contagious/infectiousの語義を教えてください

Date: Mon, 30 Mar 1998 From: konno takashi

 みなさん、こんにちは。金野です。

 TIMEのコレラに関する記事の中に

(The disease, while not contagious, can be transmitted by food handling,and in up to 50% of cases, kills if left untreated.)

という文がありましたが、コレラは法廷伝染病なのに not contagious と書かれているのが、どうにも理解できませんでした。

GENIUS
○contagious
1 〈病気が〉(接触)伝染する(⇔noncontagious)(cf.<→infectious)

○infectious
1 伝染性の,伝染病の;[通例叙述]〈人が〉病気を他人にうつすおそれがある《◆特に接触による伝染についてはcontagiousを用いる》‖〜 diseases (間接)伝染病,感染症.

まだ得心が行きませんので感染経路について調べてみました。(GENIUSが特にわかりにくかったという意味ではありません。リーダースプラスプラスでもプログレシブでも分かりませんでした。もちろん一番問題なのは自分の理解力不足だと思っております。関係者の方どうか、誤解なさらないでください。)

感染経路  route of infection
○A.直接感染
1.接触感染
2.飛沫感染
3.空気感染(飛沫感染の1種)
B.間接感染  (媒介物: 飲食物,水,衣類・器物,塵埃,カ,ハエ,シラミなど)

○病原体の侵入門戸による分類
A.皮膚(経皮感染)
B.粘膜
1.呼吸器
2.消化器(経口感染)
3.眼
4.泌尿生殖器

contagiousの語義はこの分類での接触感染を意味するのでしょうか?それとも直接感染全体を指すのでしょうか?またinfectiousはこの分類の間接感染ととらえて良いのでしょうか?それともこの分類とは関係ないのでしょうか?それとこの分類で使われているごの英語も教えて頂けると幸いです。どうかご教示のほどよろしくお願いいたします。

 ちなみに問題の英文のほうはコレラは接触感染するものではないが食物を通して経口感染することがある・・・のように理解しました。
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[lex] contagious/infectious

Date: Mon, 30 Mar 1998 From: "浅田 幸善"

Random House Dictionary(第2版)のcontagiousの項にある類義語解説によると

CONTAGIOUS, INFECTIOUS are usually distinguished in technical medical use.

CONTAGIOUS, literally "communicable by contact," describes a very easily transmitted disease as influenza or the common cold. INFECTIOUS refers to a disease involving a microorganism that can be transmitted from one person to another only by a specific kind of contact; venereal diseases are usually infectious,...

とあります.(小学館ランダムハウス英和 第2版には 「空気・水などの媒介による間接伝染は infectious」と書いてあります)また,手元にある辞典(インタープレス版 バイオ&メディカル大辞典 和英編)によれば(この辞典は用語の説明はいっさいありません)

直接感染: immediate contagion
接触感染: contagion
飛沫感染: droplet infection
空気感染: air-borne infection
間接感染: mediate contagion
経口感染: oral infection
となっています(このうち接触感染と飛沫感染は「リーダーズ」にもありました)

(immediate) contagionの下位分類に (droplet) infectionというのがあったり,どれほど厳密な区別があるのかわからないようにも思われます.

インタープレス版の辞書はやや信頼性に欠ける部分がありますので,他の専門辞書などにあたってみる必要があると思いますし,自分なりの見解を出す時間もありませんので,今日は中間報告的なものですませておきます.中途半端な書き込みですみません.たぶん他の方からの書き込みがあると思います.

浅田幸善 (ASADA Yukiyoshi)


[lex] contagious/infectiousの語義

Date: Mon, 30 Mar 1998 From: 村田 年

金 野 様
村田です.

いやー,すごいところに目をつけられましたね.

実は私の知り合いでこの問題について論文を書いた人がいまして,現在印刷中です.彼に答えてやってと,連絡中ですが,現在彼は引っ越しの,また引っ越しの最中でまだ連絡がつきません.彼の特許ですから,私が答えるわけにもいかないし...

数日中にご返事します.

村 田  年
英語辞書研究会ホームページ:見てやって下さい.
URL: http://www.f.chiba-u.ac.jp/JACET-LEX.html


[lex] contagious/infectious

Date: Tue, 31 Mar 1998 From: 村田 年

浅田先生
村田 年です.

この問題は辞書ではちょっと解決がつかないと思っています.最近は辞書がよくなり,辞書の誤り,ミスリーデイングな説明は極めて少なくなりましたが,この contagious/infectious はめずらしく,辞書の記述と実際の使用例のギャップがある問題のようです.友人が見つかったら解答を載せます.

 ともかく浅田先生は1000mの山の映画でヒットを飛ばしていらっしゃるから.私などは下手な鉄砲で数を打っています.

 赤須 薫先生のことばの辞書と百科事典との違いの指摘はいいところをついて下さいましたが,おっしゃっているようにこれも程度の問題ですね.浅田先生の指摘は相当文化的な意味があります.

例えば,
   水:H2O(eichi,two,oh);水素と酸素からなる.
などと較べれば皆さんの説明は文化的です.

 次の見坊さんの語釈はいかがでしょうか.

水:1.泉からわき川を流れ海にたたえられたり雨となって降って
  来たりする,冷たい液体.化学的には,水素と酸素の化合物と
  してとらえられる.[きれいなものは無色透明で飲料に適し,
  生物の生存に不可欠.熱したものは「湯」,蒸発するものは
  「水蒸気」凍ったものは「氷」と言う]...[新明解国語辞典]

 water は必ずしも「冷たく」ありませんし,「湯」も water ですし, 「飲料に適し」などは日本の文化ですし,イギリスの川はたいてい冬は「流れ」ないそうですし,文化的意味は相当に違うわけで,これを記述するのがことばの辞典なのでしょうね.

 文化的意味をどこまで書くか,がことばの辞書の問題となるでしょう.見坊さんの語釈もくどすぎるとも思えますが,外国人だったらどんなにか助かるでしょう.日本人が水をどうとらえているかがわかるのですから.

 これを英語の問題にしてみると,NWD が改訂において(3版)文化的な説明をかなりカットしてスペースを作ったのもうなずけます.アメリカ人にとっては自明のことですから.旧版は日本人のフアンが多かったのもわかります.

 おしゃべりはこのへんで.おやすみなさい.
 村 田  年

 英語辞書研究会ホームページ:見てやって下さい.
 URL: http://www.f.chiba-u.ac.jp/JACET-LEX.html


[lex] contagious/infectiousの語義

Date: Tue, 31 Mar 1998 From: kazuo kato

加藤@岩手医大です.

医(歯)学生相手の英語教育をしているので,この問題には前から関心がありました.学生は英和辞典を見て infectious disease や infection を「伝染(病)」と訳すことがよくあるので,それを「感染(症)」と訂正するのに汲々としておりました.(私自身は MD でも,基礎医学の PhD でもありません.)

konno takashi wrote:
> TIMEのコレラに関する記事の中に
> (The disease, while not contagious, can be transmitted by food handling,
> and in up to 50% of cases, kills if left untreated.)
> という分がありましたが、コレラは法廷伝染病なのに not contagious と書かれているの
> が、どうにも理解できませんでした。
>
> contagiousの語義はこの分類での接触感染を意味するのでしょうか?それとも直接感染全
> 体を指すのでしょうか?またinfectiousはこの分類の間接感染ととらえて良いのでしょう
> か?それともこの分類とは関係ないのでしょうか?
>  ちなみに問題の英文のほうはコレラは接触感染するものではないが食物を通して経口感
> 染することがある・・・のように理解しました。

私もそのように理解します.英和辞典(大多数の英英辞典も多分そうだと思いますが,英和辞典の contagion の語釈には Transmission of disease by contact with the sick. という情報のほかに,

The term originated long before development of modern ideas of infectious disease and has since lost much of its significance, being included under the more inclusive term "communicable disease." (Stedman's Medical Dictionary, 24th Edition, 1982)

という情報が欠如しているため,contagion も infection も同じ時間軸の中でとらえられてしまう可能性が出てきます.日本の医学生対象の教科書や医学用語辞典では contagion は医学用語あつかいをされていないようです.現代の概念の感染症を contagion という用語で切ろうということ自体が無理なのだというのが,小1時間ほど若い医師の解説を聞いた印象でした.つまり,英和辞典には専門用語としての infection の説明と contagion の歴史的,比喩的な意味の解説までが混在しているので,金野様のようにつきつめて考えるとかえってわかりにくくなるということのようです.

なお,contagion という概念が西洋医学に登場したのはかなり古いことで,John H. Talbott, M.D.,(1970), A Biographical History of Medicine: Excerpts and Essays on the Men and Their Work (New York/London: Grune & Stratton) によると17世紀のようです.また,contagion と contact は同根ですね. (加藤 和男)


[lex] contagious/infectiousについて

Date: Wed, 01 Apr 1998 From: 村田 年

加藤和男先生
村田 年です.

先生の書き込みを読ませていただいて,いつもながらの該博な知見と説得力のある,行き届いた調査に,この問題は解決したな,と思ったのですが,朝目が覚めたらいろんな疑問がわいてきました.

われわれの辞書学の関心はどちらかと言うと,一般の人々がことばをどう使っているかにあると思うのです.ですから先生の学生さんが「感染(症)」を「伝染(病)」と訳すように,日常の英語において contagious と infectious が医学で使われている場合とずれて用いられていることががあるのか,ないのか,ずれがあるとすれば,どこにどの程度あるのかを知りたいわけです.(こんなことを先生に申す必要はないとは思いますが).

ですから金野さん(1)に答えることが大事だと思います.contagious と infectious は同じ軸の上にないというご指摘は極めて示唆的です.しかし一般の英米人は同じ軸上において意識しているということはないのかどうか.民間人の場合,この2語の使い方に個人差とか混乱がないのかどうか,さらに金野さんが提示されている感染症の各分類において主にどちらの形容詞を使っているのか,こんな点が知りたいのです.もちろん医学の場面ではなく日常の場面でですが.

金野さん(2)の「コレラは接触感染するものではないが」という訳はもちろんこの場合はいいのですが,別の場面で not contagious が「伝染病ではありません」「感染症ではありません」と使われないか,かえって「接触感染するものではない」という限定された意味で使われるほうが少ないのではないか,といった疑問がわいてきます.(この英文を見せたら not contagious の部分を直すような informant もいるかも知れない,金野さんが最初驚かれたように,なんて思ったりもします.)

自分では何もしないでものを言って申し訳ありません.ご教示に感謝しつつ.


[lex] 訂正します。

Date: Wed, 1 Apr 1998 From: konno takashi

 金野です。さきほどのメールを送信したあと村田先生のメールを読み、恥じ入っています。加藤先生どうも失礼いたしました。なぜか1行セーブしそこねたようで、とんでもない誤解をしてしまいました。前回のメールの以下の部分は無かったことにしてください。申し訳ありませんでした。

加藤先生
| 学生は英和辞典を見て infectious disease や infection を(症)」 と訂正す
| るのに汲々としておりました
そう言われてみますと、contagiousな風邪には普通症はつきませんね。

infectious は特別の感染経路を有する感染症という風にとらえると頷けます。

加藤先生のメールの本来の意味と村田先生のメールについては、これから、ゆっくり考えてみます。

本当に失礼いたしました。

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[lex] contagious/infectious

Date: Wed, 1 Apr 1998 From: konno takashi

 金野です。
浅田先生、いろいろ調べて頂き有り難うございました。もしできることでしたら、経皮感染の英語も教えて頂けると幸いに存じます。

| CONTAGIOUS, INFECTIOUS are usually distinguished in technical medical
| use.

病理学や衛生学では厳密に定義されているのでしょう。興味があります。

| CONTAGIOUS, literally "communicable by contact," describes a very easily
| transmitted disease as influenza or the common cold. INFECTIOUS refers
| to a disease involving a microorganism that can be transmitted from one
| person to another only by a specific kind of contact; venereal diseases
| are usually infectious,...

風邪がcontagiousで、性病がinfectiousということになりますね。私は逆に感じてしまい、 混乱していました。 風邪のように単純用意に伝染してしまうのがcontagiousで、 セイビョウやコレラのように特別な感染がinfectious ということだったんですね。確かに日常生活ではごく普通の病気か特別な病気なのかということのほうが大事でした。

加藤先生
| 学生は英和辞典を見て infectious disease や infection を(症)」 と訂正す
| るのに汲々としておりました

そう言われてみますと、contagiousな風邪には普通症はつきませんね。infectious は特別の感染経路を有する感染症という風にとらえると頷けます。

おかげさまで、頭の中はかなりすっきりしてきました。

村田先生
| contagious/infectious はめずらしく, 辞書の記述と実際の使用例のギャップ
| がある問題のようです.友人が見つかったら解答を載せます.

楽しみにしていますので、よろしくお願いいたします。
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[lex] contagious/infectiousについて

Date: Wed, 01 Apr 1998 From: kazuo kato

加藤@岩手医大です.

ついでながら,やはり今朝の「だぶり」メールがダブっていました.どうしてなのでしょうね.

> 村田 年です.
>
> われわれの辞書学の関心はどちらかと言うと,一般の人々がことばをどう使っ
> ているかにあると思うのです.ですから先生の学生さんが「感染(症)」を
> 「伝染(病)」と訳すように,日常の英語において contagious と infectious
> が医学で使われている場合とずれて用「られていることががあるのか,ないの
> か,ずれがあるとすれば,どこにどの程度あるのかを知りたいわけです.(こ
> んなことを先生に申す必要はないとは思いますが).

まったく,おっしゃる通りで,あれだけの内容で終わるのは無責任だと思っておりました.ただ,現行の英和辞典の語釈の,信頼できる修正版をひねり出すことは容易ではありません.そこで,とりあえず,この前のメールの内容を報告したという次第です.

> ですから金野さん(1)に答えることが大事だと思います.contagious と
> infectious は同じ軸の上にないというご指摘は極めて示唆的です.しかし一般
> の英米人は同じ軸上において意識しているということはないのかどうか.民間
> 人の場合,この2語の使い方に個人差とか混乱がないのかどうか,さらに金野
> さんが提示されている感染症の各分類において主にどソらの形容詞を使ってい
> るのか,こんな点が知りたいのです.もちろん医学の場面ではなく日常の場面
> でですが.
>
> 金野さん(2)の「コレラは接触感染するものではないが」という訳はもちろ
> んこの場合はいいのですが,別の場面で not contagious が「伝染病ではあり
> ません」「感染症ではありません」と使われないか,かえって「接触感染する
> ものではない」という限定された意味で使われるほうが少ないのではないか,
> といった疑問がわいてきます.(この英文を見せたら not contagious の部分
> を直すような informant もいるかも知れない,金野さんが最初驚かれたよう
> に,なんて思ったりもします.)

一般の用法では contagious という語は「接触感染する」の意味でも「伝染する」(この日本語も病気以外の文脈でも使われます)の意味でも使われると思います.ただ,どちらが多いかという問題には簡単には答えられません.しかし,(まったくのヤマカンですが,)金野さんが引かれたような文脈では単に「伝染する」の意味では用いないのではないかという気がします.

以上,無責任かもしれませんが,新学期の準備などがあって今は残念ながらくわしい調査ができそうにありません.とりあえず,こんなところで勘弁してください.

(加藤 和男)

P.S. 学内 LAN が点検中で送信できないので,この間調べたことを報告します.

結核や結膜炎は contagious であり同時に infectious,狂牛病や破傷風は infectious ではあるが,contagious ではない.AIDS も infectious ではあるが,contagious ではないと主張する人たちもいるようです.確かに握手などの接触では感染しないと言われているようですが,性的接触は感染危険因子なのですから,どうなのでしょうね.

当然と言えば当然ですが,contagious であるが,しかし, infectious ではないということはないようです.


[lex] contagious/infectiousについて

Date: Wed, 01 Apr 1998 From: 村田 年

加藤和男先生
村田 年です.

ありがとうございました.なにも具体的なことを言わずにおしゃべりだけを致しまして失礼しました.具体的な適用の例をお教えいただきまして,ありがとうございます.勉強します.

やっと友人に連絡が取れまして,具体的な用例による調査の報告の一端を書き込んでくれると言っていますので,少し期待していて下さい.

メールの件,申し訳ありません.キャンセルしてまた入り直すことに少し躊躇があります.前回メールが着信するまで4日かかりましたので.

井上先生,申し訳ありませんが調べて下さい.


[lex] contagious/infectious について

Date: Wed, 01 Apr 1998 From: 村田 年

金 野 様
村田 年です.

金野さんは学校の先生でしょうか.先生なら,呼びかける場合簡単でいいのですが,一般の方ですと呼びかけにくいですね.「金野さん」などと言ってしまうことをお許し下さい.

私など還暦を過ぎて早とちりばかりですから「恥じ入る」必要などまったくありません.

(金野さん)
>>風邪がcontagiousで、性病がinfectiousということになりますね。私は逆に感じてしまい、 混乱していました。 風邪のように単純用意に伝染してしまうのがcontagiousで、 セイビョウやコレラのように特別な感染がinfectious ということだったんですね。確かに日常生活ではごく普通の病気か特別な病気なのかということのほうが大事でした。

(村)こんなように簡単には言えないと思いますよ.(やまかんですけど.)

>>そう言われてみますと、contagiousな風邪には普通症はつきませんね。infectious は特別の感染経路を有する感染症という風にとらえると頷けます。

(村)これもとてもこんな単純には言えないと思います.(これもやまかんで悪いんですが,この程度のことなら英英辞典や英和辞典の記述に混乱は起こらないと思います.)

加藤先生の「この2語は同一の軸の上にあるのではない」というお言葉,これが最大のヒントになるでしょうか.


[lex] contagious/infectious について

Date: Wed, 01 Apr 1998 From: kazuo kato

村田先生:
加藤@岩手医大です.風邪で思い出しました.

> 加藤先生の「この2語は同一の軸の上にあるのではない」というお言葉,
>   これが最大のヒントになるでしょうか.

話をこみいらせて申し訳ありませんが,インフルエンザは正式な「伝染病」ですが,普通の風邪はこの意味では「伝染病」ではないらしいです.「伝染病」は命にかかわるほど重症になる可能性があるということが一つの必要条件であるらしいです.どちらも「人にうつる」病気で,感染症であることは間違いないようなのにです.いわゆる性病も最近は STD [Sexually Transmitted Disease] ということがよくあるようです.

ごちゃごちゃした話で申し訳ありません. (加藤 和男)


[lex] contagious/infectiousについて

Date: Wed, 1 Apr 1998 From: "浅田 幸善"

いくつか資料を調べてみて,現時点での自分なりの結論を書いておきます.(人間に限らないわけですが,便宜上人間の病気ということで)

contagiousは「病原体をもつ人やその衣服に触れたり,その人から排出されたもの(咳,痰,鼻汁,唾液,糞便など)に触れることで感染する[うつる]」

infectiousは「体内に病原体が侵入してうつる」

contagiousは病原体の伝播経路(どうやって人から人にうつるか)に焦点があり,infectiousはそのような経路を問わずとにかく病原体の体内への侵入について言っている,ということになるでしょうか.

加藤先生の前前回の最後の言葉を換えて言えば,

"all contagious diseases are also infectious but it does not follow that all infectious diseases are contagious"

ということですね.

前回とりあえずRHDの類義語欄からの引用を送りましたが,あの説明はちょっとずさんというか,あまり正確ではないことがわかりました.

CONTAGIOUS, INFECTIOUS are usually distinguished in technical medical use.

とくれば,そのあとに,ある程度専門的な区別がされていると思っても不思議ではありませんが,「contagioiusは"a very easily transmitted disease"を示す」,というのはちょっと素人っぽい説明のようです.もっとも,素人っぽければそれなりに一般の人が考えているイメージの一端がつかめる(かもしれない),とも言えますが.風邪・インフルエンザ・はしかがcontagioiusと呼ばれるのはそれが very easily transmitted であるからではなく,感染者の排出物(咳など)に触れた結果うつるからだということになります.

もちろん「接触」の意味の範囲をもっと狭くとり「空気感染」の場合はcontagiousではないという立場もありえます.その上infectiousを実際の接触(直接の接触)がない感染であるという立場に立てば

"Examples of 'contagioius' diseases are chicken pox, venereal disease and leprosy, while 'infectious' diseases include influenza, tuberculosis and poliomyelitis."

のような言い方もできるわけですね.

(引用は Adrian Room: Dictionary of Contrasting Pairs; Routledge,1988, p.51)

以上,実際の用例よりもcontagiousとinfectiousについて書かれた辞書の説明などをもとにした限りでの結論です.論文ではないので,参考文献は今回は省略させていただきます.

この区別について今まであまり(全然かな?)考えたことがなかったので,少なくとも自分としては大いに発見があり得をした気分です.

あとは,村田先生のご友人の書き込みを楽しみに待ちたいと思います.長々と書いてしまい,申し訳ありません.

浅田幸善 (ASADA Yukiyoshi)


[lex] about the uses of "contagious" and "infectious"

Date: Fri, 03 Apr 1998 From: 村田 年

メールを転送します.

about the uses of "contagious" and "infectious"
From:
> ---------------------------------------------
はじめて投稿させていただいております。ちょうど昨年の今頃infectious と contagious の用法について調べ論文*を書きました。その修正版をたまたま村田年先生が読んで下さり、先生よりこのメーリングリストでこの類義語の用法を巡り意見が交わされていることを伺いました。せっかくの機会ですので、調べました結果を以下に述べさせていただくことにいたしました。

 まず、infectious と contagious の扱いを様々な辞典や手引き書で調べたところ、3つ(ないし4つ)の扱い方が見受けられました。ひとつは、infectious は空気、水、蚊などを通しての間接的感染について用い、contagious は、接触感染について用いられるという立場で、最も多くの文献がこの種の説明を与えています。 2つ目のアプローチは、infectious は細菌による感染一般について用いられるのに対して、contagious はもっと限定的に接触感染について用いられる、というものです。Webster の synonyms, usage の辞典はこの立場をとっています。違いはあるものの、これらの文献は共に contagious は接触感染について用いられる、と述べています。

 すると、今野先生が挙げられた Time の用例では contagious はその意味で用いられ、contagious ではないけれども infectious (接触感染によらない感染)ではある、とすっきり解釈できそうです。

 ところが、浅田先生や加藤先生が示唆なされているようにこの類義語のセットは、医学的に(技術的に)厳密な区別が必要でないときには、その使い分けは上で述べられているものとは、かなり違ったものになっているようです。まず、次のような間接、直接感染かは問題とならないような日常的/口語的な文について、infectious/cotagious の選択テストを10人のインフォーマントに行いました。

1 There seems to be a highly (contagious, infectious) type of flu going around, so be sure to gargle when you come home.

2 Listen, everybody. Wash your hands carefully with soap because the disease is highly (contagious, infectious).

結果は、1のような間接感染の文脈では、10人のうち8人ほどがcontagious を選択し、2のような接触感染の文でははぼ半数が infectious を(も)選択しました。そして、10人中4人がすべての例に置いてcontagious を選択しました。日常的な文脈では contagious を好む傾向があるようです。

 次に書き言葉では、Cobuild Direct のコーパスにあたると、infectious の用例が218、contagious が66例で、infectious の使用度は多くなります。コーパスは限られた文脈しか与えてくれませんので、その用法が確認できる例は、残念ながら infectious について31例、contagious については13例です。infectious では、31 例中 17例で間接的感染について、8例で接触感染について用いられ、6例では2つのタイプの感染を包括する感染一般について用いられておりました。 contagious のほうは、間接感染についてが9例、接触感染についてが2例、感染一般について用いられているものが6例ありました。

 調査対象となったコーパス中のテクストは比較的フォーマルなものが多いのですが、infectious のほうは(より)先に挙げた文献の記述に近い使われ方をしていますが、contagious の方は接触感染に用いられる、とは言えそうにありません。

 それでは、様々な疾病などを説明するような、さらに技術的なテクストではどうかと思い、Britannica 百科のCD ROM に当たってみました。infectious について30 例ほど見たところ、様子は Cobuild のコーパスと大差はありませんでした。一方、contagious の方は、(現在勤務校からメールを出していて修正版の論文が手元になく、はっきりとした数字は示せませんが)ほぼ20例中、間接感染について用いられているものが2 - 3 例、接触感染については11例程度、感染一般について用いられているものが6 -7 例程度でした。ここまで来ると、この2つの類義語もはじめにみたインフォーマントによる何気ない判断に比べ、大分上の辞書類が指摘するような用法で使われてきています。しかし、それでも指摘されている使い分けがきちんと守られている、とは言い難いことが分かります。

 実際、infectious, contagious の用法に対する3つ目の辞書類の立場は、上で述べた文献のような違いは、医学的なコンテクストではあるものの、日常的には2つの語はしばしば混同される、と述べています。私が調べた限りでは、Copperud(1980). American Usage and Style: The Consensus、『新グローバル英和』、『スーパーアンカー英和』がその様な立場をとっております。

 以上まとめると、日常的なコンテクストでは、とりわけ間接的な感染にいては contagious が好まれる傾向がある。infectious は書き言葉になるとより多用されるようになり、しばしば比較的形式張ったテクストにおいて、半数くらいは間接的な感染について用いられる。しかし、contagious のほうは依然接触感染にいて用いられることは少ない。contagious は、百科辞典に見られる病気の説明のような技術的/専門的なコンテストにおいてはじめて接触感染について用いられる傾向があるようである。だいたいこんなことが言えるのではないかと結論いたしました。

 以上、長々と私見を述べさせていただいてしまいましたが、お気付きの点などありましたら、ご教示頂ければ幸いです。

 失礼いたしました。

*"A preliminary study of the uses of the synonymous adjectives, "infectious" and "contagious"
--- Native speaker's intiution, the CobiuldDirect corpus, and the Britannic CD text ---
『千葉商大紀要』第35巻 第1号(1997年6月). 

    山崎  聡

P.S. 村田 年 先生:ご返事が遅くなりすみませんでした。


[lex] contagiousに関連して

Date: Sun, 05 Apr 1998 From: 村田 年

加藤 和男 先生
村田 年です.

加藤先生の次のおことばが頭に引っかかっていましたので,雑談的にちょっと書かせていただきます.

(加藤先生 wrote:)
話をこみいらせて申し訳ありませんが,インフルエンザは正式な「伝染病」ですが,普通の風邪はこの意味では「伝染病」ではないらしいです.「伝染病」は命にかかわるほど重症になる可能性があるということが一つの必要条件であるらしいです.どちらも「人にうつる」病気で,感染症であることは間違いないようなのにです.いわゆる性病も最近は STD [Sexually Transmitted Disease] ということがよくあるようです.
ごちゃごちゃした話で申し訳ありません. (加藤 和男)

「インフルエンザは正式な「伝染病」ですが」という部分ですが,語法研究では,

1)専門分野からのその語の用法への示唆

2)民間で,特に日常会話でどう使われているか

 加藤先生は1)の方の情報をわれわれに教えてくれているのですが,同時にわれわれは日常「インフルエンザ」をどう捉えているかも大事です.この面の調査の方が語法研究としては重要ではないでしょうか.(私自身はこの語法研究はほとんどやっていないのですが)

私個人の感覚としては,もし日本語を学習している外国人に「インフルエンザは伝染病ですか」と聞かれたら,「いや,伝染しますけど,伝染病の一種ではないでしょう.伝染病というのは例えば...」などと答えるかも知れません.

文化的な意味も「インフルエンザ」と "influenza" では違うのではないでしょうか.その昔猛威をふるって多くの人々を死に至らしめた influenza を身近に知っているヨーロッパの人々と,輸入品の強い風邪ぐらいに受け取っている日本人では相当受ける意味合いが違うかも知れません.

Technical term としての意味から一般の意味・用法が規制される面とそれと関係なく(関係はあるのでしょうが)日常使われている様との両方をを明らかにすべきなのでしょうね.加藤先生の驚くべき用例の蓄積はもちろんそのためなので,釈迦に説法ですが.取り留めのないことを書きました.

 ご教示ありがとうございました.
村 田  年
英語辞書研究会ホームページ:見てやって下さい!
URL: http://www.f.chiba-u.ac.jp/JACET-LEX.html


[lex] contagiousに関連して

Date: Mon, 06 Apr 1998 From: kazuo kato

村田 年先生:
まったくおっしゃる通りだと思います.ただ,問題は一般の英和辞典には載っていないような technical term はともかくとして,今回のcontagious や infectious のように両方にまたがるような語については一般の英和辞典も,「一般の意味・用法」のほかに technical term の語釈についてもある程度の正確さが要求されるのではないか,というのが私の言いたかったことのひとつです.

私が教えてるような医(歯)学生はまだ専門家ではありませんから,英語のテキストを見てもどの単語が technical term なのかの判断は無理です.単語がわからなければ,まず一般の英和辞典を引くというのがかれらのやりかたのようです.

具体的な例をあげましょう.finding という単語は一般語ですが,医学の分野ではこれに対応する日本語としては「所見」が一般的のようです.しかし,「(医)所見」のような訳語を与えている英和辞典はそれほど多くありません.また,たまたま私が関係した英和辞典の旧版ではdiagnosis に対して「診断」のほかに「診察(=examination)」という訳語を与えていたので,「診察」はやめてもらったことがあります.

「診断」は「診察(examination)+ 判断」ですから,「診断」と「診察」を同一視するわけにはいきません.

ちょっと乱暴かもしれませんが,infectious という形容詞については「伝染する,伝染性の」という訳語を与えても,infectious disease については「感染症」一本槍で通す方がいつかのメールでも書いたような学生の訳を防止するのに役立つと思います.明治30年に制定された「伝染病予防法」に代わる法案として「感染症予防法案」国会にが提出されると聞いていますが,英和辞典もそういう時代の動きに遅れないようにすべき―ちょっと口幅ったくて恐縮ですが―なのではないでしょうか.

contagious のほうはやっかいです.まったくの素案ですが,

(1)(やや厳密に)(病気が)接触感染をする
(2)(広義に)(病気が)伝染をする:contagious disease(古風な呼称)伝染病
(3)(一般に)(愉快なもの・不愉快なものが)伝染する ( infectious は主として愉快なものについて使う)
(この最後の情報は The New Fowler's Modern English Usage (1996) と Webster's Dictionary of English Usage に基づいています.)

以上,会議の合間に時間を盗んで書いたのでいろいろ問題があろうかと思います.ご容赦ください. (加藤 和男)


[lex] contagiousに関連して

Date: Mon, 06 Apr 1998 From: Minoru MURATA

加藤和男先生
村田です.

よくまとめていただきましてありがとうございます.

わたしも時間があればこれに用例を付けてみたいと思っています.

ありがたく読ませていただきました.