CQD / SOS
Date: Sun, 1 Mar 1998 From: "SEKIYAMA, Kenji (Sekky)" < >
関山@愛知淑徳大院生 です。
緊急遭難信号を表す語に関して質問があります(「辞書学」とは外れてしまうかも(^^;))。
映画「タイタニック」を観ていてあれっと思ったのですが,船が氷山に衝突してしばらくしてから,スミス船長が無線室へ行き,通信士に,本船は船首から沈没するという旨の"CQD"を打てと言います。"CQD? Sir?"と聞き返した無線士に,船長が"Yes,CQD, a distress call."と答える場面があります。遭難信号はSOSぐらいしか知らなかった私にとって,CQDとは何だろうとずっと思っていました(ちなみに,字幕には"SOSを打て",のように出ています)。
手元の辞書数十冊にあたってみましたが,CQDが立項されていたのは「リーダーズ・プラス」とOED2のみで,
CQD【海】 call to quarters, distress 「全受信局へ,
遭難せり」 《1904-08 年に用いられた海難救助要請信号,
以降は `SOS' に変更; `come quickly, danger' (早急に来られたし,
危険状態にあり) の意に誤解されて広まった》. −−−リーダーズ・リーダーズプラス(EPWING)
C.Q.D., in wireless telegraphy, the signal formerly used by
ships in
distress, consisting of C.Q., the international sign for
<oq>all
stations<cq>, followed by D indicating
<oq>urgent<cq>; after 1908 superseded
by S.O.S.; --- OED2 on CD-ROM
とのことでした。
決してあら探しではないのですが,私が引っかかるのは「1904-08年に用いられた」という記述です。タイタニック号の処女航海は1912年なので,厳密にはずれがあるようにも思えます(といっても5年弱なので誤差の範囲内,また個人の慣用のずれなのかも)。
★以下が私の素朴な疑問なのですが,
1)リーダーズプラスの"CQD"の記述が「1904-08年」と,かなり狭く年代を特定しているのは,何らかのevidenceに基づいている(あるいは,1908年というのはOEDの記述をもとにしている?)と思いますが,それは何なのでしょうか?
2)遭難信号という,無線通信の中でも極めて緊急度,重要度の高いものを示す言葉は,使用言語や時代に関係なく,共通のものであるのがコミュニケーション上においても望ましいと思いますが,このように短期間でCQDからSOSにころっと変わってしまったのは何故だったのでしょうか?("CQD"という言葉自体に何らかの問題(他の意味を表す言葉と紛らわしいとか,特定の人に不快感を与える意味あいがあるとか)があったのでしょうか?)
3)1904年*以前*の遭難信号は何だったのでしょうか?
些末な,しかも個人的な疑問で恐縮ですが,ご教示くだされば幸いです。
※「タイタニック」は,キャストが話す言葉の1つ1つまで,言語学の専門家の指導を仰いで忠実に当時を再現したとのことなので,老練のスミス船長が通信士にCQDと言って,若い通信士がすぐに意味を理解しなかったということからも,"CQD"という用語が短命であったことは当たっているかもしれません。
それとも,CQDと言われて通信士が聞き返したのは,CQDということばを知らなかったからではなく,unsinkableと言われたタイタニック号に乗務していて遭難信号を打つなどあり得ないことで,何かの間違いではないか,という意味合いがあるのでしょうか。これは語用論的な問題なので台詞だけでは分かりませんが…。
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SEKIYAMA, Kenji
Graduate School of English Aichi Shukutoku University
E-mail:
★ Homepage URL: http://members.tripod.com/~sekky
★
"Sociolinguistics is NOT sociolinguistics, but
sociolinguistics is
linguistics" (William Labov)
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RE: [lex] CQD / SOS
Date: Mon, 2 Mar 1998 From: "Hiroshi Suga" < >
関山さん,倉敷天城高校の須賀です。
CQDとSOSのことについてのお尋ねですが,鳥羽商船のホームページ
( http://myrna.toba-cmt.ac.jp/titanic.htm )
にタイタニック号のことに関して次のような記述があります。
そして船長は通信士に遭難信号を発するように命じた。通信士は従来の遭難信号「CQD」をモールス信号で発進した。「CQD」は「ComeQuick Danger」の略で遭難信号として決められていたものである。「CQD」はモールス符号では 「−・−・、−−・−、−・・」であるが、これは聞き取りにくい事から変えようということになって、国際信号として「SOS、・・・、−−−、・・・」という分かりやすくて簡単明瞭な符号に変わったばかりであった。「SOS」は「Save Our Ship(Soul)」の略であると言われることもあるが、これは後からこじつけられたもので、符号が簡単明瞭で聞き取りやすいという理由から決められたものである。これに気がついた船長は通信士に「SOS」を打つように命じた。カリフォルニア号は20マイル位しか離れていなかったが、通信士が寝ていてこの遭難信号を受信する事ができなかった。(略)かくしてタイタニック号は「SOS」を最初に打電した悲劇の船となったのである。
これが正しいとすると,OEDの記述の通りすでにSOSに変わっていたわけであり,船長はその誤りにきづき,再度SOSを打電するように指示したことになります。
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Hiroshi Suga
Kurashiki Amaki High School
Home page
http://www1.harenet.or.jp/~suga
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[lex] CQD / SOS (Summary)
Date: Mon, 2 Mar 1998 From: "SEKIYAMA, Kenji (Sekky)" < >
須賀先生,
> 鳥羽商船のホームページ(http://myrna.toba-cmt.ac.jp/titanic.htm)
>
にタイタニック号のことに関して次のような記述があります。
早速のレスをありがとうございました。上記の商船大のページには映画では分からないこともいろいろと書いてあって,大変参考になりました。
OED2のSOSの項には,以下のような引用例がありました。これによると,「リーダーズプラス」などに記載されている(「CQD」が)「1908年頃まで用いられた」という記述は,"SOS"がInternational Radio Telegraph Conventionの席上で正式に採択された年と一致します。一般に普及するのはさらに後のようです。
1910 J. A. Fleming Princ. Electr. Wave Telegr. & Teleph.
(ed. 2) 882
This signal, S,O,S, has superseded the Marconi Company<cq>s
original high sea cry for help, which was C,Q,D.
1910 E. Lawton Boy Aviators in Nicaragua 263
S.O.S. is now the wirelessdistress call.
1924 Mod. Wireless III. 310/3
The famous signal <oq>SOS<cq> was adopted officially
by the International Radio Telegraph Convention in July, 1908.
貴重な情報をありがとうございました m(__)m
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SEKIYAMA, Kenji
Graduate School of English Aichi Shukutoku University
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sociolinguistics is
linguistics" (William Labov)
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