Subject: [lex] Time flies (like an arrow). {1}
Date: Tue, 04 Aug 1998
こんにちは、近藤@息子のバイオリンの不協和音に目が覚めた、です。諺:「光陰矢のごとし」について皆様のご意見をお聞かせいただければと思います。
私が高校生の頃(約30年近く前)は、当時使っていた辞書にも受験参考書・文法書の類にも<Time flies like an arrow.>と<like an arrow>が付いた状態で載っていたと思います。その後何年かして、<like an arrow>を付けるのは英語としては間違い、というようなことをラジオかテレビの英語番組で知りました。以来、そう思ってまいりました。ところが、最近再度この諺を辞書で調べる機会があり、複数の辞書で確認してみると意見が分かれているようでした。
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参考資料:
(1)フェイバリット英和辞典 初版(東京書籍)
*Time flies (like an arrow).
(2)スーパー・アンカー英和辞典 初版(学習研究社)
*Time flies.
*ラテン語の<Tempus fugit.>に由来する。日本語の「矢のごとし」に対応する<like
an arrow>は付けないのが英語的であるが、最近ではこれを付けて言う人も少なくない。
(3)新英和中辞典 第5版 (第6版では確認できていません) 研究社
*Time flies.
(4)ジーニアス英和辞典 改訂版 大修館
*Time flies.
(5)カレッジ・ライトハウス英和辞典 初版 研究社
*Time flies.
(6)プログレッシブ英和中辞典 第3版 小学館
*Time flies.
(7)新英和大辞典 第5版 研究社
*Time flies.
(8)新編英和活用大辞典 CD-ROM版 研究社
*Time flies.
(9)英語ことわざ散歩 奥津文夫 創元社
*P 46より抜粋
◆日本の「光陰矢の如し」に当たる英語のことわざで、ラテン語のTempus fuigit. の英訳である。日本の多くの辞書やことわざ辞典などにはよく、Time flies like an arrow. という英語のことわざが載っているが、実際にはこんなことわざはないのである。
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以上のようなことから、疑問に思うのですがこの諺を英語学習者に教える場合にどちらを正しい表現として示せばよいものでしょうか。
この質問を英会話学校で教えている2,3のネイティブの人たちに意見を求めたところ、<like an arrow>が付くかどうかがどうして問題になるのだ、どちらでもよいではないか、というような反応でした。気にする必要はない、で一件落着でした。実情としては、どうなんでしょう。スーパー・アンカー英和が主張するように、ネイティブの間でも<like an arrow>を付けた状態で用いられることが多くなっているのでしょうか。
それと、辞書によって意見が分かれている場合にはみなさんはそれをどう処理されているのでしょうか。
ご教授頂ければ幸いです。
Subject: [lex] Time flies (like an arrow). {2}
Date: Wed, 05 Aug 1998
近藤先生:
加藤@岩手医大です.
この問題は「英語教育」(大修館書店)の "Question-Box" 欄で取り上げられたことがあります(1993年2月号;1994年5月号;1994年8月号;1994年10月号).
その記事によると,綿貫他著「教師のためのロイヤル英文法」は Time flies like an arrow という「表現はすでに英語としての市民権を獲得しているようである.」と主張しているそうですが,解説をされた小西友七先生は「やはり英語の諺として今のところ認めたくない」とされております.
>
以上のようなことから、疑問に思うのですがこの諺を英語学習者に教える場合
>
にどちらを正しい表現として示せばよいものでしょうか。
>
それと、辞書によって意見が分かれている場合にはみなさんはそれをどう処理
> されているのでしょうか。
私は「どちらでもよいではないか」というネイテイヴの反応にも一理あると思います.いつかの「王道」のように慣用自体が変わることがありますし,Time flies like an arrow は英語としては問題のない表現ですから,あまり「気にする必要はない」のかもしれません.ただ,英語の諺としてどちらかを取らなければならないということになれば,私は like an arrow のないほうを選択したいと思います.
Subject: [lex] Time flies (like an arrow). {3}
Date: Wed, 05 Aug 1998
近藤@愛媛の田舎、です。
加藤先生、情報とご意見ありがとうございました。
>この問題は「英語教育」(大修館書店)の
"Question-Box" 欄で
>取り上げられたことがあります(1993年2月号;1994年5月号;
>1994年8月号;1994年10月号).
◆上記の情報ですが、加藤先生はどのようにされてこういうデータを入手されるのでしょうか。つまり、どこの何を見れば載っているというようなことをどうやってお知りになるのでしょうか。まさか、記憶だけを頼りに捜されるわけでもないとおもうのですが。何かデータベースでも利用されるのでしょうか。
>その記事によると,綿貫他著「教師のためのロイヤル英文法」は
Time flies
>like an arrow
という「表現はすでに英語としての市民権を獲得しているよ
>うである.」と主張しているそうですが,解説をされた小西友七先生は「や
>はり英語の諺として今のところ認めたくない」とされております.
◆小西先生のご意見には基本的に従う習性が見についておりますので、この件の<like an arrow>に関しましては、参考程度に教えようと思います。
>私は「どちらでもよいではないか」というネイテイヴの反応にも一理あると
>思います.いつかの「王道」のように慣用自体が変わることがありますし,
>Time flies like an arrow
は英語としては問題のない表現ですから,あまり
>「気にする必要はない」のかもしれません.ただ,英語の諺としてどちらかを
>取らなければならないということになれば,私は
like an arrow のないほう
>を選択したいと思います.
◆私も、加藤先生と同じような意見でしたので勇気付けられました。このように専門化の考えが錯綜しているような語法の場合、私のような最前線で英語を教えているものとしてはいつもハムレットのような心境に陥ります。特に、辞書に書いている情報とネイティブの意見が食い違った場合は本当に悩みます。
最後に語法辞典で推薦して頂けるものがございましたら、お教え頂ければ幸いです。私は大修館の「英語語法(大?)辞典」に興味を持っています。
Subject: [lex] Time flies (like an arrow). {4}
Date: Thu, 06 Aug 1998 10:36:35 +0900
近藤先生:
加藤@岩手医大です.メール拝見しました.
>
◆上記の情報ですが、加藤先生はどのようにされてこういうデータを入手され
> るのでしょうか。
今回の場合は記憶です.この問題は「英語教育」(大修館書店)の "Question-Box" 欄で見たことがあるような気がしたので,勤務先の図書館で「英語教育」のバックナンバーの目次を1997年分からさかのぼって調べました.以前はこの雑誌には1年分の総目次がついていたはずですが,今度調べた分にはなかったので,しかたなくそれぞれの号の目次を調べたというわけです(元の雑誌には総目次がついていても,製本の段階で何らかの理由で落ちてしまった可能性もありますので,「英語教育」の批判をするつもりはありません.誤解があるといけないので,一言します).もちろん,1994年のバックナンバーであることは調べる前にはわかりませんでした.
>
特に、辞書に書いている情報とネイティブの意見が食い違った場合は本当に悩
> みます。
この種の問題で意見の食い違いが起こることは避けられません.私は学生の質問に対しては,複数の正解の可能性があることを説明し,そのうちからどれを選択するかはいわば「趣味」の問題だと断った上で,個人的にはこちらを取りたい,というような回答をしております.
>
最後に語法辞典で推薦して頂けるものがございましたら、お教え頂ければ幸い
>
です。私は大修館の「英語語法(大?)辞典」に興味を持っています。
「英語語法(大?)辞典」は "Question-Box" 欄の質疑応答の集大成ですから,私もよく利用します.
英語で書かれたものでまず最初に手をのばすのは次のようなものです:
Webster's Dictionary of English Usage (1989).
The New Fowler's Modern English Usage, 3rd ed. (Oxford, 1996).
文法書の類はいろいろありますから,必要に応じていろいろ調べることになります.
「データベース」ですが,私の場合は大学生のころから自分で集めてきた用例カードがそうかもしれません.このカードには単に用例だけではなく,簡単な文献目録も入れてあります.しかし,その項目は全く私個人の興味・関心にまかせたもので,系統的でもなければ exhaustive でもありません.例えば,"Accents" という標題のカードは3枚ありますが,その最後の方は次のような内容です("Accents" は社会言語学的なアクセント問題で,イントネーションの一部としてのアクセントは "Accent" という別のカードになっています):
Honey, John (1985), "Acrolect and hyperlect: The
redefinition of English RP," English Studies 66(3): 241-257.
Honey, John (1989), Does Accent Matter? The Pygmalion Factor
(Faber and Faber).
Crowley, Tony (1987), "Description or prescription? An
analysis of the term 'Standard English' in the work of two
twentieth-century linguists," Language and Communication 7(3):
199-220.
Macaulay, Ronald (1988), "RP R.I.P.," Applied
Linguistics 9(2): 115-124.
"Accents" の用例カードの内容ですが,一例を挙げます.これは Thatcher 首相の米国での人気を報じた特派員記者の記事の一部です:
She [Mrs. Thatcher] is extremely popular here....
One reason is that Americans can't read the social signals which
British people easily interpret: the schoolmarm voice sounds like
just another British accent.
----The Observer, 11 May 1986, p 8, coll 2-3
Subject: [lex] Time flies (like an arrow) {1}
Date: Thu, 06 Aug 1998 14:57:09 +0900
正保@龍谷大学です。
近藤先生、加藤先生のやりとりを非常に興味深く拝読しました。
加藤先生が記憶からたちどころに『英語教育』のバックナンバーを調べられたのは驚異だし、勤務先の図書館で調べられたご努力に敬意を禁じ得ません。
私のはそういうちゃんとしたものではなく、ジョークですが、like an arrow をつけるのは英語国でもあるらしいという傍証?になるかもしれません(^_^;)
Time flies like an arrow, but fruit flies
like a banana.
「時蝿は矢を好む、しかしクダモノ(ミバエ)はバナナを好む」
もうひとつ、今回の問題に関係ないですが、
A: "Time flies."
B: "You can't. They fly too fast."
というのもなかなか面白いですね(^_^)
正保 富三 (
)
Subject: [lex] Time flies (like an arrow). {5}
Date: Thu, 06 Aug 1998 16:47:00 +0900
こんにちは、近藤@四国の暑さに夏バテしそう、です。
加藤先生、早速のご返事ありがとうございました。
>今回の場合は記憶です.この問題は「英語教育」(大修館書店)の
"Question-
>Box"
欄で見たことがあるような気がしたので,勤務先の図書館で「英語教育」
>のバックナンバーの目次を1997年分からさかのぼって調べました.
◆便利な検索の方法などがあるのかしらと思い、お尋ねしたのですが、ご記憶を頼りに調べて下さったとは思いもしませんでした。貴重なお時間を割いていただきまして本当にありがとうございました。
>この種の問題で意見の食い違いが起こることは避けられません.私は学生の
>質問に対しては,複数の正解の可能性があることを説明し,そのうちからど
>れを選択するかはいわば「趣味」の問題だと断った上で,個人的にはこちら
>を取りたい,というような回答をしております.
◆私も基本的には、そのようにしておりますが、それでも割り切れぬときがあり誰かに下駄を預けたくなるときがございます。(^_^;)
>「英語語法(大?)辞典」は
"Question-Box"
欄の質疑応答の集大成ですから,私もよく利用します.
>
英語で書かれたものでまず最初に手をのばすのは次のようなものです:
>
>Webster's Dictionary of English Usage (1989).
>The New Fowler's Modern English Usage, 3rd ed. (Oxford,
1996).
◆ありがとうございました。ありがたい情報です。
語法辞典のことをお尋ねしましたのは、田舎のことゆえ地元では書名は分かっても内容までは確認できないのです。我が町の一番大きな書店でも語法辞典の類は置いてありませんから。最近、やっと英英辞典を何冊か見るようになったその程度です。
お盆休みに大阪に参りますので、西日本一大きいと言われている書店で辞典の類を捜そうと思って、参考までにお尋ねした次第です。お盆休みは本屋さんのはしごになりそうです。
Subject: [lex] Time flies (like an arrow) {2}
Date: Thu, 06 Aug 1998 16:52:56 +0900
近藤@お盆休みに京都の寺にお墓参りに行きます、です。
正保先生:
>加藤先生が記憶からたちどころに『英語教育』のバックナンバーを調
>べられたのは驚異だし、勤務先の図書館で調べられたご努力に敬意を
>禁じ得ません。
◆まったくその通りです。敬服致します。
> 私のはそういうちゃんとしたものではなく、ジョークですが、like
>an arrow
をつけるのは英語国でもあるらしいという傍証?になるかも
>しれません(^_^;)
>
> Time flies like an arrow, but fruit flies like a banana.
>
>
「時蝿は矢を好む、しかしクダモノ(ミバエ)はバナナを好む」
◆この表現は2度目にお目にかかります。ネイティブの人に、<like an arrow>について尋ねたときに、「こんな言葉遊びがある」といって教えてくれましたが、<like an arrow>で悩んでいるときでしたのであまり気にしていませんでした。かなりよく知られた言葉のようですね。その時は意味さえも考えようとしなかった自分を恥じ入ります。貪欲に聞き返すべきでした。
Subject: [lex] 光陰矢のごとし {1}
Date: Mon, 17 Aug 1998 13:31:44 +0900
岡田@日大理工です.いつも忙しくて面白い話題と知りながら直に参加できず後講釈になってすみません.Time flies like an arrow.のことですが、昨日久しぶりに新宿の紀ノ国屋にいきましたので、そこで立ち読みしたMulticultural Dictioinary of Proverb には、
(1)Time flies like an arrow.(Japanese),
(2)Time fllies like an arrow, days and months as a
shuttle.(Chinese)
となっていました.してみると「光陰矢のごとし」というのは日本語だけのようですね.
試みに市川三喜の「大英和辞典」(冨山房、昭和6年)では(1), 斎藤秀三郎「熟語本位英和中辞典」では Time flies. です.なお、貝原益軒の「益軒十訓」の英訳:KenHoshino,TenKun(TenPrecepts)Bk.i.(1710)[Stevenson:The Macmillan Book of Proverbs, Maxims,& Famous Phrases,1948]には Time flies swiftly as an arrow, and the seasons pass quichly as a stream.とあります。
「光陰」と「矢」の連想は直接に李白や朱喜の詩からではないかも知れませんが、「日本国語大辞典」を見ますと早くも「曽我物語」や「日葡辞書」にも浮世草紙「武家義理物語」にもありますので、この結びつきは早くから我が国では普通のようでした。英語ではHow time flies! が普通のようですが、古くは Time fleeth/flieth (away/ without delay) とあり、カッコの中は1.両方ある.2.どちらか一つだけ、と全部で三通りあるようです.
たまたま見つけたのは Chaucer: TC, the Clerkes Tale 119 、Ay fleeth the tyme, it nyl no man abyde です.チョーサーの場合は古典に同じような文があるかも知れませんが、調べていません。ちなみに、我が国では「太平記」に「光陰不待人」とあります。