辞書の使い勝手について
Date: Sun, 22 Feb 1998 "MAKINO Takehiko"
牧野武彦です。
Matsuzaki さん曰:
> ジーニアスの使い勝手の良さの理由を皆様はどのように分析
> されておられるか、ぜひご意見を拝聴したく思います。
井上さん曰:
> 察しますに,このMLには辞書の編集に直接かかわられた方も加わられており
> ますので,いろいろと遠慮されている方がいるのでしょうか。
私自身は『カレッジライトハウス英和』『ライトハウス英和』の執筆者として名を連ねております。ですから、私が『ジーニアス』について何か言ってもそれが公平な立場からの発言であると解釈してもらえるのかどうか、確信が持てないのですが、せっかくの場ですから、少しばかり言ってみることにします。実は私は『ジーニアス』が使い勝手のよい辞書だとは全く思っていません。紙面が詰まり過ぎて息苦しさを覚えますし、「語法に詳しい」という特徴もそのようなことを調べたいとほとんど思わないため、私にとっては魅力とはなっていません。
これは、中学2年の時に『研究社ユニオン英和』第2版(『ライトハウス』の前身)を買ってから高校卒業までそれを使い続けた結果、あのような懇切丁寧なスタイルに体が馴染んでしまったためでしょう。大学に入ってからはさすが
にそれでは語数が足りないので『プログレッシブ』に乗り換えましたが、どうにも使いにくくて閉口した覚えがあります。(その後は書籍版の『リーダーズ』を経て今はIC版の『リーダーズ』が常用の辞書です。)
私自身のことはともかく、学習用英和辞典には「教師に受けのよいもの」と「生徒にとって使いやすいもの」があり、そこには食い違いがあると思っています。そして実際に「売れる」のは、学校推薦や学校指定を受けるのに有利な「教師に受けがよいもの」の方になる傾向があるような気がします。日本の英語教師には「語法好き」の人が多いようです。細かい語法にこだわることが、「生徒が実際に英語を使えるようになる」という観点からの英語教育において意味のあることだとは私は思わないのですが、『ジーニアス』が受けているのは主にそのような点からだろう、と解釈しています。もっとも、『ライトハウス』だって売れているわけで、この解釈ではその理由には結びつかないのですが。
因みに、三省堂から最近出た『ヴィスタ英和』は「生徒にとって使いやすいもの」という観点を可能な限り押し進めた急進的な辞書だと思います。自動詞と他動詞の区分をやめたり、独特の工夫のあるカナ式の発音表記をしたり、という試みは尊いものだと思います。ただ、これを多くの英語教師が積極的に受け入れて推薦するだろうか、ということになると、私は悲観的です。このようなことを考えるのも、『ライトハウス』系の辞書のアメリカ発音の表記で用いられている「かぎつきのシュワー」が未だに広く受け入れられるに至らず、「分かりにくい」と言われ続けているという事実があるからです。
生徒の立場に立てば、「従来型」のイタリック体のrを用いた表記にしても新しく学ばなければならないという点は同じで、「かぎつきのシュワー」が分かりにくいというのは(新たなものを学ぶのは面倒だという?)教師の側の都合に過ぎません。まして表記にまつわる様々な約束事は「従来型」の方が実は複雑なのですから、なおのことです。私は中学の頃から「かぎつきのシュワー」 を用いた辞書を使っていたので、このことは身を持って体験しています。(発音記号にまつわるさまざまな問題については、また機会があったら投稿したいと思います。)
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牧野武彦
RE:辞書の使い勝手について
Date: Mon, 23 Feb 1998 井上 永幸 < >
牧野さん:
>私自身は『カレッジライトハウス英和』『ライトハウス英和』の執筆者として
>名を連ねております。ですから、私が『ジーニアス』について何か言ってもそ
>れが公平な立場からの発言であると解釈してもらえるのかどうか、確信が持て
>ないのですが、せっかくの場ですから、少しばかり言ってみることにします。
自分のかかわった辞書にひいき目になるのはしかたがないことですし,まあ,読んでおられる方もその辺は適当に割り引いて読まれるのではないでしょうか。むしろ,このMLでは,「自分のかかわった辞書についてはこの場では発言を控えてください」的な方向にはもっていきたくないと考えています。
>実は私は『ジーニアス』が使い勝手のよい辞書だとは全く思っていません。紙
>面が詰まり過ぎて息苦しさを覚えますし、「語法に詳しい」という特徴もその
>ようなことを調べたいとほとんど思わないため、私にとっては魅力とはなって
>いません。
もちろんそういう方もいるでしょう。『ジーニアス』は「やさしい単語ほど難しい」というとがポリシーのひとつとしてあると思いますので,そのポリシーに共感を得る人に受けるのだと思います。
>これは、中学2年の時に『研究社ユニオン英和』第2版(『ライトハウス』の
>前身)を買ってから高校卒業までそれを使い続けた結果、あのような懇切丁寧
>なスタイルに体が馴染んでしまったためでしょう。
牧野さんは『ユニオン英和』に対する印象として「あのような懇切丁寧なスタイル」とおっしゃっていますが,その印象も人それぞれだと思います。(^_^;)
>私自身のことはともかく、学習用英和辞典には「教師に受けのよいもの」と
>「生徒にとって使いやすいもの」があり、そこには食い違いがあると思ってい
>ます。そして実際に「売れる」のは、学校推薦や学校指定を受けるのに有利な
>「教師に受けがよいもの」の方になる傾向があるような気がします。
教師は,やはり学生・生徒と同じレベルより少し高めに設定して辞書選びをする傾向があるのではないでしょうか。親心というか,その方が指導がしやすいということもあるでしょう。ただ,その「少し高め」のその程度は場合によってさまざまだと思いますが。
辞書の編集に実際にかかわった人ばかりでなく,ユーザー側からのご意見はどうでしょうか。書き込みをお待ちしております。(^_^)
[辞書学MLログを公開中: http://lexis.edu.shimane-u.ac.jp/inoue/ml_log.htm ]
RE: 辞書の使い勝手について
Date: Sun, 22 Feb 1998 "鷹家秀史" <
>
岡山の鷹家秀史です。
>私自身のことはともかく、学習用英和辞典には「教師に受けのよいもの」と
>「生徒にとって使いやすいもの」があり、そこには食い違いがあると思ってい
>ます。そして実際に「売れる」のは、学校推薦や学校指定を受けるのに有利な
>「教師に受けがよいもの」の方になる傾向があるような気がします。
おっしゃる通りと考えます。
>因みに、三省堂から最近出た『ヴィスタ英和』は「生徒にとって使いやすいも
>の」という観点を可能な限り押し進めた急進的な辞書だと思います。自動詞と
>他動詞の区分をやめたり、独特の工夫のあるカナ式の発音表記をしたり、とい
>う試みは尊いものだと思います。ただ、これを多くの英語教師が積極的に受け
>入れて推薦するだろうか、ということになると、私は悲観的です。
私は、生徒にとっては面白いところが多いと思いますが、多くの進学校では採用が難しいようです。理由は自動詞・他動詞などの区別がないと授業での説明が生きてこないからです。辞書は自学用に用いるよりは、授業で教師の解説の手段となることが多いからです。私は1年生段階ではこの辞書を、2年生からはグローバル英和・ライトハス英和・ジーニアス英和・ラーナーズプログレッシブ英和・スーパーアンカーなどを使わせたいと考えています。
transitive/intransitive
Date: Mon, 23 Feb 1998 磐崎 弘貞 < >
磐崎@筑波大学です。
鷹家秀史さんwrote:
> 私は、生徒にとっては面白いところが多いと思いますが、
> 多くの進学校では採用が難しいようです。理由は自動詞・
> 他動詞などの区別がないと授業での説明が生きてこない
> からです。辞書は自学用に用いるよりは、・・・
ちなみに、この自動詞・他動詞という区別に関して、後ろに名詞句がくるかどうかという説明をしているのは、驚くべきことに、『ライトハウス』シリーズだけです。他の辞書では、この区別を学習者が知っていることを前提としているようです。『プログレッシブ』等、文型のところで多少触れているものはあります。
これは、大学生でもこの区別ができていないことを考慮すると、憂慮すべき事態です。こう言うと、辞書の解説の項に自動詞・他動詞の区別が説明されていないはずはない、と意外に思われる教師の方が多いのですが、一度手元の辞書をご覧ください。
RE:transitive/intransitive
Date: Tue, 24 Feb 1998 井上 永幸 < >
磐崎先生,書き込みありがとうございます。
>これは、大学生でもこの区別ができていないことを考慮すると、憂慮
>すべき事態です。
筑波大の学生ができない(?)となると,事は重大ですね。(^_^;)
井上永幸 <
>
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]