hill/mountain

Date: Tue, 24 Mar 1998 From: Atsuhiro Kato

hillとmountainの違いについての辞書の記述に疑問を感じました。疑問は2つあります。

<1.数値の問題>
安藤貞雄・山田政美(編著)(1995)「現代英米語用法事典」研究社.p.271の"hill, mountain"の項を見ていたら次のようにありました。

<英>では約300メートル以上の山をmountainと呼び、それより低い山はhillと呼ばれる。

山=mountain、hill=丘、という誤った公式を信じていた私は、これは初耳だと思ってニューセンチュリー和英(第2版)も引いてみました。すると、"やま"の項に次のようにありました。

hillはmountainより低く、(英)では通例約600メートル以下の山をさす。

お分かりのように、二つの記述の間には300と600という数値の違いがあります。きっとOEDか何かが根拠になっていると思い、OED2を引いてみたところ、"hill"の項に次のようにありました。

In Great Britain heights under 2,000 feet are generally called hills....

英和辞典を引いてみたところ、プロシード(初版)・初級クラウン(第7版)は600メートル、小学館ランダムハウス(第2版)・リーダーズ(初版)は"2000ft.=610m"としていました。数値が出ていないものもありました。

一方、300メートルの根拠は何だろうと探っていたら、Sinclair,J.(ed)(1992), Collins COBUILD English Usage.London:Collins のp.295に次のようにありました。

In Britain, the smallest mountains are about 1000 feet (300 metres) higher than the land surrounding them.

しかし、300mでも600mでもない数値が現れました。大塚高信ほか(編)(1969)「英語表現辞典 英語の語法/語彙篇」研究社.のp496には次のようにありました。

イギリスでは2000メートル以下の山は通例hillと呼ばれるからmountainと呼ばれるものはまれである。

これは、もしかしたらメートルとフィートを間違えただけかもしれませんが。

<2.相対/絶対の問題>
英和辞典やニューセンチュリー和英、そして安藤貞雄・山田政美(編著)(1995)の記述から判断すると、その山が「海抜」何メートルより高いか低いかでhillかmountainかを使い分けることになります。つまり、絶対的な高度が問題とされるわけです。

しかし、次のような記述をみると、本当にそういえるのかどうか疑問が生じます。
大塚高信ほか(編)(1969: 496)
Hill(丘・小山)はmountain(山)より小さいのは一般に事実だが、これはその周囲の地勢により呼び名が変わりうるもので、海抜の多少によって決まるものではない。(中略)Mountainは周囲の風景に著しい変化を与えるようなものについていい、平地にあってそう高くなくともmountainと呼び、山地にある山は高くてもhillと呼ばれることになる。

Sinclair,J.(ed)(1992: 295)
In Britain, the smallest mountains are about 1000 feet
(3000 metres) higher than the land surrounding them.

これは先にあげたものと同じですが、最後の部分に注目してください。そして、多くの英和辞典が参考にしていると思われるOED2の記述です。これも最後の部分に注目してください。

OED2(s.v. hill 1.a)
A natural elevation of the earth's surface rising more or
less steeply above the level of the surrounding land.

これらの記述によれば、hillとmountainの使い分けにおいて問題となるのは、海抜何メートルといった絶対的な高度ではなく、周囲の土地と比べてどれだけでっぱっているかという相対的な高度です。以上、一応調べてみましたが、本当のところはどうなのかよく分かりません。どなたかご存知の方がいらっしゃらないでしょうか。
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加藤豊裕(Atsuhiro Kato) 島根大学 教育学部 英語教育専修

E-mail :


[lex] hill/mountain

Date: Tue, 24 Mar 1998 From: 井上 永幸

加藤君
『NC和英』の名前がでておりますので,一応,少しだけ(^_^;)。

>これは先にあげたものと同じですが、最後の部分に注目してくださ
>い。そして、多くの英和辞典が参考にしていると思われるOED2の記
>述です。これも最後の部分に注目してください。
>
>OED2(s.v. hill 1.a)
> A natural elevation of the earth's surface rising more or
> less steeply above the level of the surrounding land.
>
>これらの記述によれば、hillとmountainの使い分けにおいて問題と
>なるのは、海抜何メートルといった絶対的な高度ではなく、周囲の
>土地と比べてどれだけでっぱっているかという相対的な高度です。

おっしゃるように,詰まるところは相対的なものだと思います。OED2を引用されていますが,実は引用されている箇所の前の部分に,

>1. a. A natural elevation of the earth痴 surface rising more or less steeply
>above the level of the surrounding land. Formerly the general term, including
>what are now called mountains; after the introduction of the latter word,
>gradually restricted to heights of less elevation; but the discrimination is
>largely a matter of local usage, and of the more or less mountainous character of
>the district, heights which in one locality are called mountains being in
>another reckoned merely as hills. A more rounded and less rugged outline is also
>usually connoted by the name.

とあります。これはまさにその相対的評価の説明です。引用されている箇所は,正確には次のように続いていますね。

>In Great Britain heights under 2,000 feet are generally called hills;
>'mountain' being confined to the greater elevations of the Lake District, of
>North Wales, and of the Scottish Highlands; but, in India, ranges of 5,000 and
>even 10,000 feet are commonly called 'hills' in contrast with the Himalaya
>Mountains, many peaks of which rise beyond 20,000 feet. The pl. hills is often
>applied to a region of hills or highland; esp. to the highlands of northern and
>interior India.

また,

>一方、300メートルの根拠は何だろうと探っていたら、Sinclair,
>J.(ed)(1992), Collins COBUILD English Usage.London:Collins
>のp.295に次のようにありました。
>
> In Britain, the smallest mountains are about 1000 feet
> (300 metres) higher than the land surrounding them.

ですが,above sea-levelとはいっていないわけで,結局まわりの土地と比較した相対的な評価なわけです。

ただ,学習辞典を引く方の立場になってみると,「mountainとhillの違いは?」という問いに対して,「mountainはhillより高いもの」,「hillはmountainより低いもの」といった説明では,納得できないでしょうね。そこで,限られた行数の中でその目安となる数値を出しているというのが現状でしょう。ただ,誤解を与えやすいことは確かですので,スペース的に可能であれば「どちらの語を使うかは個人の相対的な評価にもよるが,周りの土地との差が概ね600mくらいのものをいう」程度の方がいいかもしれません。

編集主幹と相談してみます。ご指摘ありがとうございました。

追伸: ちょっと個人的な経験の話を。イギリスの'mountain'は日本人がイメージする「山」とは若干違います。「山」は緑の木で覆われたものを想像するのがほとんどでしょうが〔これも相対的なもので,個人的経験によって違うでしょうが〕,'mountain'はごつごつした岩肌がさらされたものを想像するのがほとんどだと思います。もちろんこれは,イギリスの地形が大いに関係しているわけです。

住宅地なども含めて,周りよりちょっと小高くなっているところはだいたい'hill'と呼ばれているようです。

井上永幸 < >
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[lex] hill/mountain

Date: Wed, 25 Mar 1998 From: 井上 永幸

>追伸: ちょっと個人的な経験の話を。イギリスの'mountain'は日本人がイメージ
>する「山」とは若干違います。「山」は緑の木で覆われたものを想像するのがほ
>とんどでしょうが〔これも相対的なもので,個人的経験によって違うでしょう
>が〕,'mountain'はごつごつした岩肌がさらされたものを想像するのがほとんど
>だと思います。もちろんこれは,イギリスの地形が大いに関係しているわけです。
>住宅地なども含めて,周りよりちょっと小高くなっているところはだいたい
>'hill'と呼ばれているようです。

ちなみに,Longman Dict. of English Language and Cultureには,

mountain ... n
>1 a very high hill, usu. of bare or snow-covered rock: He looked down
> from the top of the mountain to the valley far below. | a mountain
> chain/range (=line of mountains) | the mountain peaks
> Longman Interactive English Dictionary
> Longman Group UK Limited 1993

hill ... n
>1 a raised area of land, not as high as a mountain, and not usu. as
> bare or rocky: Sheep were grazing on the side of the hill. | The
> castle stands on a hill. | a hill farmer
> Longman Interactive English Dictionary
> Longman Group UK Limited 1993

とあります。

井上永幸 < >
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[lex] hill/mountain

Date: Wed, 25 Mar 1998 From: kazuo kato

加藤@岩手医大です.

Encyclopedia Americana (1980) (s.v. WORLD) に次のような記述があります:

Hills are rough lands, less high and less rugged than mountains. They occur primarily along mountains and plateau fringes, or as remnants of long-eroded mountains or plateaus of the geologic past. In a sense, they form the "filler" between other major landforms(i.e. mountains, plateaus, and plains).

英和辞典などにも「日本のあまり高くない"山"は hill(s) ということが多い」というような注があれば助かるな,と前から思っていました.

加藤 和男


[lex] hill/mountainで思い出しました

Date: Wed, 25 Mar 1998 From: "浅田 幸善"

hill/mountainの区別で思い出した映画があります.

95年のイギリス映画で"THE ENGLISHMAN WHO WENT UP A HILL BUT CAME DOWN A MOUNTAIN"(邦題『ウェールズの山』)です.

手元にある日本語の短い解説を引用すると

「1917年のこと,ウェールズのある山村に2人の測量技師が訪れ,地図に載せる山の高さを計る.ところが,それは山の基準点である標高305mにわずかにたらず,村人は大騒ぎ」 (雑誌 BS fan 3月号. p.163)

また,手元の video movie guideには

Charming British fluff, set during World War I, about a cartographer who, after declaring "the first mountain in Whales" to be sixteen feet short of official British mountain height, is delayed by eccentric locals until they can build it up from lowly hill status.... (Mick Martin & Marsha Porter:Video Movie Guide 1996, Ballantine Books, p. 279)

と紹介されています.(ちなみに,映画としての評価は5点満点の4点--Very Goodとなっています)

映画の中では「1,000フィートでないと地図にはのらんよ」というせりふがあったり,mountainであってほしいという村人の願いもむなしく,その山が984feetしかないと発表したあと,まじめなcartographerが村人たちの前でその山をmountainと呼べずに,小さい声でhillと呼ぶシーンなどがあったりします.

1,000 feetが本当にofficial British mountain heightなのか(だったのか)確認はできていませんが,hillとmountainの違いというと必ず思い浮かぶ映画ですので,ご紹介だけしておきます.

浅田幸善 (ASADA Yukiyoshi)


[lex] hill/mountain

Date: Thu, 26 Mar 1998 From: "Asao, Kojiro"

朝尾@東海大学です。

hill / moutain についての話題をおもしろく読ませていただきました。

数年前、日本人学生とアメリカ人学生に対して山の絵を描いてもらうという実験をしたことがあります。日本人学生には「山」の絵を、アメリカ人学生には moutains を描いてくださいと指示をして、色鉛筆で簡単な絵を描いてもらいました。

調査の目的は日米で同じ事物について、どのようなイメージの異同があるかを調べることです。つまり、ことばでは表せないイメージの違いを調べることです。このため、絵を描いてもらうという方法をとりました。結果は次のとおりでした。

日本人学生:
~~~~~~~~~~ 
 日本昔話に出るような、おにぎりの形をした山: 11名
  (色は緑、山の数は1、2、3、4いろいろ)

 富士山:                    3名
  (富士山なので、白と濃い色、数はひとつ)

アメリカ人学生:
~~~~~~~~~~~~~~
 アルプス、ロッキー山脈ふうの切り立った山:   7名
   (山の数は複数、雪が上に積もっている)

 日本人が描くような丸い山:           4名
   (山は複数、丸い山でも上に雪が積もっているものが2名)

 富士山:                    2名
   (山はひとつ、日本人の描くのと同じ)

アメリカ人学生が富士山を描いたというのは、彼らは東海大学に交換留学で来ている学生で、キャンパスからは富士山がよく見えるという事情もあったのかもしれません。アメリカ人学生と日本人学生のイメージを比べた場合、日本人は山をアルプスやロッキー山脈ふうの、けわしい、切り立ったイメージでとらえないのに、アメリカ人はこのようにとらえるものが多いということです。

また、アメリカ人は山の上に雪が積もったイメージをもつらしいということでした。

moutain について単に「山」という語義を与えるだけでは十分でないようです。ただし、学習辞典としてこのような情報をどこまで載せるか、また、このようなイメージの相違というものがどこまで妥当性があるものかは、これからさらに考えていかなければならないでしょう。
----------------------------------- phone (work): 0463-58-1211 --
朝尾幸次郎 東海大学(文学部)英文学科 ext.: 3133
fax (work): 0463-50-2239
-- http://www.lb.u-tokai.ac.jp/~koji/ ---------------------------


[lex] hill/mountainで思い出しました

Date: Thu, 26 Mar 1998 From: 井上 永幸

加藤先生,浅田先生
>1,000 feetが本当にofficial British mountain heightなのか(だったのか)確認は
>できていませんが,hillとmountainの違いというと必ず思い浮かぶ映画ですので,ご
>紹介だけしておきます.

official mountain heightなるもの,興味があります。国によっても違うんでしょうね。OED2は何を基準に2000フィートとしているのでしょうか。

井上永幸 < >
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[lex] hill/mountainで思い出しました

Date: Thu, 26 Mar 1998 From: konno takashi

井上先生、こんにちは。

>official mountain heightなるもの,興味があります。国によっても違
>うんでしょうね。OED2は何を基準に2000フィートとしているのでしょう
>か。

コンプトン百科事典でも

A mountain is a landform that rises prominently above its surroundings. It is generally distinguished by steep slopes, a relatively confined summit, and considerable height. The term mountain has topographic and geologic meanings. It generally refers to rises over 2,000 feet (610 meters).

とあります

また日本百科全書の「やま」には

「どの程度の比高があれば「山」とよぶかは、地方、国、研究者などで異なる。」とあります。2000フィートの説を展開している公明な学者がいるのでしょうが、その名前までは分かりかねます。世界大百科なら出ているかも知れませんが・・・

蛇足ですが、ご参考まで。

手元の電子ブック版の辞書類全てのmountainと山を調べてみましたが、言葉の定義というのは自明のようで、その実とても大変な仕事なのですね。


[lex] hill/mountainで思い出しました
Date: Fri, 27 Mar 1998 From: 井上 永幸 <>
Reply-To:
To:
金野様

なるほど,やはりそうですか。先ほど,OUPにOED2の記述について質問を出しておきました。もし返事がきましたらご報告します。

井上永幸 < >
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[lex] hill/mountain 方法論

Date: Fri, 27 Mar 1998 From: Minoru Moriguchi

シャープ・森口です。

hill/mountain のお話、非常に興味深く読ませて頂いています。

本当にこのMLは勉強になると思います。

そこで、この hill/moutain のように定義または connotation の違いがはっきりしない場合、派生語から考えるというのはどうなんでしょうか。たとえば、昨日たまたま hill と mountain をファイバリットで引いてみると、それぞれの形容詞が hilly と mountainous となっていました。また、研究社の大英和には mountain の形容詞として mountainy もあります。こういった派生語どうしを比較することにより元の語の定義を再確認するという方法は、メリットはあまりないのでしょうか(デメリットがあることは私にも何となくわかるのですが)。

ふと思った素人の疑問です。
--
Minoru Moriguchi
Personal Computer Division
SHARP Corporation


[lex] hill/mountain 方法論

Date: Fri, 27 Mar 1998 From: 井上 永幸

シャープ・森口 様:

これまではmountainやhillそのものについてのみ目が向いていましたが,おっしゃるとおり,そういった切り口も必要ですね。派生語もそうですが,hillやmoutainを修飾する語や前後で生起しやすい語句など,両者の違いをはっきりさせるのにまだまだやるべきことはあるということですね。

井上永幸 < >
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[lex] hill/mountain,修飾語から

Date: Fri, 27 Mar 1998 From: 村田 年

守口様,  井上様
村田年です.

(シャープ・森口 様:)
>そこで、この hill/moutain のように定義または connotation
>の違いがはっきりしない場合、派生語から考えるというのは
>どうなんでしょうか。たとえば、昨日たまたま hill と mountain

(井上先生:)
これまではmountainやhillそのものについてのみ目が向いていましたが,おっしゃるとおり,そういった切り口も必要ですね。派生語もそうですが,hillやmoutainを修飾する語や前後で生起しやすい語句など,両者の違いをはっきりさせるのにまだまだやるべきことはあるということですね。

(村)派生語も語の守備範囲を限定するにはいいと思います.
   井上先生のおっしゃた修飾語で守備範囲を限定していくやり方は
   意味の本質に迫っていく1つに有効なやり方だと思っています.
   KWIC で修飾する形容詞の種類と頻度数を見てみるのはいいと思います.
   私は clear とclean,beautiful とprettyなどをCOBUILD でむかし
   やりまして,拙い論文に仕上げています.

この問題は最初は加藤さんでしたっけ.わたしもこんなみんなが食いついてくるようなヒットを一度でいいから飛ばしたいですねー.

(無駄話)今日はこれからJACET英語辞書研究会の例会があり,出かけ
     ます.そこでJACET辞書研のホームページをあげた発表をします.


[lex] hill & mountain

Date: Sun, 29 Mar 1998 From: 赤須 薫

3/29/98
赤須@東洋大学です。

hillとmountainの話、楽しく読ませていただきました。

どうも議論が一段落したところでメールを出すことになってすみません。あとでまとめて読む癖があるものですから。

1,000フィートないとmountainの資格がないという話は知りませんでしたので、ためになりました。(新情報ではありませんが、確認のため)辞書学の立場から、別の観点でひとつコメントしておきたいと思います。

「1,000フィート以上がmountain」という情報は、いわば、百科事典的関心であって、辞書的関心ではないと思います。

この二つは、基本的に分けて考えた方が有益だと思います。(百科事典と辞書というのも不鮮明な境界領域があって、明確な線引きはできませんが、ここでは強引に分けます)

「1,000フィート以上がmountain」ということを大部分のイギリス人が知っているとは思われません。むしろ、そういう情報を習う以前にhillとmountainの区別がなんとなくできているというのが実状だと思います。

ですから、その区別を支えるのが何なのかを追い求め、それを記述するのが辞書の仕事だと思います。

辞書に「1,000フィート以上がmountain」という情報が不必要だということではなく、あった方が面白いし、いろんな意味でいいのですが、辞書的関心から言えば、それは二次的な情報になるという話です。

以上


[lex] hill and mountain

Date: Mon, 30 Mar 1998 From: 南出 康世

大阪女子大の南出です。

hill, mountainについての議論おもしろく拝見させていただいています。井上先生のほうから、辞書の定義だけでは相違がはっきりしないので、コロケーションの観点から見直してはどうかという主旨の提案があり、村田先生からそれをサポートする意見が寄せられました。 A word is known by the company it keeps.(Firth) という指摘は昔からあります。しかし理屈で分かっていてもこれを実証するのはこれまで大変でしたが、最近ではある程度まで容易になりました。

簡単な調査をやってみました。

コーパスとしてCD-ROM版辞書, Random House Webster's Unabridged Dictionary (version 2.1) [RHD]とOxford Advanced Learner's Dictionary 5(version1.0) [OALD] を利用しました。2つを組み合わせたのは、英と米、一般と学習で偏らない結果がでるのでは、という軽い気持ちでやっただけで、深い理由はありません。hillとmountainを含む用例が約200検出できましたので(定義文そのものから取っていません)、以下それに基づく報告です。(なお、 CD-ROMの説明については『英語辞書と辞書学』(近刊)にゆずります)。

(1) hill に はしばしば(平地と連続する)道路が通っていて車の通行は自由である(この場合「坂道」という訳があてはまるのでしょうか)。一般に勾配がきつく、人でも車でも登ることに苦労することが含意される。

It was strenuous to wagon up the hill.[RHD]/She puffed up the hill./
The old car pulled hard as we drove slowly up the hill.[OALD].

(ほか使われる動詞は、toil up, laboriously climb up, struggle up, go chugging up ,clank up ,creep up etc.)
また、車は(steep) hill でしばしば故障するという連想がある:

His brakes failed on a steep hill./The driver lost control and the car careened down the hill./ The car conked out halfway up the hill.

[以上OALD]/The engine lugs when we climb a steep hill.[RHD]

mountainにももちろん道路が通じていることが多いが、平地の道路とは別という意識があるためか、The van labored up the steep mountain track.[RHD]

のように、track[road]を付けて言うのが普通か。

(2)勾配がきついことから、hill はなにかが転がり落ちること、滑り降りることを連想させる:

The ball gathered pace as it rolled down the hill.[OALD]/slide down a snow-covered hill./pull a sled up a hill [以上RHD]

もちろん雪崩は山腹を滑り落ちる:

The sound was deafening, as tons of snow hurtled down the mountain.[RHD]

(3)転がり落ちる[滑り降りる]ことから、hill は地肌が見えてる状態のものがイメージされる。このようなhill だと吹きさらしなので、a windy hill [RHD]も存在する。a windy mountain は想像しにくい。

(4)hill はしばしば戦略上の重要ポイントとなる:

The infantry slugged up the hill and dug in./The enemy forces held the hill.[以上RHD]
関ヶ原の合戦にも山がいくつも登場する(たとえば、松尾山(小早川秀秋)/笹尾山(石田三成)など)。これらの山も英語で言えばhill なんでしょうね。

(5)hill にもmountain にも top, crest があるが、hill の頂上は比較的容易に到達できるので、頂上まで登ることを目的にした活動は特にないが(せいぜい。頂上までのかけっこ)、mountain にはもちろんある(e.g.mountain climbing[climber]) 。

従ってmountain の頂上は到達・征服の対象になる:

attain the mountain peak[RHD]/The mountain was not conquered until 1953.[OALD]

(6)lake. river 等はmountain の中に存在することが多いが、hillは通例 lake, riverに 隣接するものとしてとらえられる:

the charm of a mountain lake [RHD]/The hill declines to the lake.[RHD]

(7)mountain はseaside と並んでリゾート地になりうる:

weekend excursions to mountain resorts[RHD] 。

一方 hill resortという複合語はない。

(8)mountain には荘厳、雄大の観念を伴うが、hillには特にこの観念はない:

the majesty of the mountain scenery [OALD]/grand mountain scenery[RHD]

(ほか形容詞は、mighty, romantic etc.)。またhill にはhill scenery という複合語もない。

(9)その高さからしてhill には(威圧するように)そびえ立つというイメージはないが(cf. The mountain towered above us.[OALD]), 海に対しては高低差が生じるためか「見おろす」気持ちが強い:

The hill commands the sea./a hill overlooking the sea[以上RHD]

(10)RHD にはa descendable hill の用例がある。ということは崖に近い急勾配のhill もあるということになる。

以上限られたコーパスのコロケーションから推測した hill, mountain の「意味」です。

3月30日 南出康世


[lex] hill and mountain

Date: Tue, 31 Mar 1998 From: 村田 年

南 出 康 世 先生
村田です.

先生の用例と分析は極めて興味深いものです.このようによく準備され,練られた解答はできません.私などは口から出任せで.少し暇ができたら,mountain/hill と形容詞とのコロケーションをやってみたいと思っていましたが,先生の動詞とのコロケーションはおもしろいし,コーパスで機械的にできるものではないですね.

 村 田  年
 英語辞書研究会ホームページ:
 URL: http://www.f.chiba-u.ac.jp/JACET-LEX.html