ヴィスタ英和を読む(1)

Date: Mon, 02 Mar 1998 From: 村田 年 < >

千葉大の村田 年です.

次のような記事を連載したいと思いつきました.反響がなければ途中でやめるつもりです.おもしろいものになるかどうか.

新刊の『ヴィスタ英和辞典』を読む(1)

 このところ暇を見つけては上記の英和を眺めています.いつも思うのですが,新刊の辞書はどれもそれぞれにおもしろい点が見られ,なかなか勉強になります.編集主幹の若林先生を始め,編集委員,執筆者の皆様にご完成のお祝いと勉強をさせていただけるお礼を申し上げます.

今回は大きな方針のような点について,個人的な偏見をもって眺め,だんだんと細かい点に入っていきたいと思っています.ご意見いただけますれば幸いです.

@収録項目3万1千:実際の主見出しの数は不明:そのうち私流のやり方で推定してみたいと思っているが,印象としては高校初級用としては最も少ない部類ではないか.

Aカナ発音を発音記号と併記している:この点についてどなたかのご意見をいただければ有難いですね.

B記号類の一層をはかって,「わかる英和」を目指したと言う.この点が一番の特徴かも知れません.この点の評価は議論の分れるところかと思います.

C最重要語の語義を表にして体系化をはかっている:この点はたいへんに興味深い.

D「意味がわかる」辞典を目指している.用例の訳について,どうしてそんな意味になるかをいちいち(  )を使って,ていねいに説明している.文法・語法については極端に簡潔を目指し,意味についてはわからせようとする努力とスペースを惜しまない.この点も議論の分れるところでしょう.

Eフォーラムとして,文化情報・表現を自然科学にもかなり力をいれて解説している.ただ難解なだけの文法をカットして,英語はこんなに「楽しい」ことをわからせたい,という.このような囲み記事を増やして辞書の参考書化をはかる点も議論のあるところです.

1.ケースやはしがきを見ると,この英和の最大の特徴は「わかる(わかりやすい)英和」だと受け取れます.文法・語法の難解な説明,文型などの記号や約束ごとの複雑さ,語義と用例の意味とのつながりのわからなさ,などをすべて取り去って生徒にわかる辞書にしたい,との意図は理解できます.しかし,取り去ったら「わかる英和」になったかどうかの判断はむずかしいでしょう.

2.「まえがき」は明らかに高校1年生向けにはなっていません.先生向けです.前書きは使ってくれる人に向かって書くべきだ,と私は思います.また,小さな文字でこんなにべったり印刷してはいけないでしょう.

3.「使いやすい英和辞典を目指して」も本文と同じような細かな文字で,びっしり書いては生徒は読む気にはならないでしょう.もしもここに書いてあることが理解できる生徒なら,自動詞と他動詞とを区別する,また,[C][U]の区別をする英和を使うことを勧めたいと私は思います.やはりここは,自動詞と他動詞との区別がなかなかわからない生徒に,どうやったらこの辞書は使いこなせるようになるかの「おおざっぱな案内」とちょっと引いてみたくなるような実例の1つも示して,楽しそうだなと思わせるべきではないでしょうか.はしがきから17ページまではこの程度の辞書を買う生徒には理解できないと申して間違いないでしょう.「わかる辞書」を旗印のしたのですから,最初のところはなるほどわかる,といったものにしてほしかったと思います.

4.ただ用例をあげるだけでなく,その状況やその分の存在理由も常に示したといった趣旨のことを言っているが,この点はたいへん興味深く,注意して見てみたいと思います.

5.はしがきで「発音」「文法」「文字」「符号」などについては指導法がそれなりに確立しつつあるが,「語」の指導は緒についたともいえないのが実情であると言われている.極めて遅れている語彙指導に強調をおかれている点には,賛成です.

6.しかしながら,この辞書の収録語彙はどのようにして決めたのか,また基本語については?基本語については数が出ているだけで何の説明もありません.この点では従来ほとんどの英和は弱かったわけですが,本書も同じ状態です.発音解説に費やした7ページ強のスペースの5分の1ぐらいは割いて,語彙選定の観点とやり方それに単語の学習についての注意を書くべきでしょう.

また書きます.だんだん細かい点に,体系的でなく,気づいた点から触れていって,英和辞典のあり方を考えてみたいと思っています.

ご意見いただきたくお願い致します.

村  田   年


[lex]Re: ヴィスタ英和を読む(1)

Date: Tue, 3 Mar 1998 From: Hirosada IWASAKI < >

村田先生のVista書評に付いて、

私もVistaはなかなか思い切って、面白い辞書だと思いました。やはり、後発辞書は、万人向けを目指すより、個性の強いものが1ユーザーとしては面白いですね。その意味で、少なくとも『キャンパス英和辞典』などよりずっと面白いです。

自動詞・他動詞、C/Uの区別がない点は大きな特徴ですね。最近の英英辞典では、Chambersの学習辞典が基本的にこれを表示していません(Uについては、用例と文定義からわからない場合にのみuncountの表示が入っています)大学生でも、自動詞・他動詞の区別がよく分かっていないことからすると、1つの見識かと思っています。ただし、教師受けはしない(^^;)。

私としては、vt/viや C/Uの区別が、用例や文定義からどの程度学習者は理解できるのかに、現在関心があります。

磐崎弘貞


RE: Vistaについて

Date: Tue, 03 Mar 1998 From: Minoru MURATA < >

磐崎先生

村田です.

1つでも反響があると実にうれしいですね.

ありがとうございました.


RE: [lex]Re: ヴィスタ英和を読む(1)

Date: Wed, 4 Mar 1998 From: "松本祥仁" < >

磐崎先生はじめまして。佐賀の松本@MCSと申します。

>私としては、vt/viや C/Uの区別が、用例や文定義からどの程度学習者は理解でき
>るのかに、現在関心があります。

一応塾内での感覚的なところをお話しします。

中学生:5%程度  高校生:50%程度 かと思います。が、これは、同じ単語の、同じ内容のことをテストした場合の割合だとお考えください。理解度(応用力までついたかどうか)となると、高校生でもやはり5%位でしょうか。
ほとんどの生徒たちは、英語→日本語の、対応する訳の部分(単語レベル)にしか興味を示しません。ほとんどの高校で、毎授業ごとに:英語→日本語:の単語テストがあるからだと思われます。

半数以上の学生たちにとって、現在の辞書は、「豆単」の拡張版ぐらいにしかとらえる能力はないようです。生徒たちの多くが、受験用の「単語集」「単語帳」のたぐいを持ち、授業の時にもそちらを「引く」生徒が5人に1人はいます。そんなときはわざと辞書でなければ理解できない部分を質問したりしていますが、効果はありません。


RE: Vista について

Date: Tue, 3 Mar 1998 From: Akano< >

赤野@京都外大です.

村田先生の『ヴィスタ英和辞典』についてのご意見,興味深く拝見しました.私はこの辞書に対して,かなり好印象を受けています.高校の先生,特に進学校の先生にはあまり受けないでしょうが,「一般の高校生」にとって有益な辞書とは何かを全面に出した辞書だと思います.岩崎先生もおっしゃっていますが,U, Cや自他の区別を英語の読解力,作文力に生かせるほどの文法知識を持っている高校生がそんなにいるとは思えません.

それより過去分詞の形容詞用法や従来軽く扱われていた-ly副詞にも訳語,用例を与え独立させている点などは,非常に評価できると思います.

情報満載の辞書は,辞書マニアや進学校の先生を満足させるでしょうが,「一般の高校生」には宝のもちぐされです.辞書の紙数は限られていますし,使用対象を明確に明確にすればするほど.なにが必要でなにを削るべきかを十二分に吟味し編集に反映させるべきです.

最近の辞書は,アイデア,情報を詰め込みすぎの嫌いがあるのではないでしょうか.

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AKANO, Ichiro
Kyoto University of Foreign Studies
TEL: 075-322-6103
E-MAIL:
NIFTY SERVE ID: HFC03130
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[lex] FW: ヴィスタ英和を読む(1)

Date: Sat, 14 Mar 1998 From: "Hiro Matsuzaki" < >

新刊の『ヴィスタ英和辞典』の話題にちょいと。

>@収録項目3万1千:実際の主見出しの数は不明:そのうち私流のやり方で推
>定してみたいと思っているが,印象としては高校初級用としては最も少ない部
>類ではないか.

いい辞書とは単に語彙数の多さではない。特に高校生・大学生が求めているのはそう言える。ならば単語数を抑えて、分かりやすい解説の辞書を作ろう。そうすれば売れる筈だ。それがヴィスタ誕生の出版社サイドのわけかなと思いました。

>Aカナ発音を発音記号と併記している:この点についてどなたかのご意見をい
>ただければ有難いですね.

高校・大学生の多くが発音記号が苦手。だからカナ表記を、というディマンドは以前から強い。そのことは出版社を動かす。でも、そのディマンドにOKサインを出すのは教師としてはなかなか思い切ったなと感心しています。
会話本をカナ表記で出さないかという出版社の依頼を「ざけんな!」と断ってきた僕は、ちょいと複雑な気持ちになっています。

>B記号類の一層をはかって,「わかる英和」を目指したと言う.この点が一番
>の特徴かも知れません.この点の評価は議論の分れるところかと思います.

なにも辞書は一冊だけじゃないので、一冊ぐらい「わかる英和」はあっていいと思います。ヴィスタ存在の意味はそこにあるのでは。

>Eフォーラムとして,文化情報・表現を自然科学にもかなり力をいれて解説し
>ている.ただ難解なだけの文法をカットして,英語はこんなに「楽しい」こと
>をわからせたい,という.

辞書を楽しい読み物にする発想は素晴らしい。実は同じようなことを考えていたものですから、先をこされて悔しいです。専門的なことは分かりませんが、普通の高校が欲しがるように戦略を立てて商業的にも成功するように三省堂さんが「わかりやすさ」を全面に出した辞書だと思います。

その昔、英語が出来なくて、赤尾の豆単を辞書代わりにしていた僕ですから、ヴィスタは「豆単の辞書バージョン」としてプログレス・ジーニアスと並ぶ売れ行きを記録するのではないかと予測しています。

ξ Teaching English since 1975
□D 松崎博 【American House Inc】


[lex] RE: ヴィスタ英和を読む(1)

Date: Sun, 15 Mar 1998 From: 村田 年 < >

Hiro Matsuzaki 様
村田 年(千葉大学)です.

「ヴィスタ英和を読む」(1)にご返事をいただきありがとうございました.ぜひ貴兄のような考えの先生が高校に多いことを期待致しております.私自身もこの辞書の行き方には敬意を表しております.今までは売れないという判断があって,なかなか出す出版社がなかったのではと推察しております.

いろいろな辞書があって,その中から自分にあったものを選び,買ったが最後一生使う,などと考えないで,音楽のCDを買うように,少し力がついたらもう一冊求めるようでありたいですね.

かなり反応がありましたので続編を書きたいと思っております.