ET12 までは通し号数,通し号数 ET13 からは巻号表示との
2本立てになりました.この書評が掲載された "ET12(2): 41-47" は正確には
ET46 Vol.12 No.2(April 1996),pp.41-47 です.
私が出版年を明示しなかったため,ご迷惑をおかけしたようで申し訳なく思っ
ております.



From: 村田 年 <>
To:
Subject: [lex] コービルド物語8 {1}
Date: Sat, 25 Jul 1998 23:30:00 +0900

        バーミンガム学派の人々(8)

村 田   年

 学寮の仲間たち

 隣の部屋にはマークがいる。5人で一組なのだが、やはり隣が一番近い。どうしても
付き合いが多くなろう。マークは19歳の地球物理学の学生で、学部の学生は大半帰郷
してしまっているのに、毎日判で押したように大学に出て勉強している。生活はたいへ
んにつましい。毎日8時30分に寮を出る。痩せ型、長身で、色白であるが、そうハン
サムというほどではない。イングランドの西南端のコーンウオール出身で、言葉は相当
なまっている。
 マークは靴は一足しか持っていない。大きな編上げ靴で、すごく重い。寮の中では裸
足で歩いていて、登校時になると靴を持って食堂に来る。椅子に座って靴下を履き、ゆ
っくりと靴を履き、靴紐を上のほうまできちんとていねいに締める。
 雨模様の日は革ジャンで、天気がよさそうならば、黒シャッツで出かける。傘は持っ
ていないようで、雨の日でも濡れてゆっくり歩いて行く。並んで歩くと彼の方が速い。
コンパスが私より相当大きいのだ。
 食事はもちろんきちんと一人で作る。パンは、イースト菌入りのオート麦の粉の大袋
を買っておいて、三日に1回ほどの割で、こねて焼く。テーブルの上をちょっと拭いて
、パンこねを始める。出来上がるとオーブンのトレーいっぱいに伸して、ていねいに何
回もオリーブオイルを塗る。オイルをとても大事にしていて、料理の要所、要所で必ず
オイルを使う。彼の棚には特大のポリのオイル瓶が控えている。短い滞在で、外食も多
いからと、バターとマーガリンで代用しようという私などとはまったく違う。
 「すごいな、おいしそうだね」などとほめると、必ず一切れくれる。「デリシャス!
」とほめると、ちょっとにこっとして、もう一切れくれる。ざらざらして、重い感じで
、昔子供の頃よく作ったボッタラの味がした。これなら腹にたまるし、オート麦の粉は
只みたいに安いから、つましく暮らすにはもってこいだ。
 どの学生もオイルが好きだ。大学の食堂でも定食はいつもオイルでどろっと煮たもの
が多い。学生達は料理の途中でオイルを使い、さらに上がりにオイルをかける。私がご
はんを炊くと、次にどうするのかと見ている。これで終わりなんだ、と言うと、それじ
ゃおいしくも何ともないじゃないかという顔だ。マークなどは大事なオイルの大瓶をで
んと私のそばに置いて、使えと言う。困ったな、と思って出来上がっている肉じゃがの
中にごはんを全部入れてしまうと、始めて彼らは落ち着き、何という料理かと名前を聞
く。
 「出前一丁」という日本のインスタント・ラーメンがチャイニーズ・スーパーで10
個いくらで安売りしていたので買ってきた。おもしろいヌードルだと学生たちが例によ
って見にきた。オイルと香辛料がついているのに彼らは感心した。マークのところに友
達が3人来ていたので、4つあげたら、さっそく食べたようだったが、1つ半残してあ
ったところをみると、それほどの味ではなかったのだろう。なにしろマークはこの日は
ほかに食べ物は何も持っていなかったのだから。
 マークはこのようなじみな生活をしていて、お金を使うこともほとんどない。土・日
に町をぶらぶらしているとよく彼に会った。彼も休みの日まで勉強してはいられないの
だろう。私も一人でコービルドにいると、午後には出歩きたくなる。繁華街と言っても
たいして広くはないので、歩いているとよく知っている人に会う。井門先生の滞在中は
よく町で会っては中華を食べに行った。とにかくチャイニーズ・レストランは広々とし
ているのがよい。ゆっくりくつろいでビールを飲むにはバーミンガムではここよりいい
所はない。値段は少し高いが、旅費を充分貰ってきているので気にならない。
 中華にマークを誘ってもなかなか彼はついてこない。高いのを知っているからだろう
か。ガバメント・ペイで来ているんだから心配することはないんだ、と言っても、3度
に1度しか来てくれなかった。プライドが許さないのかも知れない。何しろ町は日本の
電気製品が溢れていて日本人は金持ちだということは学生達には知れ渡っている。彼は
律儀な男で、ネクタリンが嘘みたいに安かったからと1個あげても、お返しに李を1個
くれるといった具合いである。
 また今日も彼はパンをこねている。「彼女、ぼくのをおいしいと言ってくれるんだ」
とマークが言った。こいつ、かっこつけやがって、こんなしみったれた生活をしていて
彼女がいるのかしらと疑った。ここではたいていの学生はガールフレンドがいる。

 ディヴィドは、みんなデイブと呼んでいたが、学生にしてはちょっと年をくっている
なと思った。夏休みでも大学へ行っているのかと聞いたときは否定しなかったので、学
生だと思っていたらそうではなかった。彼はこの夏休みだけ大学で臨時雇いのポーター
をしているのだった。テニスのラケットをボストンバックに入れて、半ずぼんにテニス
シューズという、いかにも学生ですといった出で立ちで寮を出て行く。しかし、一度食
堂へ行くときにディブに会った。彼は作業服を着て胸に写真のついた名札をつけていた

 デイブは労働者階級の出で、苦労もしているのであろう。多少こすっからいところが
ある。食堂で使うものはだれかが買ってきたら人数で割ってみんなに請求することにな
っている。彼は自分の弁当のサンドイッチを包むのに買ってきたラップや銀紙の代金を
いつもみんなに請求していた。ほかには弁当など作る者はいなかった。毎朝トマトを切
り、レタスをのせ、チーズをのせて、ナイフで上手に切りそろえてラップと銀紙に包ん
で、ハンカチに包んで縛り、ボストンバックに入れて出かけた。
 デイブはビールの珍しいほどの小瓶か、これまたワインの超小瓶を1ダースずつ買っ
てきては、それを全部冷蔵庫に入れる。ソーセージなども大量に買ってくる。もしかし
たらブルリングの露天商の叩き売りで買ってくるのかも知れない。いや、もっと安いと
ころがあるのだろう。なにしろ失業者が町に溢れているのだから。小型の冷蔵庫は彼の
もので大半は塞がれてしまう。ひとのことにはあまり気を使わないようだ。アメリカか
ら来た元教授のエリックが注意したら、彼も負けてはいないで、食ってかかっていた。
その時の彼のバーミンガムなまりは全然聞き取れなかった。これはだめだ、おれには喧
嘩はできないと思った。
 一日が終わって、一杯やるのは最高だね、特にフランスのワインはいい、などと言っ
て、きちんと毎晩一本づつ飲んでいる。料理もいろいろと工夫をしてかなり凝ったもの
を作っている。
 
フランクはドイツ人で、ロンドンのあるカレッジで経済学を専攻している院生だ。よ
くはわからないがフィナンシャル・ジャーナリズムが専門で、政府の予算と財政、それ
とジャーナリズムとの関係に関心が高いようであった。日本の経済や政治にも強い関心
を持っていたが、そちらに手を広げるつもりはないとのこと。とにかく早く学位を取っ
てドイツに帰り、しかるべきポストに就きたいと言う。
彼も経済的余裕はないのだ。EC諸国からの留学生だから、おそらくなんらかの奨学
金で学費は無料だと思うが、留年でもすればとたんに5000ポンドの授業料の請求が
くるだろう。
フランクは実にきちんとしていて、彼らから見れば東の果てから来た私のような者の
面倒を何かと見てくれる。最初の日に出入りするたびに廊下のかぎを閉めることを教え
てくれ、忘れたときにはやんわりと注意してくれた。冷蔵庫でも戸棚でも5分の1は使
っていいんだ、と私の戸棚を決めてくれもした。他の学生達はみんな勝手にパンでも果
物でも野菜でも冷蔵庫の入れていたから、中はぎっしりいっぱいだった。
 まな板と台ぶきんがなかった。テーブルの上のパンくづはだれも気にしなかった。た
まにだれかが食器を洗うスポンジをぎゅっと絞ってさっと床に払うぐらいが精いっぱい
だった。私はそれほどきれい好きでもないが、自分の机の上を日に何度か乾いたぞうき
んで拭いたり、口でフーフー吹いたりする癖があった。これは清潔癖というよりは一種
の病気であった。それでさっそくタオルを2つに切り、台ぶきんを2枚作った。せっせ
とテーブルやらシンクの台の上をそれで拭いた。学生たちは、おっさん何をやってんだ
といった眼でみていた。だれもタオルの台ぶきんを使う者はいなかった。台ぶきんを使
うという習慣はもしかしたらないのかも知れない。
 しかし2週間もすると様子が違ってきた。彼らも台ぶきんを使い始めた。私が初めて
来たときよりもみんなだいぶきれい好きになってきた。熱いやかんを持つときやトレー
をオーブンから取り出すときにも台ぶきんを使うようになった。ぞうきんの便利さを認
識したようであった。
 食器を拭くふきんは2枚あった。日本のふきんより大きなものであった。包丁も2本
あった。これを便利に使わせてもらった。こういったものは共通のものとしてすべての
寮に配布されているのかと思っていた。しかしそうではなかった。フランクがアルバイ
トが終わってロンドンに引き上げると、ふきんも包丁もなくなっていた。
 とにかくフランクはよく気が付く、親切な男だった。仕事から帰ると、すぐに食堂へ
きて、ソニーの小型ラジオをかけて、仕事先の新聞社インデペンデントから持ってきた
何種類もの新聞を読んでいた。みんなそれを読ませてもらうのが楽しみであった。彼は
だれにでもよく話しかけた。それはまるで英会話の練習をしているようであったが、お
そらくはそうではなくて彼の性格がそうしているのであろう。そんなふうだから英語は
うまかった。なまりの多い寮生達の英語もだいたいわかるようであったが、それでも「
ソーリー?」とかなり聞いていた。
 日本のことが新聞に出ていると、よく持ってきてくれた。日本の記事は毎日のように
新聞のあちこちに出ていた。戸塚ヨットスクールの校長が無罪になったという記事には
弱った。フランクはそれほどではなかったが、マークは私などの説明では納得しなくて
眼をつぶってさらに私の説明を待った。アンディは馬鹿にしたような態度を取った。後
で入ってきた教授のエリックもこれは説明がつかないだろうと言っていた。このように
日本のことはいまや世界が注視しているということをわれわれは忘れてはならないだろ
う。
 マークはシンクにお湯を一杯にして洗剤をふんだんに入れて食器を洗う。洗い方は大
げさで徹底的である。オーブンのトレーからなべの1つ1つにいたるまで、われわれが
使った皿まで洗ってくれる。それはいいが泡だらけのまま伏せるのには弱った。西洋人
はすすぎ洗いをしないと聞いていたけど、ほんとにそうなんだ、とマークに言うと、「
それがどうしたの?」ときた。どうも洗剤は消毒になるのでかえっていいとおもってい
るようだ。仕方がないから自分で使う皿はマークが見てないときに洗い直すことにした

 マークはパンをこねるときも、炊事をするときも地球物理の専門雑誌を持ってきて、
それをちらちら見ながらやっている。日本の物理学者の名前も何人か知っていると言う
。19歳の学生がどうしてこのように専門的なのだろうか。それはAレベルの試験のせ
いだ。イギリスの教育制度の場合専門化が極端に早い。マークはグラマースクールの6
年生(6th form、2年間、16〜17歳)になるときに地球物理を専攻する決心をした。そ
してこの6年生の2年間、ほぼ数学と物理学と天文地理学だけを勉強し、Aレベルの試
験を受け、3つともAを取った。理論的には彼はオックスフォード、ケンブリッジ、ロ
ンドンのいずれの大学へも行けた。
 しかし、例えば、ケンブリッジのチャーチルカレッジを見ると、AASを要求してい
る。Sはスペシャルで、Aよりいいんじゃないか、と言うと、マークは顔色を変えてそ
んなことはない、Sはスペシフィックの略で、試験の範囲を狭く限定して、より専門的
な問題に答えるので、かえってやさしいのだと言う。
 スタッフハウスのわきにあるブックストアー、ディロンで大学受験年鑑みたいなのを
4冊見つけた。よくよく比べて読んで一番いいと思われるのを買ってきた。これを読む
とイギリスでの大学とは何か、また大学に入るにはどうしたらいいのかがよくわかる。
 とにかくAレベルというのはたいへんな試験だ。Aを1つ取っているだけでも偉いも
ので、就職にはたいへん有利だ。アンディはそれほどの成績ではなかったらしくて、ロ
ンドン大学に入りたかったが、とても無理でサセックス大学にしたと言う。いいじゃな
い、サセックスも有名だ、日本でもよく名前を聞いたよ、と言ってやったら、そうです
か、と言って、ほほえんだ。
 そのときは3人の学生たちのガールフレンドが来ていたが、彼女たちはこのへんの話
がよくわからないようで、男子学生たちが突然雄弁になり、それぞれ自分の受験時代の
自慢話を始めたときにもただ相手の顔を見ているだけだった。
 話はだいぶ脱線したが、とにかくマークは19歳にしていっぱしの専門家で、日本の
竹内均東大名誉教授などの業績も知っているのである。博士課程を出て大学の教師にな
ることに心の中で決めている。ケンブリッジやロンドンよりもバーミンガムのほうが研
究者になりやすいと思ったのかも知れない。なにしろケンブリッジで博士課程に残るの
は至難の技である。現在のスタッフの学歴を見てもわかる。学部はオックスブリッジを
出ているスタッフが多いが、学位は大半は外で取っている。ロンドン大学ならばいいほ
うである。これからは少し模様が変わってくるだろう。かえってバーミンガムで博士を
取ったほうが近道かも知れない。千葉大を見ても医学部は大半が千葉大出身の教授だ。
工学部もいまにそうなるだろう。



From: "Hiroshi Shoji" <>
To: "lex" <>
Subject: [lex] 速報TALC98 {1}
Date: Tue, 28 Jul 1998 01:29:52 +0100

東海林@バーミンガムです。

7月24日(金)より27日(月)までオックスフォード大学Keble Collegeに
おいて、Teaching And Language Corpora 98 (TALC98) が開催されました。
直接辞書に関係しそうな発表は少なかったのですが、COBUILD社からJeremy
Clearが招かれていることもあり、私も参加してきました。
日本からの参加者は、ポスターセッションで発表されたランカスター大学博士課
程の投野さんを含めて5名でした。

<24日>
Pre-conference Workshops
私が参加したのは、Battle of the Giants: the Bank of English and the
British National Corpus (Jeremy Clear and Guy Aston) というものです。
BNCの方から始まり、SARAという専用ソフトの使い方の説明が中心でした。
BOEはtelnetとJava両方のインターフェースによるデモが中心でした。
正直なところ、両者共に多少準備不足の感がありました(本当はあまり書きたく
はないのですが、特に後者)。
コンピュータを使いながら短時間でコーパスを説明する難しさが出てしまったよ
うです。

TALC98はBNC陣営の大会と言っても言い過ぎではないでしょう。
サイト(http://users.ox.ac.uk/~talc98/)にBNCへのリンクが張ってあること
からも明らかです。
その大会にJeremyがguest speakerとして招かれたのにはほっとするものがあり
ます。
磐崎先生が『言語』にお書きになっている文章からも明らかなように、彼は
「BOEとBNC両方に関わった唯一の人物」です。Workshopの中でも、BNCの設計段
階において「smoky roomの中で議論に議論を重ねた挙句、何とか妥協が成立し
た」という裏話も語っておりました(コーパスの「設計」が如何に大事か、再認
識させられました)。

一人一つのWorkshopにしか参加できなかったので、これ以外については私はわか
りません。

Opening Plenary: Jeremy clear, Do you believe in grammar?
いわゆるgrammatical tagsを付けたコーパスが本当に有効か?という問題提起に
始まるスピーチでした。
内容を簡単にまとめてみます(誤解がないことを祈ります)。

1.既成の文法範疇(品詞等)に基づいたtagを付けたコーパスは、どの範疇に
属するのか判断が難しい-ing形を「とりあえず」どれかに分類しなければならな
いといった問題点を抱えており、必ずしも文法記述の役には立たない。
2.むしろ既成のtagを離れた純粋な「形」からスタートし、前後環境
(collocation)に注目して分類していくといった原点に戻った分析方法から、
新たな発見が生まれる可能性がある。

現在のCOBUILD projectの一環として、COBUILD Grammar Pattersのシリーズがあ
り、このシリーズが上記のコンセプトに基づいて作成されていることをアピール
する目的もあったと思われます。
(リストラ後のCOBUILDにおいて、Jeremyの立場は非常に重いものがあり、
linguist, computer officerに加えてsales managerまでこなさなければなりま
せん。最後の役割ははっきり言って彼以外の人物がすべきであり、この点が私に
は残念でなりません。これは決して彼がその仕事に向いていないという意味では
なく、最初の2つの役割「だけ」をこなすことが彼にとってもCOBUILD社にとっ
ても結局は有益であると信じるからです。)

その後の研究発表では、WordSmith Toolsの製作者、Mike Scott氏も登場しまし
た。
彼の発表を始め、keywordという概念が用いられている発表が目立ちました。
コーパス(テキスト)内の全ての語を同列に扱うのではなく、頻度以外の何らか
の形で差別化をするという方向性が見られるようです。

さて、長くなりましたので以下は別メールにします。

Hiroshi Shoji
Visiting Research Fellow
CARE, University of Birmingham
(English)
(Japanese)



From: kazuo kato <>
To:
Subject: [lex] caught short {1}
Date: Tue, 28 Jul 1998 10:57:25 +0900

加藤@岩手医大です.

The International Herald Tribune, July 24, 1998 (New York Times Ser-
vice), p.22 に Sir Paul McCartney が10代のほとんど(1955-1964)を過ご
した住宅が観光用の博物館として8月に店開きするという記事があります.The
National Trust が3年がかりで壁紙まで当時のままに復元したものだそうです
が,その記事の中に次のような個所があります:

... and visitors caught short will even be permitted to use the
original outdoor bathroom next to the coal shed.

この caught short の用法は私は初めてだったのでちょっと調べてみました.
(この記事は米国向けですから bathroom と言っていますが,英国では普通
lavatory ですね.)
BNC の簡易検索では caught short は21件ヒットしましたが,その約半数が
この用法です.ですから,LDOCE の 'BrE informal' 'to have a sudden
strong need to go to the toilet' のラベルや語釈には異議がないのですが,
BNC の例の中には「突然トイレに行きたくなって,間に合わず失敗してしま
う」という意味で用いられているものがあります.文脈がはっきりしているも
のは次の3例です(最初の例の bathroom はトイレが「風呂場」と別になって
いる,英国流の「風呂場」ですね):

One morning, he got caught short in the bathroom and was too weak to
clean it up.

My dog is often 'caught short', how can I keep my lively cat amused
indoors?

Singaporeans caught short in the lift are electronically locked in
until the police arrive.

また,これが英国用法であるらしいことにも異議はないのですが,検索した
Washington Post の20例の中に次のような例がありました:

... on the occasion of Freud's first lectures here [in the U.S.A.] ,
Freud got caught short when they were out sightseeing and wet his
trousers.

この記事の書き手が英国英語の話し手である可能性もあると思いますが,米国
英語ではこのような使い方を本当にあまりしないのでしょうか?

ところで,英和辞典の中には,「「突然」尿(便)意を催す」の「突然」を
はしょってしまったものがあります.また,「不意を襲われる」という意味の
caught short の原義にふれず,単に成句としているものがありますが,これは
利用者にとって親切とは言えません.

また,辞書には take/get caught short と ありますが,BNC の簡易検索で
は take の例はなく,be/get caught short だけでした.



From: "Hiroshi Shoji" <>
To: <>
Subject: [lex] RE: [lex] 速報TALC98 {1} {1}
Date: Tue, 28 Jul 1998 22:51:53 +0100

東海林@バーミンガムです。

TALC98続報です。

<25日>
エセックス大学で開発されたブラウザでアクセス可能なオンラインのコーパス教
育+実践使用のプログラムの紹介から始まりました。
http://clwww.essex.ac.uk/w3c/
からアクセスできます。
確かによくできたプログラムだと思いますが、ダイアルアップ・アクセスだとき
ついですね。
続けて新聞記事のCDがコーパス代わりになるという提案、香港における英語母
語話者と広東語母語話者によるspoken corpusの分析から得られた結果などが報
告されました。
昼食後のフリータイムの後、夕方にはポスターセッションが実施され、日本から
の唯一の発表者である投野さんの発表題目は'Learner corpora and SLA
research: morpheme order studies revisited' でした。
日本の中2から高2までの生徒による作文データに基づいたmorpheme
acquisition orderの調査結果の発表で、英語母語話者に関してこれまで主張さ
れてきた習得順序との比較などが提示されました。

<26日>
この日最も数多くの発表件数があったのですが、質疑応答で議論を呼んだ面白い
トピックがありましたので御報告します。
コーパス言語学のウェブサイトで有名なRice UniversityのMichael Barlow氏と
同大学から参加したもう1名の女性が、リーディング素材とコンコーダンス・
データを組み合わせたタイプの教材を提案しました。
Barlow氏は(特に米国で)KWIC方式のコンコーダンスが教材としてなかなか受け
入れられない状況を指摘し、彼の提案する教材でもKWIC方式を避けたフル・セン
テンス方式のコンコーダンスを採用したことを発表すると、質疑応答ではKWIC方
式を擁護する意見が相次ぎました。
Corpus Linguistにとって、KWICという方式はやはりraison d'etreのようなもの
で、その形式が否定されるとやや過剰気味に反応してしまう部分があるようで
す。

(発表で指摘されたKWICの欠点)
学習用として使うには、途切れ途切れになってしまっていてコンテクスト不足

(質疑応答でのKWIC擁護意見)
何よりもターゲットとなる言語表現が中心に置かれていることによって、フル・
センテンス方式よりもその前後の結びつきが明確に認識されるはず

(WordSmith ToolsのMike Scott氏のジョーク交じりのコメント)
KWICではなく、これからはWOPICと呼ぼうじゃないか(Word or Phrase in
Context)
(テキスト中の頻度以外の差別化により抽出されるkeywordとは別の概念なのだ
から)

私はコーパス言語学の勉強を始めたばかりの時にKWICという形式に初めて触れ、
何とも言えない興奮を覚えた記憶があります。
その興奮からこの分野に入っていった方が他にもいらっしゃるのではないでしょ
うか?
個人的には、KWICでコンテクスト不足の場合は前後をextendできるインターフェ
イスが辞書編集の場合も教育の場合も最も有効なように思います(確かにプリン
ト・アウトされたKWICだけではどちらの場合にも役立たないケースが多いのかも
しれません)。

最終日については次のメールにさせていただきます。

Hiroshi Shoji
Visiting Research Fellow
CARE, University of Birmingham
(English)
(Japanese)



From: kazuo kato <>
To:
Subject: [lex] 速報TALC98 {2}
Date: Wed, 29 Jul 1998 12:01:37 +0900

東海林先生:

加藤@岩手医大です.「速報TALC98」興味深く拝見しております.

> <24日>
> Pre-conference Workshops
> 私が参加したのはABattle of the Giants: the Bank of English and the
> British National Corpus (Jeremy Clear and Guy Aston) というものです。
> BNCの方から始まり、SARAという専用ソフトの使い方の説明が中心でした。
> BOEはtelnetとJava両方のインターフェースによるデモが中心でした。
> 正直なところ、両者共に多少準備不足の感がありました(本当はあまり書きたく
> はないのですが、特に後者)。
> コンピュータを使いながら短時間でコーパスを説明する難しさが出てしまったよ
> うです。

「後者」というのはどちらですか?タイトルのコーパスの順と説明の中のコー
パスの順序が異なるので,私にはよくわかりませんでした.それとも,この曖
昧さは意図されたものだったでしょうか.



From: "Hiroshi Shoji" <>
To: <>
Subject: [lex] RE: [lex] 速報TALC98 {2} {1}
Date: Wed, 29 Jul 1998 08:01:22 +0100

東海林@バーミンガムです。

加藤先生:

> 「後者」というのはどちらですか?タイトルのコーパスの順と説明の中のコ
> ーパスの順序が異なるので,私にはよくわかりませんでした.それとも,こ
> の曖昧さは意図されたものだったでしょうか.

先にも書きましたように、どちらかと言えばBNC陣営がBOE側を招いたとい
う形を取っていたので、タイトルでは敬意を表してBOEを先に持ってきたので
しょう。
実際の発表順はBOEをメインイベントに持ってくるという形で敬意を表したた
めか(end focus??)、BOEの方が後でした。
私が「後者」と書いたのは「後に発表された方」でした。
「無意識に」曖昧に書いてしまったかもしれません、お詫び致します。
Jeremyは午後にもスピーチがあったので大変だったのでしょう。
(彼の立場については1番目の報告に書きました。)

さて、TALC98最終日です。

<27日>
数件の発表の後、オックスフォード大学Worcester CollegeのJean Aitchison教
授によるClosing Plenaryがありました。
タイトルは、Pursuing Runaway Words。
鋭い言語感覚を持った学者がコーパスを使うとこうなる、というお手本のような
スピーチだったと思います。

(特に印象に残った部分)
*類義語の区別にはコロケーションに注目する必要がある(broad vs wide,
chase vs pursue)。
*calamity, disasterという両者の語をコーパス(BNC)で調査すると、それ
ぞれの現れ方がかなりはっきりとした差異を示し(spoken or written)、口語
で使われた'absolute disaster'などはtrivialな状況を表すことが多いのがわか
る。
*同じ語から由来する派生語関係にある語が、必ずしも同程度の比重を持つとは
限らない(devastatedはtrivialな状況で使われることも多く、これに対して
devastationはseriousな状況で使われることがほとんどである)。

ノン・ネイティブとして、非常に「学習辞書的」情報に溢れるスピーチと感じま
した。
昼食時にたまたまAitchison教授の隣に着席する機会に恵まれ、現在の自分の研
究(強調語のコロケーション)と密接に関係があるので大変印象を受けたと申し
上げると、研究成果が出たら見せてほしいと言われました(社交的complimentだ
と思いますが…)。

次回のTALCは2年後の2000年にオーストリアで開催される予定です。
時期は7月中旬になるだろうとのことです。
詳しくは先日御紹介したTALCのサイトに順次報告されるのではないでしょうか?

以上で御報告を終わります。

Hiroshi Shoji
Visiting Research Fellow
CARE, University of Birmingham
(English)
(Japanese)



From: kazuo kato <>
To:
Subject: [lex] RE: [lex] 速報TALC98 {2} {3}
Date: Wed, 29 Jul 1998 18:26:14 +0900

東海林先生:

加藤@岩手医大です.早速の情報どうもありがとうございました.

ところで,先日の磐崎先生のメールにあった「M Lewisのcollocation辞書」は
どんな辞書ですか?

> M Lewisのcollocation辞書が昨年出ているのを、初めて知りました
> (東海林さんの机の上にあったので)。



From: "Hiroshi Shoji" <>
To: "lex" <>
Subject: [lex] LPD-DOSC {1}
Date: Wed, 29 Jul 1998 16:18:04 +0100

東海林@バーミンガムです。

加藤先生:

> ところで,先日の磐崎先生のメールにあった「M Lewisのcollocation辞書」
> はどんな辞書ですか?
>
> > M Lewisのcollocation辞書が昨年出ているのを、初めて知りました
> > (東海林さんの机の上にあったので)。

私もこちらに来て初めて知ったのですが、昨年出版された辞書ということもあ
り、御存知の方もいるのかなあと思ってこれまで書かずにおりました。

Hill, J & Lewis, M (ed) (1997)
LTP Dictionary of Selected Collocations
Hove, Language Teaching Publications
ISBN 1-899396-55-1

LTPという出版社の本は日本では見たことがありませんでしたが、どなたか
「見たことがある」という方はいらっしゃいますでしょうか?
(ちなみにバーミンガムでも私が買った後は残念ながらこの辞書の在庫は補充さ
れていないようです。)

さて、実際に編者のHillとLewisがどう関わっているかというと、ポーランドで
出版された以下の2冊の辞書(未見)を元に「再編集」したというのが真相です
('TRIBUTE'に書いてあります)。

Dzierzanowska, H & Kozlowska, C D
(1982) Selected English Collocations
(1991) English Adverbial Collocations
Polish Scientific Publishers PWN Ltd

'TRIBUTE'によると、'Both dictionaries were based on a corpus of
post-1960 British English writing.'とのことです(その規模等詳細について
は説明されていません)。
コロケーション研究は東ヨーロッパで盛んであったというのはRonald Carterの
Vocabularyという著作にも書いてあります。
やはり母語話者には「当たり前」のことが非母語話者には「驚き」であるという
のがコロケーションという分野の特徴なのでしょう。
日本でも『英和活用大辞典』という名著がありますね。
ちなみにTALC98におけるAitchison教授の講演が私にとって印象的だったのは、
英語母語話者でありながら非母語話者的な視点からの分析だったからです。

さて、LTP-DOSCは次のような構成になっています。

<Introduction>
辞書全体の構成と使い方を9ページ費やして説明しています。
<The Noun Section>
名詞が見出し語となっており、共起する動詞・形容詞が示された後に、その見出
し語が形成するphraseが示されています。
<The Adverb Section>
このSection名はmisleadingです。
見出し語となっているのは副詞ではありません。
動詞・形容詞が見出し語となっており、共起する副詞が示されています。
<Sentence Adverbs>
見開き2ページで文修飾副詞(句)がリストアップされています。

規模的には昨年新版の出たBBIの半分程度ですが、提示は学習者にわかりやす
いと思います。
いくつかの項目について比較してみると母語話者・非母語話者それぞれの視点の
違いが見えてくるかもしれません。

以上、つたない説明ですが、もし更に御質問があればお願い致します。

Hiroshi Shoji
Visiting Research Fellow
CARE, University of Birmingham
(English)
(Japanese)



From: kazuo kato <>
To:
Subject: [lex] Take a number. {1}
Date: Fri, 31 Jul 1998 09:47:03 +0900

加藤@岩手医大です.

昨日(7月30日)ネットのニュースで標題のような表現を見ました.文脈から
Who cares? の意味ではないかと思われるのですが,いかがでしょうか.福引
きなどで「無作為に番号数字を選ぶ」というのが原義だと思いますが,こうい
う用法を見たり聞いたりしたことがないような気がします.この用法はよくあ
るのでしょうか?

Washington Post, July 30, 1998; Page B01:

News of [Monica] Lewinsky's immunity deal with Kenneth Starr, which
was leaked to CNN's Wolf Blitzer more than an hour before it was
announced, has plunged the media world into an all-out, vacuum-
cleaner, this-just-in mode. General Motors strike settled? New prime
minister in Japan? Take a number.



From: 村田 年 <>
To:
Subject: [lex] 元の辞書を見ました {1}
Date: Fri, 31 Jul 1998 12:35:00 +0900

東海林先生,加藤先生

村田 年です.
このコロケーション辞典のもとの本を見たことがあります.

東海林@バーミンガムです。
Hill, J & Lewis, M (ed) (1997)
LTP Dictionary of Selected Collocations
Hove, Language Teaching Publications
ISBN 1-899396-55-1

さて、実際に編者のHillとLewisがどう関わっているかというと、ポーランドで
出版された以下の2冊の辞書(未見)を元に「再編集」したというのが真相です
('TRIBUTE'に書いてあります)。

Dzierzanowska, H & Kozlowska, C D
(1982) Selected English Collocations
(1991) English Adverbial Collocations
Polish Scientific Publishers PWN Ltd

'TRIBUTE'によると、'Both dictionaries were based on a corpus of
post-1960 British English writing.'とのことです(その規模等詳細について
は説明されていません)。

(村田)前者の方がコービルドにありました(1992).日本の文庫本ぐらいに大
きさで,150--200ページぐらいでした.最初の9ページほどのコピーを持
っています.中表紙は「1985」となっていますが,Copyright が 1982 です.

アントワネットによれば,著者のどちらかがコービルドに研修に来て,そ
のとき置いて帰ったとのこと.私が「談話の中心語とそれを修飾する形容
詞を数量的に捉えると,いわゆるキーワードになりやすい名詞とキーワー
ドを規定する役割をしばしば果たす形容詞を特定することができるのでは
ないか.」というようなことを言ったとき,この辞書と McCarthy の論文
の原稿のコピーを貸してくれました.(この論文もコービルドにいるとき
に書いたとのことです.Hewings, M., and McCarthy, M. 1988. An
alternative approach to the analysis of text. Praxis des
Neusprachlichen Unterrichts, 1. pp. 3-10.)

さて、LTP-DOSCは次のような構成になっています。
<Introduction>
辞書全体の構成と使い方を9ページ費やして説明しています。
<The Noun Section>
名詞が見出し語となっており、共起する動詞・形容詞が示された後に、その見出
し語が形成するphraseが示されています。

(村田)前半は同じですが,「見出し語が形成する phrase」は示されていませ
ん.例えば,最初から2番目の ABILITY は次のようになっています.

   ABILITY
V. appraise, assess, believe in, develop, doubt, encourage,
foster, have, measure, nurse, overrate, recognize, stifle,
underrate, use 〜
   Adj. average, great, inferior, innate, latent, little, mediocre,
moderate, outstanding, poor, superior, uncanny, unique 〜
(にょろを使っているところがおもしろい.)

<The Adverb Section>
このSection名はmisleadingです。
見出し語となっているのは副詞ではありません。
動詞・形容詞が見出し語となっており、共起する副詞が示されています。
<Sentence Adverbs>
見開き2ページで文修飾副詞(句)がリストアップされています。

規模的には昨年新版の出たBBIの半分程度ですが、提示は学習者にわかりやす
いと思います。
いくつかの項目について比較してみると母語話者・非母語話者それぞれの視点の
違いが見えてくるかもしれません。

(村田)アントワネットの説明によれば,「この人は個人で新聞・雑誌から目
についたものを拾い集めて,編集の際に補ってあるけど,主観的なコレク
ションね.あなたがカツマタ,カツマタって言ってるけど,それだって個
人的なコレクションでしょう.これからのコロケーション辞典は客観的な
データに基づかなければだめよ.」となります.

  ただ,この辞書は open conbination を広く取り込んでいる点が BBI より
いいと私は思いました.
   The dictionary gives, not phraseological units, but "free" or
"open" collocations,which means that other words can be added at
will, e.g. AGREEMENT, V. 〜provide for..., IDEA, V.〜be
incompatible with...(pp.6-7)

資料については次のように書いてあります.
  Sources
The collocations have all been taken from material dating from
after 1960, such as academic books and journals, reference books
(e.g. Britain, An Official Handbook), literary works by British
authors, and British quality newspapers.

東海林先生,この辞書はまだコービルドにあるかも知れませんね.
  この辞書にも刺激されて「Doscourse Organisers と Evaluating/Locating
Modifires とのコロケーションの頻度調査」というタイトルだけはいかめ
しい論文を書きました.このタイトルを Rosamund Moon さんに見せたら,
ひどく嫌われました. 



From: "Hiroshi Shoji" <>
To: "lex" <>
Subject: [lex] RE: [lex] 元の辞書を見ました {1} {1}
Date: Fri, 31 Jul 1998 14:56:23 +0100

東海林@バーミンガムです。

村田先生:

>このコロケーション辞典のもとの本を見たことがあります.

>(村田)前者の方がコービルドにありました(1992).日本の文庫本ぐらいに大
> きさで,150--200ページぐらいでした.最初の9ページほどのコピーを持
> っています.中表紙は「1985」となっていますが,Copyright が 1982 で
す.

!!
早速Jeremy Clear氏に問い合わせのメールを送ったのですが…(最後参照)

>(村田)前半は同じですが,「見出し語が形成する phrase」は示されていませ
> ん.例えば,最初から2番目の ABILITY は次のようになっています.
>
>   ABILITY
> V. appraise, assess, believe in, develop, doubt, encourage,
> foster, have, measure, nurse, overrate, recognize, stifle,
> underrate, use 〜
>    Adj. average, great, inferior, innate, latent, little, mediocre,
> moderate, outstanding, poor, superior, uncanny, unique 〜
> (にょろを使っているところがおもしろい.)

LTP-DOSCでは1番目がABILITYになっています。(何が削除されたのでしょうか
?)
以下に引用しますが、多少書き換えられているのがわかります。

ABILITY
V: appraise, assess, demonstrate, develop, encourage, foster, have,
measure, nurse, overrate, recognise, stifle, underrate, use 〜
A: avenge, creative, exceptional, great, inferior, innate, latent,
moderate, natural, outstanding, remarkable, striking, superior, uncanny,
unique 〜

この語には「見出し語が形成する phrase」は挙げられていませんが、次の
ABOLITIONには'P'の後に登場します。

ABOLITION
V: call for, campaign for 〜
A: outright, total 〜
P: 〜 of the death penalty/slavery

>(村田)アントワネットの説明によれば,「この人は個人で新聞・雑誌から目
> についたものを拾い集めて,編集の際に補ってあるけど,主観的なコレク
> ションね.あなたがカツマタ,カツマタって言ってるけど,それだって個
> 人的なコレクションでしょう.これからのコロケーション辞典は客観的な
> データに基づかなければだめよ.」となります.

ごもっともです。
ただし、「客観的なデータ」をどう「処理」して辞書というproductまで持って
いくかということに関しては、まだまだノン・ネイティブの観点からの研究の余
地があると思い、私も悪戦苦闘しております。

>  ただ,この辞書は open conbination を広く取り込んでいる点が BBI より
> いいと私は思いました.
>   The dictionary gives, not phraseological units, but "free" or
> "open" collocations,which means that other words can be added at
> will, e.g. AGREEMENT, V. 〜provide for..., IDEA, V.〜be
> incompatible with...(pp.6-7)

INTRODUCTIONに説明されてはおりませんが、この方針は受け継がれているようで
す。
ただし、AGREEMENTの項では'provides'となっており、IDEAの項では'is'となっ
ているように、S+Vのコロケーションを示す時には、動詞は見出し語の単複に応
じた現在形で示す方針に変更されています。

> 資料については次のように書いてあります.
>  Sources
> The collocations have all been taken from material dating from
> after 1960, such as academic books and journals, reference books
> (e.g. Britain, An Official Handbook), literary works by British
> authors, and British quality newspapers.

LPD-DOSCの4つのキャッチフレーズは、
@essential for writing essays or reports
@invaluable for translation
@ideal for all exam preparation
@the key to natural English
ということで、どちらかと言えばformal written Englishに焦点が当てられてい
るようです。
そのための資料としては上記のものが妥当ということなのでしょうか。

> 東海林先生,この辞書はまだコービルドにあるかも知れませんね.

Jeremyからのメールの返事によると、「オフィスの引越しの時に処分された可能
性が高い」とのことでした(ショックです…)。

村田先生のコピーは大変貴重なものだと思います。

Hiroshi Shoji
Visiting Research Fellow
CARE, University of Birmingham
(English)
(Japanese)



From: 村田 年 <>
To:
Subject: [lex] 抜けてる語ですが, {1}
Date: Fri, 31 Jul 1998 23:59:00 +0900

東海林先生

村田 年です.

(東海林先生)
LTP-DOSCでは1番目がABILITYになっています。(何が削除されたのでしょうか
?)
以下に引用しますが、多少書き換えられているのがわかります。

(村田)abbey が削除されています.当然と言えば当然ですが.
見出し語を順に示しますと,
abbey, ability, ablutions, abode, accent, acceptance, access, accident,
accomodation, account(bank), account(bill), account(report), accuracy,
accusation, ache, achievement, acknowledgment, acquaintance(knowledge
of persons), acquantance(person known), acquaintance(knowledge of a
thing), acquiescence... の順です.

この辞書で詳しく扱ってある名詞は談話の中心語になる可能性が高いとして,
全部紙に書き出して,ときどき眺めてはもっとおもしろいコロケーション辞典
が作れないかと考えたことを思い出します.その紙はどこかにまだあるはずで
す.

この辞書はもしかしたらアントワネットが持っているかも知れません.その可
能性の方が強い(高い?)でしょう.


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