From: "noboru inoue, mr"

Subject: [lex] RE: [lex] 英和辞典使用調査 {04} {01}
日本語の類義語辞典など {01}

Date: Thu, 28 Jan 1999 21:13:57 +0900

井上ともうします。昨年会社を退職して、自宅で翻訳業を行っています【自営】

今夜、本MLに入ったばかりですが、早速、辞書について熱い議論がなされており、うれしくなりました。

私は、日本の辞書は、英和、和英、日本語辞書とも悲惨な状況にあると思っています。その不満を個条書きに書いておきます。将来の辞書編纂者(?)たる皆様のご意見をお聞かせいただければ幸いです。順不同

○日本語辞書に発信型の辞書がない。すなわち、Rogetの名を関して続々出版される類義語で満足なものがまったくない。最近出た、三省堂の漢字引き逆引き大辞林がかろうじて渇をいやす。

○英和辞典  帯に短したすきに長し。私は小学館ランダムハウスを9冊くらいにばらして製本しなおして使用中。とかく、辞書は(日本語)だけにかぎらず、大きすぎ速度を要する実務者の使用のことを考えていない。また、辞書は読むものであり、バラしたのは通勤電車で読むためでもあった。ようやく、大辞林が3冊にばらしたけれども、まだ少し重い。-->通勤電車で読む人には。

○和英   ー>日本にはない。

○英英 OED(cdrom)を別にすれば、去年oxfordから出たNew Oxford Dictionary of English=NODEが良いと思う(35万語) 最近のことば、私の専門で言えば、hyperlink, url, applet などという科学技術語が多く載っている。また、意味も斬新で a やtheの説明など、あっと驚くようなものがある。 

○日本の英和辞典で不満なのは、覚えさせる工夫が全くないこと(つまり、単語は一回引くだけで完全に覚えられるだけの情報、語源とか、ぴったりくる用例などがない) リーダースがよいのは、語源説明が非常に短いがついているため、新語を覚えるのに非常に都合がよい。 辞書編集者に言いたいのは、単語というのは、頭にいれといつでも出せるくらいにならなければ実用にならない。一度引いたら、二度と引かせない、というくらいの、気迫を持って辞書を編んで欲しい。 用例の面でスペース上の制約があるのは理解できる。そのとき、良いのは、上記のバイト誌とかTime誌などの全文記事である。なかなか、覚えられない単語はこれで全文検索を行うと、自分にとってぴったりくる用例が必ず見つかる。5年分のTIME誌に数度の頻度でしか出ない単語はおぼえられなくても納得する。

○日本語による類語辞典がないため、そのかわりとして、英和辞典を使用している状況であるが、みなさんのご友人に日本語研究者がおられたら、なんとかしていただくようお願いしてください。とりあえず、最新の英語版Rogetを和訳するという手はどうでしょうか。とにかく、概念辞書がないのである。あったとしても、お粗末なものしかない。

○ちなみに私の翻訳環境は、電子ブック3台 リーダース(pc版も)、EB科学技術大辞典、日本大百科事典CD-ROM ブリタニカ、雑誌バイト9年分のバックナンバー、タイム誌90-95、インタープレス135万語大辞典、OED2

○電子ブックをのぞいては、その都度適当なものを使用している。最近、学習辞典をそのままCD-ROMで出版しているがその意味は?少し、安易にCD-ROM化すすぎるとおものですが。小学館ランダムハウスも紙版をそのままCD-ROM化しているだけ。いったいなにを考えているのか。編集時に収集したコーパスをすべて網羅して、最低4-5巻のボリュームにして発行すべきではないか。Time誌とかEconomisit誌とかと契約して、最新の用例を取り入れれば、読むのが楽しくてしようがない辞書になるのに。また、コピーを自由に許して、ユーザの利便を図ること。OEDを見よ。日本の辞書会社のユーザの利便を省みないという定評は当分揺るぎそうもない。

また、最近は学習辞典のようなふけばとぶような、辞書まで猫も杓子も、CD-ROM化しているが果たしてその利便は?

実務者向けの、ツールをなんとかしてほしい。切実な祈りである。検索する分量は、日に日に増えるが、これをいちいち辞書を引いて調べていたのでは話にならない。ことばは電脳上にあったのではつかいものにならず、脳のなかにprintしてこそ芽が出るのであることにご理解を。

ぐちばかりになりましたが、新加入のあいさつです。

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From: yasuko Okabe

Subject: [lex] 日本語の類義語辞典など {01}

Date: Sat, 30 Jan 1999 00:32:13 +0900

奈良女子大学の岡部(国語学)でございます。

Thu, 28 Jan 1999 21:13:57 +0900 noboru inoue様 wrote:

> ○日本語辞書に発信型の辞書がない。すなわち、Rogetの名を関して続々出版される
> 類義語で満足なものがまったくない。最近出た、三省堂の漢字引き逆引き大辞林が
> かろうじて渇をいやす。
<勝手ながら中略>
> ○日本語による類語辞典がないため、そのかわりとして、英和辞典を使用している
> 状況であるが、みなさんのご友人に日本語研究者がおられたら、なんとかしていた
> だくようお願いしてください。とりあえず、最新の英語版Rogetを和訳するという手
> はどうでしょうか。とにかく、概念辞書がないのである。あったとしても、お粗末
> なものしかない。

たしかに日本語研究の分野では、シソーラスの概念や その構築の必要性の認識などが やや立ち後れているように、わたくしも感じます。日本語教育の分野ではまだいくぶんマシで、日本語学習者向けの類義表現辞典の類が少しあるようです。

『類義語活用辞典』小学館
『類義語使い分け辞典』研究者
『類義語例解辞典』東京堂出版
『日本語学習使い分け辞典』講談社
『日本語使いさばき辞典』あすとろ出版    などなど。

おそらくこれらもお手にした上でなお お粗末だ・満足できない というお話だとは思いますが、念のためご紹介いたしました。(念には念を入れて、一々についての概略も添えようかと思ったのですが、残念ながらただいまこれらの辞典類は亭主の職場の研究室にありまして、すぐに手に取ることが出来ません…)

なお、これらのものは、日本語教育の盛んになってきた'90年代以降に出されたものですが、日本語のシソーラスについては、実は '60年代半ばにいち早く、国立国語研究所のほうから「国立国語研究所資料集6」として『分類語彙表』(秀英出版)というものが出ております。分類項目は大きく「体の類・用の類・相の類」(それぞれ体言・用言・相言)と、さらに「その他の類」として接続詞や感動詞などが挙げられており、かなり広汎なものが収められています。網羅的ではなく、採録語がかなり恣意的な印象を受けるものの、使いようによっては有益であるかもしれません。しかしこれまた残念ながら秀英出版がつぶれてしまったため、おそらく現在入手不可能であったように記憶しております。'93年12月にフロッピ版も出されておりますので、場合によってはこちらをご覧になることのほうが、実現は容易かもしれません。

以上、取り急ぎ…何かのご参考になりましたら幸いです。

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岡部 泰子
奈良女子大学 人間文化研究科・助手
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From: "noboru inoue, mr"

Subject: [lex] RE: [lex] 日本語の類義語辞典など {01} {01}

Date: Sat, 30 Jan 1999 01:11:56 +0900

岡部様

いろいろお教えいただきありがとうございます。とくに、秀英出版のものはずいぶん便利だったらしい(本田勝一氏がどこかでそういっていました)ので、どんなものかと思っていたのですが、思いがけず、これに言及されておりうれしかったです。

下記に紹介されているものは一応試してみましたが、今少しものたりません。下記が案外有用です。

●研究社 新漢英字典 大力作
●講談社 日本語大辞典  用語を少し刈り込んで欲しい。和英辞典にもなる。

それより、Rogetから日本語を想像するのがよいかもしれません。

ところでなぜ日本語の類義語辞典がお粗末なのかについて、本日下記文章をべつのMLにてpostingしました。

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類義語辞典についてのべるにあたって、白川静氏の「漢字古訓抄」を紹介しなかった。その論述の途中、おもう、という漢字について述べた部分を抜粋して紹介する。 

いわく。

「はかる」とよむ漢字は[名義抄]にあげるもの約九十字[諸橋、大漢和]にあげるものは百三十余にもおよんでいる。・・・「とる」は百七十字、「つく」は二百字にもおよんでいる。このことは、漢字を国語表記の方法として用いるわが国において、かなり重要な問題を含むものであるようにおもう。・・・「おもう」を示す漢字は五、六十字にも及ぶが、国語には「おもふ」の一語しかない。しかし「おもふ」はまた、それゆえに無限定的な思惟情感の全体であることができた。そして、必要なときには、「念ふ、想ふ、懐ふ、憶ふ、以為ふ、惟ふ」など、それぞれ限定的な用義の字を選択することができた。しかし、今のわが国の国語政策では、われわれは「思ふ」こと以外には、「念ふ」ことも「懐ふ」ことも「憶ふ」ことも、みな制限されている。しかも、念願、想像、懐古、追憶することは許されているのである。しかしすでに訓読みを失ったこれらの字を、学習者はどのようにして理解することができるというのであろうか。

白川静「文字逍遙」平凡社より

こどもの活字離れを嘆くまえに、日本語無政策を嘆くべきであった。あるいは、来世紀は日本語を捨てて、終戦直後の志賀直哉の提言よろしく、彼の場合はフランス語であったが、国語を英語にするか?いや、すでにその道を確実に歩んでいるように思う。サー、がんばって英語勉強するか。破たん防止、だの、充てん、だの、自殺ほう助、だの、脳やせき髄、だの、新聞で読まずにすむだけでも気が休まるし。

。。
井上


From: "kawakami yusaku"

Subject: [lex] RE: [lex] RE: [lex] 日本語の類義語辞 {01}典など {01} {01}

Date: Sat, 30 Jan 1999 03:18:39 +0900

井上様
>日本語の類語、同義語についてのご意見興味深く拝見しております。

 もうご存じかもしれませんが、同じように英語の翻訳で日本語と格闘しておられる柳瀬尚紀(たしかこの字だったと思いますが、間違っていたら済みません)先生のお考えが参考になるかと思い、メールを差し上げる次第です。

 この方は斎藤秀三郎著「熟語本位 英和中辞典」を徹底的に読破されたそうです。これ以降数々の英和辞典が出たが、日本語のセンスでこれを上回るものはない、と言っておられます。

 「おもう」「とる」「つく」など何十種類もの漢字があるではないか、とのことですが、柳瀬先生は英文に合う漢字をまさに変幻自在にあてはめられ、見事に雰囲気を出されています。あのむずかしいジェイムス=ジョイスを訳された日本語を見てみますと、実に辞書をよく読んでおられるな、と感心します。

 いい意味でことばを手玉にとり、ことばと戯れておられるように思えました。辞書はあくまでも参考で、それから先はひらめきと想像力がモノをいうようです。


From: "noboru inoue, mr"

Subject: [lex] RE: [lex] RE: [lex] RE: [lex] 日本語の {01}類義語辞 {01}典など {01} {01}

Date: Sat, 30 Jan 1999 04:06:49 +0900

かわかみ様

ご意見ありがとうございます。

斉藤本は、まだ完了していませんが、通読をめざしています。前置詞の解説などは私には見事に思え、はしていませんが、英語のよくわかっているたとえば、夏目漱石などのような、あっと思わせる解釈があって楽しい読み物です。

柳瀬氏のFinnegansの役を見ると(まだ通読はしていませんが)、漢字をまさに当てはめているのであり、わたしのいう類義語とは直接結びつかないと思います。たとえば、authorizeされていない読み方にルビをつけ、二つの日本語を一つの漢字であらわす、とか。ちょっと、レベルが違う話だと思うのですが。うまく、いえませんが。(その本を持ち出してきて、具体例をだせば、よいのですが。探し出すのが面倒なので。すみません)

>柳瀬先生は英文に合う漢字をまさに変幻自在(=Finnegansのような原文自体がコトバ遊びだから許される特殊な翻訳だと私は思っています。毒は毒をもって制す、ということでしょうか)にあてはめられ、見事に雰囲気を出されています。あのむずかしいジェイムス=ジョイスを訳された日本語を見てみますと、実に辞書をよく読んでおられるな、と感心します。いい意味でことばを手玉にとり、ことばと戯れておられるように思えました。辞書はあくまでも参考で、それから先はひらめきと想像力がモノをいうようです。

●私の相手にしているような翻訳は、ひらめきも想像力のない(むしろ、あってはならない)レベルです。と、いうふうに認識しています。翻訳は、原著者の頭にある語彙/辞書を使用して翻訳するべきだとおもいます。Joyceは、私の理解では、世界中のコトバに通じておりかつ、語呂合わせとかいろんな仕掛けをほどこしている超文学であり、超訳をもって(跳約、調約、聴約、重約,兆約、張約、腸約、彫約、頂約、懲約、挑約,眺約、喋約、澄約、諜約、凋約などとコトバ遊びをついしたくなります)のぞむしかなく、柳瀬氏も、Joyceの頭にある辞書をもとめて格闘されたと聞いております。斉藤氏の辞書がなぜ優れているかというと、斉藤氏が和漢につうじているからです(日本における英語学者ですから、当然の条件とはいえ)。したがって、漱石が英和辞典をあんだらこうなるであろうようなものの一端が熟語本意、と銘打ってある辞書においても発揮されています。したがって、thinkなどの何でもない用語に、ジャンジャンと踊るような日本語がとびでてきます。そういう意味では、前メールで述べたように(英和辞典を日本語類義語辞典として使う)、最近のコトバは使用されていませんが日本語類義語辞典としても非常に優秀であると思います。

はなしは、変わりますが、予告によると、柳瀬氏が個人で英和辞典を新潮社から出版される時期がまもなくくるとおもうのですが。大いに期待しています。

井上


From: "浅田 幸善"

Subject: [lex] 新潮英和 {01}

Date: Sat, 30 Jan 1999 17:15:36 +0900

この辞典については、昨年の2月22日(日曜日)付けの日本経済新聞の文化欄(p.36)に、柳瀬氏本人が『「読む」辞書を「書く」』というタイトルの文章の中で紹介されていました。(この記事について、あるいはこの辞書について、そのうち誰かがこのMLに書き込んでくださるだろう、と思っているうちに1年近くたってしまいました。多少参考になるかもしれませんので、ご紹介しておきます。)「(フィネガンズ・ウェイクの)単独翻訳を終えてから。通常の仕事には手ごたえを感じなくなっていた。同じくらい手ごたえのある仕事をするとしたら、おそらく単独の英和辞典だろう。」という調子で始まる文です。

ただものではない柳瀬氏の手になる辞典なので、辞典もただものであるはずはなく、たとえば通常の英和辞典ではPという項目では、

1英語アルファベットの第16字、ピー 2 p (P)があらわす音.......

となるところを、『新潮英和(仮称)』では、

「いきなり実例を差し出し、訳語を差し出す。"I'm pleased" , he said, but his lips caught on the *p* and sounded a *b* in its place. (「万福(ばんぷく)の思いだ」と言ったが「ぷ」でつかえて「ぶ」に聞こえた)」

のようになるのだそうです。

kawakami yusakuさんもおっしゃっていた斎藤秀三郎「熟語本位英和中辞典」の例も引きながら、なぜこのようなスタイルをとるか、などを書き記しています。

「英和辞典にかぎらず辞書はたんに引くだけのものではなく、読むべきものだという信念」の持ち主である氏は『新潮英和』も、おもしろいものにしようという意図が根底にある。読んで楽しい英和辞典だ。と書き、『新潮英和』はAからzymurgyに至るまで、実例しか採らない。実物に英語をしゃべらせて、筆者が通訳に当たる。実用的な現場感覚の英和辞典になりつつある。という言葉で締めくくっています。

興味のある方は、図書館で、縮刷版を探して、全文をお読みください。

浅田幸善 (ASADA Yukiyoshi)


From: "noboru inoue, mr"

Subject: [lex] RE: [lex] 新潮英和 {01} {01}

Date: Sat, 30 Jan 1999 18:38:09 +0900

浅田様

貴重な情報をありがとうございました。いつ発売されるのか、来週新潮社に確認します。

柳瀬さんは、Ulyssesも、画期的な新理論のもとに翻訳中でしたが、こちらはもう片づいたのでしょうか。辞書のほう、首を長くして待っています。柳瀬氏には、つぎに、日本語の類義語辞典の編纂もよろしくお願いします。

井上


From: Kazuhiro Sugimoto

Subject: [lex] 新潮英和 {02}

Date: Sun, 31 Jan 1999 23:45:17 +0900

埼玉の杉本です。

1998年1月12日の朝日新聞でも紹介されていました。(読まれた方も多いと思いますが)一部引用しますと、

「柳瀬版英和」をのぞかせてもらった。最初の単語はA。しかし「アルファベットの第一字」などとは説明しない。代わりに Beethoven's Symphony No. 7 in A major <ベートーヴェンの交響曲第7番イ長調>という実例例が付く。これでAがイ音であることと、楽曲の表記法の両方がわかる。最後の単語は zymurgy (醸造学、発酵化学)。実例は、read all the way from aardvark to zymurgy <辞書を最初の頁(ページ)から最後のページ まで読み通す>。実際に読み通した人はニヤリとするだろう。「それを期待したんですよ」和訳にも、脚韻あり、ことば遊びあり。こりにこった仕掛けがあちこちに埋め込まれている。まるで英語の世界のテーマパーク。

「書斎にパソコンを4台並べ、寝て、起きて、書いて、のサイクルが一日に二度。家から出るのは十日に一回」の生活(!)で、語彙数は三万語、今世紀中に新潮社から出版の予定だそうです。

私もこれを読んだときから出版されるのが待ち遠しくてなりません。


From: "noboru inoue, mr"

Subject: [lex] RE: [lex] 新潮英和 {02} {01}

Date: Mon, 1 Feb 1999 00:38:45 +0900

井上昇です

杉本さん、柳瀬英和の出版情報ありがとうございました。

今世紀中ということは、2000年末までには、ということですか。氏の奮闘ぶりを読むと、まさかJoyce語でかかれているんではないだろうな。。。。まちどおしいような、しかし、これが出版されると、しばらく仕事が手に着かないのでは。。。と怖くなったり。。。