Subject: [lex] The Chambers Dictionary {01}
Date: Wed, 25 Nov 1998 11:05:12 +0900
The Chambers Dictionary (Chambers Harraps)(以下CD)は、8月〜9月における英国の「辞書ラッシュ」の一角をになう辞書である。すでにこの欄でも何度か言及されたが、日本でも入手可能になったので簡単に紹介したい。
チェンバーズの伝統であろうか、英語の辞書であるにも関わらず、表紙標題(cover title)、背標題(back title)、扉標題(title-page title)のいずれにもEnglishの文字はなく、The Chambers Dictionaryのみである。
扉の裏ページから得られる情報によるとCDは長い伝統を誇る The Chambers Twentieth Century Dictionary (1901) にさかのぼる(さらには、1872年のChamber's English Dictionaryまでさかのぼるだろう)。1901年以降この20世紀版は版を重ねたが、1988年に "Twentieth Century" を冠しない、Chambers English Dictionary が出た(原題への復帰である)。さらに1993年にThe Chambers Dictionary が出てこれが今回のCDの直接の前身と考えられるので、5年ぶりの改訂ということになる。 黒表紙のChambers 21st Century Dictionary (Larousse plc, 1996)というのもあるがこれは別系列の辞書である。
チェンバーズ辞書の特徴の一つは語義の区分化よりも、語義のつながりを強調することであった。その現れがセミコロンを使った語義並記方式である(番号を付した定義(numbered definition) と区別して束ね式定義(clustered definition)とよばれることもある)。もう一つの特徴は屈折形、複合語、成句はいうに及ばず派生語など全てをその親となる見出し語のもとに追い込む「追い込み項目(run-on entry)」を採用していることである(nested [niche] entryなどとも呼ばれる)。この方針はもちろん今回のCDに受け継がれている。昨今の「何でも独立見出し主義」に逆行する方針である。CDがこのような方針をあえて踏襲したのはやはりチェンバー辞書の伝統の重さであろうか。序文の一部を引用しておこう。
We are all aware that users of the Chambers Dictionary have special expectations for which they fail to find satisfactions in its rivals. We trust that this new edition will continue to serve these needs into a new millennium.
チェンバーズ辞書のもう一つの特徴はことばの辞書の方針をかたくなに守っていることである。CDはもちろんこれを踏襲しているのでほぼ同時にでたCEDやNODEと一線を画している。たしかに、Shakespearian があって、Shakespeare がないというのは不便である。しかし人名・地名がない分ことばの記述が充実しているということだから一長一短ということだろうか(たとえば、英国方言特にスコットランド方言の詳しさはCEDやNODEはとてもCDに太刀打ちできそうもない)。
収録語数をいうのにCDはreference方式を取っている。その数は21万5千である。ちなみにCED4は18万である。3万5千の差は定義様式・見出し語立項方式の差だろう。しかしこの差はまた(チェンバーズ方式に慣れない人に取っては)そのままuser-friendly の度合いに跳ね返ってくるだろう。
CDはシェイクスピア、スペンサー、バイブル、バーンズ、スコットなど古典作品からの引用を継続して文学辞典的な雰囲気を保持する一方で、BNCを基盤にしたWordtrack(引用例4万)という新語収集コーパスを利用して「何千という」新語・新語義を採録し、新旧うまく両立させて、広範囲なユーザーのニーズに答える態勢を取っている。ちなみにCDはスクラブル(scrabble)トーナメントで使用される公認辞典である。
20世紀版がこの1世紀の間にどのように変化してきたか正確に把握していないが、 OEDSの影響であろうか、1983年改訂版では英語の範囲が広がって英米の英語のみならず、オーストラリア、ニュージランド、カナダ、南アフリカ、インド、パキスタンなどの英語にまで範囲が及んでいる。これはもちろんCDでも引き継がれていることはいうまでもない。
斬新な装幀になった。表紙は1988年版あたりから変化が見られるようになったが、これまで赤地に標題を白抜きにしてきた("red book"という愛称をもつゆえんである)。CDはもちろんこの伝統ある赤を引き継いでいるがその上に一部濃紺を重ね、この紺を背に標題を白抜きににしている。
チェンバーズ辞書には根強いファンが多い。特にその歴史からしてスコットランド系の人に熱烈な支持者が多い。Tom McArthur もその一人である。English Today での記事が楽しみである。
11月25日
南出康世(大阪女子大)
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